殺意の矛先
タカ:SAN値ゼロの皆さーーーーーーーーん!
ガッテン:は?
ほっぴー:殺すぞ
ジーク:SAN値ゼロはお前じゃい!
タカ:いやなんか俺もお前らも正気じゃないらしいっすよ
ほっぴー:誰が言ってたんだそれ
タカ:ムカデ女
ほっぴー:へぇ
ジーク:狂ってるの定義が曖昧なので何とも
鳩貴族:その割には冷静さを保ちすぎな気はしますが
七色の悪魔:いえいえ、正気でない事と冷静である事は両立しますよ
ジーク:そこはまぁSAN値ゼロのキャラロールやった事あるなら分かる
ほっぴー:冷静なら特に困る事もないだろ
タカ:まぁそっすね
鳩貴族:では結局何を伝えたかったんです?
タカ:共有しときたい情報ではあったので
紅羽:ちょっと待ってあたしもか?
タカ:さあ……? ほぼ全員、みたいな言い方だから例外は数人いるのかも
ガッテン:じゃあ俺は正気じゃね
タカ:ほんとぉ?
タカ:まぁいいや、とにかく確実な情報がもう一個あってだな
ほっぴー:ふむ
タカ:モータルはめちゃくちゃ正気らしいので頼りにしていこうな。以上
ほっぴー:えっ
ジーク:マ?
ガッテン:怖すぎる
タカ:俺そろそろ寝るから! じゃあな!
ほっぴー:こっちはお前の怪談話が怖すぎて眠れねぇんだが
七色の悪魔:より適切に言うとサイコホラーですかね?
ジーク:そこの細部はどうでもいいから……
「これでよし」
恐怖を伝播させて満足した俺は、毛布にくるまり眠りに落ちた。
目が覚める。
いやはや自分の身体の健康さには驚かされる。
「いやー、早寝早起き……あれ?」
窓の外は暗闇。
夜中に目が覚めるとは。
「不健康になってしまったのか……?」
二度寝するには身体を起こし過ぎてしまった。
歩けば気分も変わるかと思い、ひとまず自分の部屋を出る事にする。
「……」
廊下は静寂と冷気で満たされている。
そこを、ひたひたと足音を立てながら進む。
こういうの、何というか。
お泊まり会で自分だけ起きてしまった時の感じに似ている。
というか状況だけ見ればそれそのものか?
「おはようございます」
「うおッ!?」
微かにアルコール臭の残る客間に入った瞬間に声をかけられ、小さく悲鳴を漏らす。
ムカデ女か。ビビらせやがって。
「お前こんなとこで寝てたのか」
「暇ならお酌でもしろ、と言われまして」
魔女に酒をつがれる聖女か。他の聖職者が知れば卒倒間違いなしの光景だな。
「何故ここに?」
「さあ。なんでだろうな」
ムカデ女がこちらをじっと見つめてくる。
なんだよ。
「分析しましたが、睡眠を取りすぎなように思います」
「いつ徹夜させられるか分かんねぇ世界なんだから、寝れる時に寝るのは当然だろ。取りすぎなわけがあるか」
「ふむ」
再びムカデ女がこちらをじっと見つめ始める。
分析とやらを再開したんだろう。
一応、俺の中にいたわけだから、過度に的外れな事は言わないだろうが……。
そういやコイツは俺をどこまで見たんだろうか。
「なぁ」
「表情筋の動き、文脈、その他様々な情報から貴方の考える事を正確に推測できるくらいには」
うわぁ。きめぇなぁ。
「……」
俺の心中の罵倒を無視したのか、読み取れなかったのか、ムカデ女は分析を再開した。
「悩みですか」
「へぇ」
「まともだった頃の残滓にしがみついているだけですよ。捨てましょう」
悩み、か。
なんの事だろうな。思い当たる事は……ゼロとは口が裂けても言えない。
「殺す度に、殺す対象が増える。どこかで止めるべきでは」
「……」
「魔女は殺すべきか否か」
「どうすべき、じゃねぇ。魔女は殺す」
「ではその次は?」
「何がきても殺すんだよ」
「それでいいんですよ」
ムカデ女がこくりと頷いた。
「私はそれを手助けする為の存在です」
「ああ、そう」
ムカデ女にづかづかと近付き、その首を掴む。
「ただ判断力は衰えちゃいねぇからな」
「……何か、私は、カンにさわるような事を?」
この場で、あの発言で、俺がイラつく事を考慮できないはずがない。
なら何故、お決まりの激昂する可能性云々を言わなかったのか。
先ほどの発言が、ムカデ女の意志ではなく魔女本体から誘導されての発言だからだ。
魔女は、俺の殺意を利用しようとしてる。
全容までは掴めないが……。
「すみ、ません。少し睡眠を取ります」
「ああ、俺もそうするよ。いきなり首掴んで悪かったな」
「いえ……」
分かりにくい罠を張ってやがる。
だが俺は正気ではないらしいからな。そこを突かれれば容易く利用されるだろう。
……。
「ムカデ女」
「はい」
「お前は……」
罠を分かった上で言ったのか?
分かってるから、俺が気付けるような場を用意したのか?
少しは、信用していいのか?
それとも、俺がそう思ってしまう時点で魔女の策にはまってるのか?
「私は一度、言いました」
「……あぁ?」
「彼の話をよく聞くべきです」
モータルか。
確か、アイツは……
こいつを殺す事を躊躇ってた、か。
「チッ、少しは信用してやってもいい」
「ありがとうございます。サポートがしやすくなります」
「少しだ。まだ、妙な真似すりゃ一発で殺処分になるレベルの信用でしかないからな」
「善処します」
何をだよ。
俺がそうつっこむより先に、ムカデ女の目が閉じた。
……寝入りが良い事で。
客間を後にし、部屋に戻りながら考える。
俺はいつの間にか殺意の矛を振り回すことに躊躇がなくなってた。
魔女はこれを利用する気なんだろう。
ひょっとしたら、罠というよりは……自分が死んだ後も、理想の追求が終わらないようにするための保険かもな。
「……クソ」
ダメだ。思考が止まる。
まずは魔女を殺さねぇと話にならない。
いや、ダメだ。止めるべきじゃ……だが、俺がこれ以上考えたところで意味は……。
俺はベッドに転がり込むと、思考を強引に断ち、目を閉じた。