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初手ギャンブル

まずは二話まで投稿。

 

 あの後、俺は遠のいてしまいそうな意識を無理やり叩き起こし、玄関のドアに鍵をかけ、その他の窓等の鍵もきっちりロックされている事を確認した。

 そして現在、俺はゴブリンの死骸を前にただただ佇んでいた。


「何だよ、コレ」


 先程まではロックの確認作業に没頭する事で封じ込めていた恐怖、不安、そして――好奇心。

 それらがむくむくと首をもたげ始めていた。


 ゴブリン。そう、ゴブリンである。

 通常、この世界に存在する筈の無い、想像の産物。空想の世界の住人。

 だが、その死骸は確かに此処に在る。

 幻覚、幻聴、ソレを疑おうとしても、漂ってくる嗅いだ事等あるはずも無い濃密な血の臭い、そして獣とも人ともつかぬ酸っぱい様な悪臭、それらが強烈に、これが現実であるという事実を俺の脳に叩き込んでくる。


「テロリストの生物兵器……か?」


 ようやく搾り出したのはそんな推測。

 現状考え得る推測の中では一番妥当な部類に入るのでは無いだろうか。

 一旦その線で考えてみるか。


「全国区で同時多発的にテロが起こっていたのはコイツらを一斉に放ったから、か?」


 いや、もしかすると下水道等で数を増やし、一斉に地上に這い出て暴れ始めたのかもしれない。

 この生物は、ゴブリンをテーマに作られているという事に間違いはあるまい。

 ならばゴブリンの代名詞とも呼べる、繁殖力もかなりのモノなのでは無いだろうか。今街に出れば、エロ同人も真っ青な展開が始まっているかもしれない。


「結局やる事は変わらない、か」


 外に出ない。これ以外に取れる行動は……


 そうだ、一応警察に電話をすべきか。

 こういった死体のサンプルだって必要としているはずだし、此処よりももっと安全な場所に保護して貰える可能性もある。

 俺はスマホを取り出すと、警察へ電話をした。









「後日回収に伺うので今は自宅で待機、ね」


 俺のように通報してくる人は多かったらしく、何やらバタバタと慌しい音が此方にまで聞こえていた。

 それに、こんな貴重とも思えるサンプルを「後日」なんて言うぐらいなのだから、警察も今回の事件の対応に追われているのだろう。


 そこでふと俺は、ラインに数百件近い通知が溜まっている事に気付いた。


「大半はクラスのグループか。げ、薫からも数十件……忘れてたな」


 トークルームを開こうとすると同時に、電話が入り、反射的に受諾ボタンをタップしてしまった。


「……あー、もしもし」


『もしもし!?やっと連絡ついた……。さっき急に電話切ったけど、何だったの?』


「玄関の鍵かけ忘れてないか確認しに。俺もだいぶ慌ててたからな。反射的に電話切ってその場に置き去りにしてったんだよ」


 俺は薫を心配させない為に嘘をついた。

 第一、ゴブリンがどうこう言った所で徒に混乱を招くだけだ。


『……それにしては応答が遅かったような』


「実際の所、玄関に鍵がかかってなくてな。そんで慌てて他の所もちゃんとかかってるか入念に確認してた。すまん」


『別にいいけど。はぁ、なんだ。無事ならいいや』


「ああ。後、外には絶対に出るなよ。多分、この混乱はもう数日か続くと思うから、それまで居させて貰うんだ。いいな?」


『そんなに大事おおごとになってるの?』


「大事だ。生物兵器が使われたなんて情報も出てる。絶対に出るな」


『生物兵器?ああ、ツイッターで出回ってるコラ画像?大丈夫でしょ別に……』


「とにかくだ。絶対に出るな。ああそうだ、そっちの親御さんに代わって貰えるか。電話越しだが数日間お世話になりそうだし挨拶を……」


『なんでそんなムキになってんの。うざ』


 頑固な妹め。

 アレ・・に襲われ、その恐ろしさを身をもって知った以上は薫に危険な野外を出歩かせるような真似は絶対に出来ない。


「俺はお前が心配なんだよ。それに生物兵器ってのは俺がさっき警察に通報した時に聞いた情報だ。迂闊に外に出たら、最悪殺されるかもしれないんだぞ。頼むから、俺の言う事をきいてくれ。お前に何かあったらと思うと、俺は……あー何と言うか、ホラ、アレだ。悲しいっつーか何つーか」


『……分かった。ただゆうちゃんのお父さんお母さんには私から話しとくから。じゃ』


 そう言うとブツリと電話が切られる。

 けっ、小っ恥ずかしくなって慌てて切りやがったな。俺も恥ずかしかったし好都合だこの野郎。


 というかゆうちゃんって誰だっけな。新しい友達か?にしては聞き覚えがあるが。


 まあいい。

 とりあえず他の通知を消化して二度寝でもしよう。


 既読処理で中身を特に読まずガンガン通知を処理する。

 数秒で作業を終えた俺はひとまず自室へと戻った。









 ガッテン:既読無視とは良い度胸じゃねぇか


 タカ:色々忙しかったんだよ。察しろ


 ガッテン:オイオイオイ、リアルがサービス開始間近だってのにえらく余裕じゃねぇか

      実際どうするよ? お前の方にも石配られてんだろ?


 タカ:お前こんな時にまでゲームかよ。そのゲーム過疎ってる?興味あるわ


 ガッテン:え?過疎どころか世界中の人間がプレイしてるぞ。ちなタイトル「現実」って言うんだけど


 タカ:馬鹿にしてんのかてめえ


 ガッテン:アレ、気がついてないのかお前。とりあえず自分のズボンかなんかのポケット漁ってみ?


 タカ:は?



 俺のゲーム仲間であり、例の十傑の一人であるガッテンに促されるままポケットをまさぐる。

 すると、俺の手の平に何やらゴツゴツした触感が。



 タカ:やべぇ。これ俺らだけなの?


 ガッテン:多分な。先行プレイ特権みたいな?

     で、本題に戻るぞ。どうする?


 タカ:とりあえず十傑グル作れよ


 ガッテン:ツイッターの方で作ってるしよくね


 タカ:まぁいいか。とりあえずガチャる


 ガッテン:これマジ?一世一代のギャンブルに対して躊躇が無さ過ぎるだろ……


 タカ:悩んだって出る時は出る。出ない時は出ない。だがこれだけは言える

    引かなきゃ出ない。まずは引け。話はそれからだ


 ガッテン:思考が運営に調教されきってんじゃねぇか


 うるせぇ。

 俺はスマホを手放して布団の上に放ると、ゴツゴツとした触感の正体である__とある石を、握り締める。

 俺の平均的な握力でも、その石にはピシリ、とヒビが入っていくのが分かる。


 これは__昨晩サービスが終了した「聖樹の国の魔物使い」における、通称チュートリアル石。

 C、R、SR、SSRと、魔物のレア度が四段階に分かれる聖樹の国の魔物使いにおいて、上から二番目のSR魔物が確定で入手できる石である。


 俺がコレ・・を握っている。という事は、先程のゴブリンにも自ずと説明がつく。

 この世界に、ゲームの設定が顕現した。そうとしか思えない。


 閑話休題それはさておき、石を貰ったなら引く。ソシャゲーマーの嗜みである。(聖樹の国の魔物使いは一応MMORPGに区分されるモノだったが)


「おおおおおお!!!!バグってSSR出ろぉおおおおおおお!!!!!」


 そんな咆哮と共に、石が砕け、俺の視界は光で塗りつぶされた。

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