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幕間:領域トラブルバスターズ③

「おい、これをどこで手に入れた?」


 俺が詰め寄ると、店主はニヤリと笑い言った。


「いくら上客でも、仕入れ先の情報は売れないねぇ」


 さっきからその徹底したロールプレイはなんなんだ。

 少し身をかがめ、視線を合わせる。


「俺はここに護衛目的で来てる。先日、襲撃事件があったからだ。そんな中で目にした、魔法が施された本を見逃すわけにはいかない。出所を教えてくれ」


「……」


 店主の眉間にしわが寄る。

 ひょっとしたら襲撃事件は初耳だったか。


「お客さん、本島から派遣された人?」


 本島?

 ……領域内部の事か。


 掲示板でたまに使われる用語だ。

 領域民は使用しないものと思っていたが、そうでもないのか。


「俺は領域から派遣されてきた者だよ」


「自警団かな? それとも……十傑?」


 なんなんだ、この女児は。

 情報屋でも兼業してんのか?


「黙秘させてもらうぞ」


「バラしてるのと一緒だね、それじゃ」


 いやマジでなんなの? この子。


「じゃあ特別に教えてあげる。それは、何の変哲もない、会社勤めだったであろう民家にあった本だ。お客さんが危惧するような事は何もないよ」


 そんなわけがない。

 いや、あるのか?


 横のアルザに視線を向ける。


「僕の知識では……そうだね。魔を帯びた道具くらいなら、魔法のない世界でも、偶発的に発生する可能性はゼロじゃないよ。これがそうだとしたら……僕らは今、何の利益もない奇跡を見せられているって事になる」


「なるほど……何にせよ手元に置いておくべきだな。おい、その本を売ってくれ」


「はい、毎度ありぃ!」


 声量がすごいな。

 呆れつつも、料金を店主の手に乗せ、本を持つ。


「じゃ、危ない時は大人を頼れよ」


「そりゃもちろん!」


 良い笑顔だな。

 強かさはあるみたいだからそう心配することはないだろう。


 男児たちが抱えてきた本の量は、明らかに異常だったし、今購入したこの本も……


「重いな。アルザ、理由わかる?」


「ああ。ページ数が足りないから加えたんだろうね」


「……」


 こんなもんを運ぶんだから、彼ら彼女らにもそれなり以上の戦闘能力がある。

 いざって時に俺たちを頼ってくれるなら他は放任だ。

 

