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世界を背負う

 日記がパタンと閉じる音が耳に痛いほど響く。

 綴られていたのは、ゲームマスターの奮闘の日々。

 内容から察するに、彼は既に——。


「……俺、まぁまぁ戦犯だったりする?」


 そう呟いたジークと目が合う。

 珍しく眉尻が下がったその面に、俺は思わず——


「ふはは! なんだそのクソ情けねぇ面」


 ——笑ってしまった。


「は?」

 

 バンシーちゃんの腹に身を任せ、寝転がる。

 そして、未だに困惑顔のジークを指差した。


「お前が狙撃手のジョブだったとしてもそこまで役に立ってねぇ」


「どうした? 人を励ますのは初めてか?」


「そして俺も大して役に立ってねぇ。これまでの勝利はだいたい砂漠の女王のお陰だ」


 俺の言葉に、ジークが口籠る。

 だってそうだろう。

 俺たちの勝利は、敵のミスと強大な味方のアシストのお陰だ。


「十傑だけじゃ、何もできねぇんだよ」


「……そりゃ正論だけどさ」


「俺たちは英雄の形をしてない。10人じゃ世界は背負えない……でも、ゲームマスターは俺たちだけに戦う力を与えたわけじゃないだろ?」


 ジークは何も言わない。

 俺の言葉の続きを待っている。


「全人類で背負うんだよ。ついでに仲間に引き入れた魔族にもちょっとだけ代理で背負ってもらえ。そうやって騙し騙しやってくのが十傑流だ」


 それに、確かに世界を任せると言われたのは俺たちだが、彼が信じたのは群れだ。

 人類という群れ。


「俺たちの強みじゃねぇか、群れて責任の押し付け合いだ。程よくやって、程よく背負っていこうぜ」


「いや言い方」


 多少、不満はあれど、納得した表情を見せるジーク。

 そこでようやく俺はムカデ女に目を向けた。


「記憶の断片がどうこう言ってたよな」


「肯定します」


 まどろっこしいのは嫌いだ。

 直球でいこう。


「ゲームマスターを殺したのは、魔女だな?」


 ムカデ女の瞳が揺れる。

 どういう感情を抱いているのだろうか。

 こいつの言う記憶の断片とは、どんな物なのか。


「……肯定、します」


 しばしの沈黙のあと、ムカデ女がこくりと首を縦に振った。


「記憶の断片ってのは」


「魔女:オリジナルからの残滓のようなものです。薄らと戦いの記憶があります。日記にある通り、魔力上限が戦闘ごとに削れていました。最終日に関しては記憶が無いので……これは推測になりますが、最終日のラッシュにおいては貴方達ほどの魔力しか残っていなかったはずです」


 俺たちと同じ魔力量?

 隣のジークも目を丸くしている。


「なんで勝てたんだよそれ。魔女が手を抜いたのか?」


「それは無いでしょう。時間まで猛攻を凌げた理由は……まず、卓越した技量による無駄のない立ち回り。次に——自身の存在を魔力回路に直接くべるという技術があります。強靭な精神力と、薄れる自我の中でも繊細に魔力を扱える集中力が必要ですが……それを、用いた可能性が高いです」


 よくわからん。

 とりあえずゲームマスターがとんでもねぇ奴だったって事はわかった。


「じゃあ魔女は俺たちのゲームマスターの仇って事で良いんだな?」


「肯定します」


「そうかそうか」


 そうなるか。


「ジーク」


「んだよ」


「墓石作れるか?」


 俺の突飛な質問に、ジークが目を白黒とさせる。


「やろうと思えば作れるけどよ……んだよ、ゲーマスの墓建てるのか?」


「おうよ。ただ、場所は少し拘るぜ」


 ぴっと人差し指を立て宣言する。


「魔女をぶっ殺して、あのクソ胸糞悪ぃ館をぶっ壊して埋め立ててやる。そんでその上にでっかくゲーマスの墓をぶったててやんだよ。最高だろ?」


 俺の提案に、ジークが口の端をつりあげる。


「そりゃ最高だな。ゲーマスも天国で大爆笑するだろうよ」


「いや、ガチャ課金システムで搾取を行ったやつは例外なく地獄に落ちる」


「世界救っても消せないレベルの罪なの!?」


 うん。


「じゃあ俺はそろそろ観念して自室に戻る。日記は他の十傑にも読ませてやれよ」


「あいよ。とりあえず鳩貴族さんにちゃんとゲーマスに効いてたよって教えとく?」


「喜びそうだなぁ」


 バンシーちゃんに補助してもらいつつ立ち上がる。

 ついでにムカデ女も回収して、俺はジークの部屋を出た。


 自室に戻ってエリーさんの相手をせねばな。





タカ:ジーク、皆にはもう読ませたか?


