捨て子達の特性
「エリーさん居ますかー」
そう言いながら戸を軽く叩く。
中から返事が聞こえた後、すぐにエリーさんが出てきた。
「えーっと、何でしょうか」
「昔作ったらしい抜け道って、今も使えます?」
「え? ああ……使えますよ」
「じゃあ明日出発するときはそっちから出ましょう」
俺の言葉に、エリーさんが凄い表情になった。
「え、え……明日?」
「はい」
「ちょっと待ってください」
エリーさんの視線が右へ左へ泳ぐ。
なんなんだいったい。
「抜け道通る時、目を瞑っててもらえませんか?」
「は?」
いかん、反射で返事をしてしまった。
「……それにはどういう意味が?」
「いや、ちょっと、散らかってるので」
なんで抜け道散らかしてんのこの人。
「片付けできないタイプなんですか?」
「違います! ちょっと物置代わりに使っていただけです!」
あー、なるほど。
どうせ入り口は回廊の術かなんかで隠してるんだろうし、倉庫にするにはちょうどいいかもしれない。
「明日、抜け道への案内を頼んでも良いですか?」
「もちろんです! 任せてください!」
「目は……まぁ、なるべく瞑るので」
「あ、ありがとうございます」
エリーさんがぺこりと頭を下げる。
ふむ、こんなもんかな。構えていた割にはあっさり終わった。
「じゃあ、俺はこれで」
そう言ってその場を去ろうとした。
「待ってください」
「……なんでしょうか」
「少し、お話しませんか」
お話ねぇ。
「何についてですか」
「私達についてです」
「……構いませんよ」
知っておくべき話だと判断した。
俺はエリーさんに促されるまま、部屋に入った。
エリーさんがベッドに腰掛け、俺はその辺の床にあぐらをかく。
「タカさん。私達が魔女に改造を施された元人間である、という事は、もう分かっていますよね」
「はい」
「……魔女の森を通過するからには、数度の戦闘は覚悟しなきゃいけないと思うので、私達一人一人の特性を教えておきます」
なるほど、確かにそうだな。
ティークさんは何となく分かってるけど、他はさっぱりだ。
「タカさんはティークさんの特性はご存知かもしれませんね。だいたいモータルさんと同じですし」
「そうですね」
「スルーグさんについては?」
「さっぱりですね。魔術の腕が良いというのは何となく」
いや、待てよ。
レオノラが妙な呼び方をしていたような。
「それは後天的な努力の結果得た物ですね。スルーグさんは簡単に言うなら……スライム人間です」
あー……なるほど。
「具体的には、どのような特性を?」
「物理攻撃は殆ど効かないです。あと再生速度が凄まじいです」
「そりゃ……凄いですね」
めちゃくちゃ強いじゃねぇか。
「ただ、非力というか。近距離での格闘戦は、半スライム体にした手の平を利用した受け流しでこなす以外の戦法が取れないです。攻撃魔法も、あまり相性が良くないので、補助役か囮役をつとめる事が多いです」
ふむ。サポーターか。
「回復魔法もいけるって事?」
「いや、それは出来ません」
なるほど、バフとデバフ撒く役回りって事ね。把握した。
じゃあ次は……。
「次は、そうですね……レトゥーさんについて」
祈り虫やらなんやら言われてた人か。
「彼女は、異世界の異形をモデルに作られているらしいです。斬撃を飛ばす魔法が得意です」
異世界の異形か。
結構なポテンシャルを秘めてそうだな。
「役割的には、攻撃役ですかね?」
「そうですね」
ふむ。
「次に、ネイクさんですね」
あの長髪のやつか。
「ネイクさんは……伝承にある魔物を作ろうとした失敗作、だそうです。ネイクさんと目線を合わせ続けると、魔術回路に濁りができ、魔法の行使や肉体強化に鈍りが生じるようになります」
……メドゥーサがモデルか?
魔女のセンスはよく分からん……。
「なんか、その……魔女はもう少し隙の無い生物を作るイメージだったんですけど」
「……スルーグさんは魔女が人間改造に手を出したかなりの初期作だそうです。レトゥーさん、ネイクさんも、それの少し後に作られて、私やティークさんはかなり最近に作られました」
「初期の方だから粗が目立つ、ってことですか?」
「少し、良くない言い方かもしれませんが……そうです」
あの魔女、しっかり成長してやがるのか。
忌々しい限りだ。
やはり可及的速やかに殺さなければ。
「えぇと、次に……私、ですね」
「はい」
「私は……ドラゴンに対を成す物を作ろうとして出来たみたいです」
ドラゴンに、対を?
「えーっと、つまり?」
「空の王であるドラゴンに対し、私は地の王、という事です」
よく分かんないけどめっちゃ強そうだな。
「具体的には、どういう特性を?」
「ドラゴンに匹敵する耐久性能と、後は、地中を泳ぐように移動できます」
「……めっちゃ強くないですか?」
「でもその、視力が弱いという弱点もありまして」
「いや、それを加味してもめちゃくちゃ強いですよ。というかアレですよね、視覚がダメでも別の感覚で補えるパターンですよねそれ」
「た、確かにそうですけど、でも一応弱点自体はありますし……」
「いやいや、確実に強いですよ。地中を泳ぐなんて、こっちからなかなか攻撃できない上に一方的に奇襲ができるじゃないですか」
「……話は以上です、もう部屋から出てください」
えっ?
「出、て、く、だ、さ、い!」
若干怒っているらしいエリーさんに強引に部屋から押し出される。
まずい、何か地雷を踏んだか。
「す、すみません、何か俺、勢いでデリカシーに欠けた発言しましたよね!」
俺を押す手が、ピタリと止まる。
「具体的に、どの発言か分かってます?」
「え? えーと……」
エリーさんの方へ向き直る。
ふむ。よく考えろ。
粗が目立つ、の辺りか? 普通に失礼だったよな、アレは。でもそこではまだ怒ってなかった。他の発言じゃないのか?
……いやいや、発言一つという発想が良くないかもしれない。
色々な場所で失礼ポイントが溜まっていた可能性もある。
俺がそうやって長考していると、痺れをきらしたエリーさんが口を開いた。
「私だってその、あまり、強い強いと言われると、良い気分はしないです」
「……あー」
とりあえず納得したような声を出しておく。
なんでだ。この世界じゃ、強さはめちゃくちゃ必要だぞ。
「いや、でもエリーさんはその強さを」
バタン!!!
俺の目の前で、戸がとんでもない勢いで閉められた。