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デート(?)


 無難そうな食堂で、サンドウィッチをかじりながら、今日の計画を考える。


 資料室に入り浸った時期があるお陰で、観光スポットの情報には困らないが、地元民であるエリーさんがそれを楽しめるかどうか。


 そんな事を考えている内にエリーさんが口を開いた。


「この後、どうしましょうか?」


「……決めてないですね。そっちに任せます」


 我ながら情けない。

 だが、変に知ったかぶろうとするよりは、余程マシだろう。


「そうですね。じゃあ、前から行きたかった店があるんですけど……良いですかね?」


「おお、ちなみに何の店です?」


「骨董店です」


「へぇ、いいですね」


 異世界の骨董か。なかなか面白そうだけど……エリーさん、意外と渋い趣味してるんだな。



 食事を終え、エリーさんの案内で骨董店に行く事になった。

 

 そこそこ品位がありそうな店が立ち並ぶ通りの一角に、その店はあった。


「ここです」


「おおー……」


 日当たりはそんなによろしくないな。

 骨董の保存状態の事を考えるとその方が良いのか?


「いらっしゃいませ」


 入店するなり、白いお髭のおじさんがにこやかに話しかけてきた。


「店主のバッツです。本日はどういった物をお求めで?」

 

「そちらの壺、ツケでお願いできますか」


「は?」


 急にとんでもない注文をし始めたエリーさんに、唖然とする。

 いやいや、何?

 ギルド員ってそんな儲かるの?


「……」


 エリーさんに訝しげな視線を送る店主。

 そりゃそうだ。

 なんとかフォローせねば。


 俺が口を開きかけたところで、店主の表情が一変した。


「……あぁ、スルーグんとこの。奥は勝手に入ってくれ」


 先ほどまでマダム受けしそうな柔和な笑みだったのだが、酒屋でよく見るジジイの顔つきに変化した店主。

 表情一つでここまで印象が変わるか、と驚いている間にも会話は進む。


「バッツさん。駄目ですよ。一応手順通りにやってください」


「めんどくっせぇのぅ……んんっ、お客様、では奥の客間で書類にサインをお願いします」


「はい。行きましょう」


 エリーさんに手を引かれ、困惑しつつもそれに従う。


「おぉい、その連れは何じゃ」


「え? えぇと」


「お前さんは答えんでいい。おい、お前」


 店主と目が合う。

 まいったな。俺が何者か? うーん。


「十傑、兼、魔女スレイヤーだ」


「魔女ぉ? ハッ、それにしちゃ弱そうじゃ」


「んだてめぇ」


 俺の睨みも何のその、視線をふいと外す店主。

 

 腑の落ちなさを覚えつつも、俺はエリーさんと店の奥なる場所に入った。




 簡素な扉の先にあったのは、階段。

 手すりが無いことに不安を覚える程度には雑な作りのそれを下る。


「着きましたー」


「おお。すっげ」


 こう言うと語弊が生じるんだろうが……すごく、魔女っぽい。


「魔道具の店か」


「はい、そうです! 気に入るかな、と思いまして」


「めちゃくちゃワクワクする」


「それは良かったです!」


 いやテンション上がるだろ。

 これだよこれ。ザ・異世界って感じの。


 今んとこ、店に関しては、なんか地方都市に旅行に来たレベルのものしか体験してないからな。

 

「……いら、しゃい」


「うお!?」


 気付けば、隣にズタ袋を被った男が立っていた。

 首はあらぬ方向に曲がり、腕や脚も同様。

 通常の人間であれば立っていられる状態ではないが、その男は確かに立っていた。


「……エリーさん。この人は?」


「裏の店主、のような方ですね」


「そうか。早速なんだが、短剣に魔法刻んでるようなやつないか?」


「は……はー……ッ、あッ」


 時折、痙攣しながら荒い呼吸音を漏らすズタ袋男。

 

「エリーさん。この人って耳が遠かったりします?」


「いえ。会話が不慣れな方なだけです。気長に待てば教えてくださると思いますよ」


 そっかぁ。

 俺、殺されちゃうのかと思っちゃった。


「ぐギ、ひ……ィ……」


「右の棚にあるみたいですよ! 良かったですね!」


「あはは。ありがとうございます」


 帰りてぇーーーーーーーーーーーー何? 歯軋りにしか聞こえなかったんですけど。


 右の棚に向かおうとしたところで、肩を掴まれる。


「ギひィ……ウーッ、ウゥ……」


「すいませんでした」


 とりあえず謝罪しとこう。


「ひ……ダ、り……」


「……」


 無言でエリーさんに視線を送る。


「えぇと、左だったみたいです!」


「うん。次から気をつけてくださいね」


「はい!」


 俺達が、左列の棚を見に行こうとすると、その後ろをヘドバンしながらズタ袋がついてくる。

 愉快なパーティーだなぁ。


「あ、ありますよ。投げナイフですねこれ」


「おっ」


 今朝話したばかりの物だな。


 タイムリーだし、買ってみるのも一興か。


「えぇと……錘の呪いナイフ?」


「着弾すると重量が増すナイフですね」


「うーん」


 当たり所次第でより深手を負わせられる、か。

 弱くはないけどしょせん小道具って感じが抜けないなぁ。

 

「もう一個のこれは。幻痛のナイフってやつ」


「着弾した時に、相手の痛覚が鋭くなります」


 嫌がらせじゃん。良いね。


 値段は……消耗品にしちゃ高すぎる。

 うーん、それならもっと自分の手札には無い新規のアイテムが欲しい。


「あっ! タカさんと相性が良さそうな物がありますよ!」


 エリーさんがそう言いながら、妙なネジっぽい物を持ってきた。


「それは?」


「呪詛の舌ピアスです」


 わぁ、素敵な名前。


「それと俺が相性が良い、とは」


 俺のような聖人とはかけ離れたネーミングのはずだが。


「思考誘導効果です。ブラフや騙し撃ちと相性が良いはずですよ」


「……その効果は、どのくらい効くんですか?」


「初見はまず騙されるでしょうね。ちょっとでも違和感を持たれると厳しいですけど」


 ふむ……強ぇなぁ……。

 でもヒールの時にピアスがどういう判定になるのかわかんねぇんだよな。


「キープで」


「はい!」


 あっ、ズタ袋くんのヘドバンが激しくなった。

 首がもげそうで不安になるな。


 ズタ袋くんを視界に入れないようにしながら、棚の物色を再開する。


「む、威圧の仮面……」


 名前的には、レイドボスが俺達に対して放ってきたデバフを使えるようになる感じか?

 ……格下相手に強く出れてもなぁ。


 いや、待てよ?


「異なる歯車の組み合わせってこういう事か?」


「どうしました?」


「いや……」


 とりあえず全商品をチェックしよう。

 そこから構築を考える。


 腐ってもゲーマーだからな。

 そういう作業は好きだし得意だぜ。


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