借り物戦闘
「二次、創作?」
伝わるはずがなかった。
まいったな。
「えーーーっとだな。元々ある概念に対して自分なりの解釈やら願望やら趣味やらを混ぜた物とか、そんな感じかな」
魔女はしばらく考えこんでいたが、やがて合点がいったのか、顔をあげた。
「人体改造の。設計図って、事?」
そうだね。元々ある概念(人体)に自分の趣味を混ぜてるね。
俺は魔女による人間の二次創作って事になるのかな? あっはっは。
「もうそれでいいです」
魔女がむっとした表情を浮かべる。
「違うなら、はっきり言って欲しい」
俺は言い訳を口にしようとしたが、面倒なのでやめた。
「俺はその本についてはあまり知識が無くてな。スペルマンってやつが詳しいから今度連れてくるよ」
「……わかった」
仕返しはしっかりやるのが俺の流儀だ。
魔女を相手に頑張って説明するんだな、スペルマン。
「ダニの。攻撃能力って、具体的には?」
急に話が飛んだ。
そうだった。ダニに攻撃能力をつけろって主張したんだった。
「ダニといったら吸血じゃないか?」
「吸い尽す、とか?」
やめろ。それはえぐすぎる。もっとマイルドな物を教えなければ。
えーと、そうだな。
「……いや、それは安直すぎる。痒みってのはどうだろう」
「痒み?」
「ああ。その路線で作ってみないか」
魔女がこちらの目をじっと見つめてくる。
俺も負けじと目を見つめ返していると、魔女が口を開いた。
「考えて、みる」
よし。
まぁそんなものを作るより前にぶっ殺してやろうとは思っているが。
作られた時の策を持っておくのは悪い事ではない。
俺がそうやって殺意を新たにしていると、魔女の身体がぴくりと小さくはねた。
「む。ちょっと、実験の予定。できちゃったから。また、ね?」
もうダニを作る気か? それはまずい。
「たまには休憩も必要だぞ」
「そう、なの?」
「疲れていると発想力含め色々な能力が低下するからな。睡眠はとってるか?」
「睡眠は、要らないよ?」
そんな事だろうと思ったよ。
「要らなくても、不可能じゃないんだろ? 一回やってみろ」
「わかった」
なんかチョロくないか?
これもうちょっと上手い事やれば自滅に持っていけない?
俺は脳みそをフル回転させようとしたが、先ほどの語彙を捻りだした疲労のせいか、何も思いつかなかった。
「タカ」
「なんだよ」
魔女が俺ににじり寄ってくる。
怖い。
「いつでも、私がいるから、ね?」
そう言って俺の心臓の辺りを撫でる。
俺の裏に居る何かが揺れる。
その状態で固まったまま、数秒が経っただろうか。
不意に、後ろの扉が開く音が聞こえた。
「じゃあ、ね? タカ」
帰って良いという事だろうか。
ならばお言葉に甘えさせてもらおう。
「あ、ああ……また来るよ」
「うん」
魔女が小さく手を振ってきたので、俺も振り返してやった。反吐が出るぜ。
俺が、部屋に入るなり、後ろの扉が閉じる。
扉の先の部屋には、捨て子五人衆と、モータル。あとシュウトが居た。
「帰るぞ」
「……タカ、大丈夫?」
「大丈夫なわけねーだろ。さっさと帰るぞ」
モータルがぺたぺたと俺の身体に触ってくる。
表面上は異常が無いのが唯一の救いか。
満面の笑みのシュウトの顔面に拳を叩きこんだ後、俺達は魔女の館を後にした。
散々な目に遭った。
俺のこれを外してもらう為にも、最低あと一回は行かなきゃならんというのが何とも憂鬱だ。
後ろを振り返る。
黙って俺についてきている捨て子五人衆。そして、魔女の館。
俺の視線に気付いたのか、スルーグが口を開いた。
「のう、何をされたんじゃ」
「あぁ?」
スルーグが、少し早歩きになり、俺の隣までやってくる。
「お主は、本当にタカか?」
「……」
壊れた俺を見たんだろうか。
もしそうなら、別人である事を疑われても仕方ないかもしれない。
だが。
「スルーグさん、そんな事は重要じゃないだろ?」
「そんなわけ――」
「魔女を殺す理由が増えた。あんたらにとっては、それで充分だし――俺は俺だ。タカだよ」
「そう、か……」
俺が俺かどうか?
そんな事を言い出すのなら、急にステータスなんてもんを押し付けられた日から悩んでいて然るべきだろう。
「くだらない。哲学をやりたいなら魔女を殺した後に存分にやってくれ」
そんな会話をしている時だった。
「にゃーん」
行きに一度聞いた声。
少しイライラしていたところだ。
八つ当たりさせて貰おう。
『盾よ』
一度やったお陰か、スムーズに魔法が起動できた。
「なッ!?」
スルーグさんが素っ頓狂な声を出すが、無視して短剣を構えて突っ込む。
「にゃごー」
ブワッと視界が黒点で埋まる。
だが、問題ない。
『杭――よ――』
多少つっかかりつつも、俺の言葉に応じて杭が射出された。
杭と棘が激突し、弾幕に穴が開く。
その穴をうち割るようにして、盾ごと突進した。
穴を開けたとは言え、完全に被弾を防げるわけではない。
盾にヒビが入り、砕ける。
だが、その時には既に俺は弾幕を通過していた。
「クソがッ!」
爪で俺の短剣を受けようとする。
それは既に読んでいた。
余裕を持って、その前脚を切断する。
「ギ、にゃ!」
「ふざけんなよ本当に……ッ!」
感情が燃える。
牙を射出するより先に、顔を踵潰しで強制的に閉める。
内部で射出してしまったらしく、棘猫の顔から血が吹き出た。
「魔女がなァ……ッ!」
そのまま、跳び箱の容量で猫に飛び乗る。
「アレを真面目くさった表情で読んだって事実を思い起こすたびになァ……ッ!」
棘が装填されつつある尻尾を切断しつつ、勢いそのまま、棘猫の頭部の方へ刃を滑らせる。
頭部に吸い込まれるようにして、短剣の刺突が決まる。
それと同時に、俺は燃える感情のまま、叫んだ。
「なんかむずむずして死にたくなるんじゃボケがぁああああああああああッッッ!!!」
――所謂、共感性羞恥である。