ジーク:わかんね。バトン形式で渡ってってるはず


Mortal:俺は読んだよ


鳩貴族:私も読みました


ほっぴー:読んだぜ


紅羽:あたしも


ガッテン:え? 何?


お代官:ああ、すまないな。今は私の手元にある。すぐに渡すとも


お代官:少し感傷に浸ってしまってな


ガッテン:わかりました


スペルマン:え? え?


七色の悪魔:私もまだですね


タカ:もう少し待つべきだったか?


ガッテン:よくわかんねぇけど読んでない組3人でお代官さんのとこ行けば良いんじゃないか?


お代官:それは良い案だ。来てくれ




タカ:こっちはこっちで話を進めるか


ジーク:どんな?


ほっぴー:俺らの強化計画とかじゃね?


紅羽:あー


タカ:いや、それは後でする。ジーク、部屋で話したこと覚えてっか?


ジーク:ゲーマスの墓?


タカ:そうそう。でもよ、墓たてるのに顔も知らないんじゃ話にならないだろ?


タカ:砂漠の女王



砂漠の女王:はあ、何でしょうか


タカ:知ってたんだな


砂漠の女王:そうですね


タカ:どんな奴だった


砂漠の女王:持っていた力の割に平凡そうな男でしたわ


タカ:そうか


タカ:じゃあ墓は平凡なデザインで


ジーク:そんだけ!?!????!????


ほっぴー:やばいだろこいつ


鳩貴族:まぁ私の考察ともズレてませんし……


Mortal:でもベッドは高いやつ買ってたよ


Mortal:寝るなら豪華なとこで寝たいんじゃない?


タカ:む、なるほど


鳩貴族:なるほど、それは良い考察ですね


ほっぴー:鳩貴族さんが謎のスイッチ入っちゃってるな……


ジーク:???「それは良い質問ですね」


紅羽:豪華な墓石って何だ


タカ:わからん。フリルとかつける?


紅羽:冒涜にも限度があるだろ


ほっぴー:ゲーマス〜〜! 見てるか〜〜! こいつBANしてくれ〜〜!


鳩貴族:私の考察ですと、やや中二チックな飾り付けを好むかと


タカ:なるほど。じゃあ、めっちゃでかい剣を地面に突き刺す感じで、持ち手の部分に良さげな帽子を引っ掛けるか


ジーク:どういうコンセプトだよ


鳩貴族:まぁまぁ気に入ると思いますよ


タカ:どうせ後世になったらめちゃくちゃ美化したイラストとか出回るだろうし、墓でキャラ付けしとこう


ほっぴー:墓でキャラ付けって何?



ガッテン:ちょっと泣きそうになりつつ掲示板開いたらこれですよ


七色の悪魔:ははは。十傑らしいですね


スペルマン:少しはブレて


お代官:色々言いたいことはあるが……まぁ、うむ。墓を立てて弔おうというのは、私も賛成だ


タカ:ちな場所は魔女の館。仇ぶっ殺して住まいぶっ壊した上に建てる


お代官:えぇ……


Mortal:じゃあ魔女に剣を突き立てた像とかは


鳩貴族:ほう?


紅羽:それは


ジーク:ありかも


タカ:確かに。それなら現地人にも言い訳ができるな。魔女討伐記念碑とかなんとか言って


ジーク:っしゃ、じゃあその方向で墓石作っとくわ


砂漠の女王:素材はわたくしの砂岩を使うと良いでしょう


ジーク:お?


砂漠の女王:なんですか


ジーク:いやぁ、なんでもないけど?


砂漠の女王:砂岩に爆薬を混ぜておきましょうか?


鳩貴族:素直じゃないですねぇ



 鳩貴族が退室しました。



ジーク:BANで草


ほっぴー:ゲーマスリスペクトやめろ



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