 その後、奥まで出店を回ったが、特に興味をそそられる物が無かったので、足早に西川さんの待つ居住区へ向かった。


 しばらく進むと、ベンチに座る西川さんが見えてきた。

 周囲を、他の住人らしき者たちが囲んでいる。

 表情からして、特に物騒なことが起きているわけではないようだ。


「西川さん、お待たせしました」


「いえいえ。お構いなく……ああ、皆さん、彼はジークさん。後ろの方がアルザさんです」


 比較的高年齢の男女数人がこちらに会釈する。


「護衛として派遣されたジークです。気になった事があれば随時相談してください」


「あらぁ、頼もしいわねぇ」


 遅れてアルザが続ける。


「えーと、僕はアルザ。敵がいたら倒すけど、相談は乗りかねるかな。感覚や価値観が違いすぎるだろうし」


 色々と正直すぎる宣言に、皆が困惑した表情になる。

 そのまま変な空気が固まる前に、西川さんが口を開いた。


「紗子さん、不審なものを見たんでしょう? ジークさんにも同じ話をしてあげてください」


「あぁ、そうだったわね。聞いてくれる?」 


 西川さんに言われ、お喋りが激しそうな雰囲気の中年女性がこちらに寄ってきて話し始める。


「浮かぶ骸骨を見たのよ、あたし!」


「浮かぶ骸骨?」


「そうそう! 農地の方までふわーっと飛んでいって……あれは、そうね。偵察をしてるみたいだったわ」


 敵側の背後に魔族がいるのか。

 だとしたら、そいつは魔王軍の残党に違いない。


「貴重な情報ありがとうございます」


「いいのよぉ、守ってもらうんだからこのくらいの協力はしなきゃねぇ」


 横のアルザに耳打ちする。


「浮かぶ骸骨に覚えは?」


「その程度の偵察用眷属なら初歩的な死霊術で作れる。流石に絞り込めないな」


「そうか」


 カーリアちゃんに聞いても同じ言葉が返ってくるだけだろう。

 今は劇的な改善は期待できない。


 地道にここを見張り、守ることだな。


「西川さん」


「はい、なんでしょう」


「あ、一応機密に関わりそうな話なので皆さんには下がっていただいて……」


「皆さん、ご協力お願いします」


 西川さんの言葉に、ぞろぞろと居住区の奥へと住民たちが帰っていく。

 このおっさん、意外にカリスマがあるのかもしれない。


「カーリアちゃんの現在の配属場所ってわかります?」


「ああ、なるほど。そうですね……確か、農地C区だったような。今回の一件の伝達次第では急遽こちらに配属される可能性もありますが……もしそうする予定があるのならば、私は反対です」


 反対?

 見張りと調査をカーリアちゃんと交代制でやれたらいいなと思っての発言だったけど、反対か。


「理由を教えていただいても?」


「襲撃者の狙いが、ここに戦力を密集させて、他の農地を襲うことにあるかもしれないからです」


 なるほど。

 確かにそうだ。カーリアちゃんまでここに呼ぶのはヤバいな。


 というかもっと問題があるな。


「全体的に警備を増やさないとヤバいですよねそれ」


「……まだ、ちょっとした隣人同士の揉め事で済む可能性も残っていますから」


「浮かぶ骸骨の情報が無きゃ、俺だってそう思ってましたよ」


 西川さんが少し首を傾げた。


「いいですか、仮にその骸骨が襲撃者によるものだとして、二つの可能性が提示されるわけです」


「ほう。それは……」


「一つ、魔王軍の残党が背後にいる。二つ、同族の骸を冒涜してでも略奪を行いたがっているヤバい奴がいる。二つの内どちらだろうと、今の警備状況じゃ対応できないレベルの悪意だ」


 紙に記した携帯式の掲示板魔法陣を起動する。


 早急に報告しなければ。




ジーク:大至急、大至急


ジーク:お代官さんいる?


ジーク:七色の悪魔さんでも可


ほっぴー:俺じゃ悪いか?


ジーク:お前でもいいや。今農地A区にいるんだが


ほっぴー:おう、例の件だろ。把握してるぞ


ジーク:背後に魔王軍の残党がいるかもしれん


ジーク:それか、自力で魔術を扱えるようになった人間


ほっぴー:そりゃまずいな


ジーク:何人か他の区域にも送ってくれないか


紅羽:安静期間も終わってるし、いけるぜ


七色の悪魔:すみません、今確認しました。私も行きます


ほっぴー:え? 仕事の穴でかくね?


七色の悪魔:守る事なら得意なジョブですので、有事の際に動かないわけには


ガッテン:メインタンクなら俺がいますよ


お代官:うむ、把握した。急を要する事態のようだな


お代官:農地A区がジーク、農地B区がガッテン、農地C区はカーリア続投で、農地D区に紅羽、七色の悪魔、工業区に


お代官:工業区はどうする?


紅羽:あたし一人にして七色の悪魔さん派遣すりゃいーじゃん


お代官:安静期間をあけたばかりだからな、少し不安だ


紅羽:うーん


スペルマン:一応、行けなくもないですけど


お代官:む、補助系のスペルマン君と鳩貴族君は……困ったな


ほっぴー:俺んとこのゴブリン軍団貸すぞ


お代官:一応、工業区の住民は戦闘能力が高い者が多いし、いけるか?


ほっぴー:スペルマンが補助やって鳩貴族さんの回復&援護とばしゃかなりの戦力になるはず


お代官:ではそれでいこう


スペルマン:了解ー


鳩貴族:わかりました



ジーク:お気づきだろうか、ある男がいないだけでスムーズに会議が進行、終了していることを……


ガッテン:あっ


ほっぴー:本質情報きちゃったな


お代官:うぅむ

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