育成ゲー開始
元旦に特典SSにしようとしてボツにしたSSを投稿するのでよろしくな。
内容は「モータルとの初エンカウント」
ブーザーがせっせと素材をバッグに詰めるのを横目に、嘆きの母の死骸を観察する。
「……うぅむ」
装備にするには人間部分がキツい。
仮に作ったとして、後で素材の詳細がバレた時に領域民の正気度が一気に持っていかれそうだ。
「どうしたもんかな」
魔石あるのかなコイツ。
でもこっちの世界の魔物はちょっと仕組みが違うっぽいし無い可能性が高――。
『合成の魔法陣を使用してください』
「おっ、ぜってぇやんねぇぞ」
この感じ、魔女に仕込まれた何かだな。
死骸は焼くことにしよう。そうしよう。
『魔女:オリジナルの殺害に必要な事です』
「お前、魔女の手先だろ。何言ってんだ」
色々言いたい事はあるが……まず、魔女:オリジナルってなんだ。
ひょっとして複数体いるの? 世界の癌じゃん。
『そう定義した場合、貴方もまた癌細胞という事になります』
「あぁ? コラ」
誰が癌だ。俺は癌細胞スレイヤーだぞ。
というか、殺害の意志があるのバレてんのな。
当たり前っちゃ当たり前だが……どうしよう。
『私は魔女により貴方の望みに従うよう定義された人格です。貴方の不利益になる情報を漏らすことはありません』
「信じるしかないってのがまた何とも」
「おぉい、どうしたよ、そんなに独り言して」
「うっせぇ黙って働け」
「ひでぇなぁ」
ブーザーを雑にあしらい、俺の中の癌細胞と対話する。
『その定義でいくならば――』
「うるせぇ。あのなぁ、俺がお前をいまいち信用しきれない理由を教えてやろうか」
『お願いします――いえ、理解しました。説明不足でしたね。すみません』
「勝手に頭の中を覗くな」
『合成の魔法陣を使用すると、その心配も無くなります。貴方は、思考を読まれる状況から一刻も早く抜け出したいと考えていたので、最速で提案を行いました』
思考は読めても空気というか、感情は読めてないのな。
まぁいい。一旦信用するくらいの気分にはなった。
『では早速、合成の魔法陣をお願いします』
「分かった」
指先に魔力が集まる。
掲示板魔法は散々起動したが、合成の方は久しぶりだ。
ガチャを引く余裕はなかったし、入手経路も無かっ……待てよ。鍵開き現象の調査依頼の報酬、まだ貰ってないじゃん。
『手が止まっています』
「はいはい」
そうやって合成の魔法陣を作っていると、ブーザーとモータルが作業をやめて近寄ってきた。
「はぁ、こりゃ複雑な魔法陣だな。何するつもりなんだ? 死骸を転移させて運搬か?」
「タカ、なんかまた乗っ取られてない? 大丈夫?」
「またって何だ。なんやかんや乗っ取りはまだされてねぇだろ。寄生されてるだけだ」
「そっか」
横のブーザーがとんでもない表情になったが、モータルがこれ以上追及しなかったのを見て、口を閉じた。
「…………俺も寄生されるのかなぁ」
されねぇよ。多分。
「さて、できたぞ。こっからどうすんだ」
『嘆きの母は片方の陣に入っていますか?』
「おう」
どうせそんな事だろうと思ったからな。
『では、起動を』
「……いざやるってなると怖ぇな」
俺と横の異形を合成すんだろ?
『正確には内部の私を嘆きの母の死骸に合成します』
「なるほど……?」
現状、魔女に対する勝算はほぼゼロだ。
まともにやり合えば一瞬で壊滅するのは目に見えている。
なら、賭けに出て、勝ちを重ねていくしかない。
「……よし」
奇しくも、俺がゲームを好きだった理由と重なる。
どんな弱者でも、勝ちの目があるんだ。
運ゲーってのは馬鹿にされがちだが、俺はそう捨てたもんじゃないと思ってる。
「――起動。合成開始だ」
俺は学習できる男なので、起動直前に目を瞑った。
ブーザーのえげつない悲鳴を聞き流しながら、じっと瞼越しでも感じる眩しさに耐える。
『――』
身体から何かが抜け落ちていく感覚。
これは、うまくいったか?
「良好な結果です。生きてさえいればもう少しパーツが使えたのですが」
光が収まる。
眩む視界の中、陣の片割れを見る。
「……思ったより人間だな」
「その方が有用であると判断しました」
「そうか」
目を押さえて転げまわるブーザーを無視して、ソイツに歩み寄る。
段々と視界が明瞭になってきた。
所々を百足の外殻が覆っている事を除けば、普通の、白髪の女だ。
「なんて呼べばいい? 癌細胞?」
「その定義でいけば――いや、現在の貴方は違いますね」
「まぁずっと違ぇけど」
「いえ、私と同化している状態の貴方は」
「うるせぇ」
危うく論破されそうになったが、うるせぇの一言で黙らせた。
人間を舐めるな。
「タカ、そいつ誰?」
「こっちで起爆スイッチを握ってるだけの、構造不明の爆弾」
「処理した方が良くない?」
処理するにしても切り離してから、とは思っていたからな。
さて、どうするか。
「お前、生きたい?」
「貴方の希望に沿います」
はぁ?
「あのなぁ、お前さ。仮にも人格を名乗ったんだろうが。AIじゃなく、人を名乗ったんだろうが。なら意志があるだろ。俺がどうこうじゃなくお前はどうなんだよ」
「――」
癌細胞がフリーズした。
「……どちらの、回答が、欲しいのですか?」
はぁ~~~~?
なんだこいつマジで。
「人格じゃないの? なんなの?」
「私は、貴方の望みに従うよう定義された人格――」
「人格なんだろ? 機構とかシステムとかじゃなく。わざわざ人格を名乗ったんだろ?」
「望むのであれば、そう、名乗ります」
「……平行線だな」
クソ、ちょっと揺さぶりをかけてみたが、思ったよりポンコツだった。
これじゃ、めっちゃ魔法使えるSiriみたいなもんだな。
「タカ、どうするの?」
「とりあえず生かしとく。変な動きしたら首を刎ねろ」
「うーん」
む、モータルが難色を示した。
「どうした」
「いや、ちょっと気が進まなかったから。でも危険そうならちゃんと殺すよ」
「……多少の変な挙動は見逃してやれ」
「分かった」
そこで会話を切り上げ、目を押さえうつ伏せになっているブーザーの尻に軽く蹴りを入れる。
「おい、ブーザー」
「おぉ……今度から、さっきの使う時ぁ、事前確認を頼むぜぇ……」
「善処する」
「お前よぉ、化けの皮ぁ剥がれてからやべぇなぁ」
「皆そんなもんだろ」
まだふらつくようなので、肩を貸してやる。
ブーザーと一緒に立ち上がりながら、癌細胞に呼びかける。
「おい、癌細胞」
「はい」
「魔女を殺す為に必要って言ったな」
「魔女:オリジナルです」
「はいはい。で、具体的な策は?」
魔女の殺害と聞き、ブーザーの身が軽く震えたのが分かった。
視界の外だが、俺と同じく癌細胞に熱い視線を送っているのだろう。
一瞬の沈黙の後、癌細胞は口を開いた。
「魔女の作品を殺し、私に合成してください。そうすれば、魔女と戦う際にいくらかの能力の発動を妨害できる個体に成長できます」
「……なるほど」
育成ゲー開始ですか。