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次なる目標

 その後、特に寄り道も無く帰宅し、レオノラの研究棟に着いた。


「……帰ったぞー」


 一応そう言ってみたが、出迎えは特に無い。

 俺はそのまま自室へ向かった。


「二度寝すんのもアリだなぁ」


 そんな事をぼやきながら部屋に入り、ベッドに横になる。


 少し悩み、俺は掲示板魔法を起動することにした。



タカ:誰かいるか


ほっぴー:あいよ


タカ:お前いっつも居るな


ほっぴー:一応指示する側だし、連絡はいつでもつくようにしときたいだろ


タカ:なるほど


ほっぴー:で、何


タカ:食料の確保はなんとかなった。次の目標くれ


ほっぴー:そっちで色々やるための基盤作りかなぁ


タカ:うーん




 基盤作りか。

 他の面子がきて活動しても大丈夫なだけの物ってなると厳しいな。

 ……捨て子達を頼るしかないか? 表で活動は厳しいだろうし。




タカ:昨日言ってた連中と同盟的なの組んだからそこ経由で作れるっちゃ作れる


ほっぴー:お、マジか


紅羽:あたしも異世界行きてぇ~~~~!


タカ:お前は忍ぶとか無理そうだしちょっと


紅羽:タカがなんとかできてるならあたしも行けるっしょ


タカ:はぁ~~~? 俺が裏でどんな努力してるか知らねぇでよぉ


ジーク:具体的になにしてるの


タカ:早寝早起き


ジーク:えらいなぁ


ほっぴー:ぶちのめすぞ


紅羽:燃やす


タカ:いや待ってくれ、早寝早起きはほんとに重要だぞ


ほっぴー:論点をズラそうとしてんじゃねぇ


タカ:バレたか



鳩貴族:タカ、だけに


タカ:鳩貴族さん!!?!?!?!?!?


ジーク:ひゅーひゅー! 藪蛇の鳩貴族さんだ!


鳩貴族:その件はほんとに反省してるので……その……


ほっぴー:魔女リティー単体で見ればそれなりの面白さだったのに


鳩貴族:人間、死を間際にするとダジャレ能力が上がるんですよ


ジーク:じゃあ鳩貴族さんは普段、活力に溢れてるってこと?


タカ:笑う


鳩貴族:……


ジーク:あっ


ジーク:藪蛇藪蛇藪蛇!


ほっぴー:口裂け女追い払う呪文みたいなのやめろ


タカ:こいつ口撃用の武器見つけたら容赦なく振るうよな


鳩貴族:前のように説教はしませんが個チャで延々とだじゃれをきかせます


ジーク:殺される


ほっぴー:まぁまぁ失礼な反応で草


タカ:説教よりききそう



 そこで、ふと我に返る。

 俺は元々何を話そうとしていたんだったか。


 そうだ。次の目標だ。まったく、話題をズラして俺に時間を浪費させやがって。



タカ:次の目標、もっと短期的なやつをくれ。長期的目標が基盤作りなのは把握したから


ほっぴー:あー……


鳩貴族:そちらの世界情勢の把握……も長期的な部類ですかね


タカ:そうなる


七色の悪魔:人材の確保を頼みたいですねぇ


ほっぴー:それ言うほど短期的か?


七色の悪魔:我々には短期的に人材を得られる手段があるじゃないですか


ジーク:なるほど、ガチャか


七色の悪魔:そうです。天の石ですよ。なんとか仕入れ、できませんかね?


ほっぴー:それ採用。タカよろしく


タカ:手に入れたやつは俺が引いていいのか?


ほっぴー:アホかガチャ運ねぇんだから引っ込んでろ


タカ:いや待てよ、今まで散々だったんだ。そろそろ確率が収束する頃だと思わねぇか?


ジーク:A.思わない


ほっぴー:思いません


紅羽:無理だろ


七色の悪魔:^^;


タカ:急に顔文字やめてください


ジーク:煽リティが高すぎる


ほっぴー:どうしたの悪魔さん


七色の悪魔:掲示板巡回してたら色んな人が使っていたので私も使ってみました


ほっぴー:習ってからモノにするまでが早すぎる


ジーク:可能性の獣


タカ:俺がザントマン煽りをするより先に差し込んできたの強すぎる。勝てねぇ


紅羽:は?


七色の悪魔:悪役ロールプレイにまた一つ磨きがかかりました


ジーク:いや、悪役が使う顔文字じゃないというか、悪役は顔文字使う機会無いと思う



「おい、タカ。少しいいか」


 掲示板を眺めていると、扉越しにレオノラの声が聞こえた。


「構わん」


「そうか。では」


 バターンと派手に扉が開き、レオノラが満面の笑みで入室してきた。


「……何だよ」


「面白い事件の解決を依頼された。そのままでいい、きいてくれ」


 事件って時点で俺にとっては面白くないのだが、まぁ聞くだけ聞いてやろう。

 

「魔術による施錠が勝手に解除される現象が頻発しているそうだ」


「それめちゃくちゃヤバくねぇか」


「ああ。このデータを見て欲しいんだが」


 レオノラが、懐から地図のような物を取り出し、床に広げた。


「この辺りが初期の発生地だ」


「おう」


「種類としては、調理に使う発熱系の魔道具の安全のための施錠だ。単なる安全策だからこれによる被害はまだ出ていない」


「……紅羽みたいに大爆発させるのを防ぐためのやつって事か?」


「そうなるな」


 次にレオノラが別の箇所を足で指す。


「次の段階。小物入れなんかの簡易魔術的施錠だ。確認を取るようになってから報告件数がどんどん増えている」


「で、どこが面白いんだ」


 レオノラが目を細める。


「そして現在だ。まだたった一つだが、家の扉の施錠が破られた。そこは物理的施錠も込みで作っている家だったから被害は無かったが」


 そこまで言われ、一つの可能性に気付く。


「……上達してる?」


「その通り。だが、謎の“現象”と言うだけあって犯人は目星すらつけられていない。というか、つけようとすらしていない。これだけの犯罪を同時多発的に目撃数ゼロでやるなんぞ無理だ。それに誰かがやっているのなら、何故施錠を解除するだけで内部の物を盗らない? 目的が不明だ」


「人じゃないなら、魔力の流れとか、そういうのがあるんじゃないのか」


「ああ。その手の専門家が調査してるらしい。だがな、私は違う」


 ここでレオノラがぐっと顔を寄せてきた。

 んだよ。


「誰かの使い魔じゃないかと疑っている。そしてそいつは使い魔に施錠解除の魔術を覚えさせ、極めさせようとしている」


 それは……。


「なんだ? 油断させて一気に色々盗んでくつもりとか?」


「それなら、解除した後、それがバレぬよう偽装工作ぐらいはするはずだ。そこだ、私が気になっているのはな」


 そこまで語ってから、レオノラがニィと口の端を歪めた。


「どうだ、面白そうだろう」


「いや、全く。一人でやっててくれ」


 俺の返答に、レオノラがやれやれといった風に首を振った。


「報酬の一つとして、天の石があるのだが」


「しょうがねぇな、俺ぁ何を調べりゃいいんだ」


 そういう事は先に言え。



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