疾走する人馬と竜
ほっぴー:マジな話、救援向かった方がいいだろ?ちょっと待ってろ。一日で行ってやる
ジーク:なんだかんだ助けに行くほっぴーすこ
タカ:性格イケメンでガチャ運良いとか死ねよ
ジーク:タカは早く機嫌直して
ガッテン:しっかし、シルフィードか。なんかどんどん難易度上がってないか?
鳩貴族:それについて少々、考察を行ったのだが聞きたいかね?
スペルマン:ちょい遠出の準備始めるからほっぴー氏も含めて反応無くなる
ガッテン:了解。それで、鳩貴族さん。考察って?
鳩貴族:そうですね。何から話しましょうか。
ジーク:今日の鳩貴族さん機嫌いいね
鳩貴族:分かりますか?まあそんな事はどうでもいいんですよ
鳩貴族:皆さんだからこそ抱いている疑問、というものがありませんか?
ジーク:何のことだろ
ガッテン:うーーん。分からん
鳩貴族:何故最初に送り込んできたのがゴブリンや魔狼などの初期ステージの魔物なのか?って疑問。ありませんでした?
鳩貴族:掲示板では「異世界からの侵攻説」が有力ですが、侵攻が目的なら初っ端から強い魔物をガンガン送り込めばいい
鳩貴族:ですが実際はご丁寧に弱めの魔物から送り込み、わざわざ人類に成長のチャンスを与えている
鳩貴族:ここで思う訳です。魔王軍の目的は侵攻だけでは無いんじゃないのか。むしろ、人類を育てる事に何か意味を見出しているんじゃないのか、とね。
ジーク:あー……なるほど
七色の悪魔:そうすると魔王軍からの勧誘という行為にも理屈が通る、という事ですか
ジーク:あ、悪魔さん。俺近々そっち行きますわ
七色の悪魔:了解です
鳩貴族:さてさて。皆さん集まりつつありますが……未だに反応の無い一名の消息も含めて、どうしましょうかね。
「余計な荷物は減らせ。最悪、現地調達する」
「で、でもほっぴー氏。俺仕事が……」
「いや、無理だろ。なんでまだ仕事やろうとしてんの」
ガサゴソと自らの仕事道具をリュックに詰めようとするスペルマンを呆れた目で見るほっぴー。
「スペルマンよ。お主はもうちっと、休むという事を覚えるべきじゃぞ?」
「うるせー!お前らに俺の苦悩が分かるもんか!この災害のお陰でせっかく締め切りが伸びたんだ!チャンスなんだよ!今の間に終わらせれば、いやー締め切りは守ったんすけどねー、渡せなかったからなー、残念だなーって言えるんだよ!!!」
「んな茶番に付き合ってられるか!!!!時の呪術師!足の方持て!」
「了解なのじゃ」
「え?おい!ちょっと待てよ!いやせめてノーパソとあとペンタブ……あああああああ!!!」
「着替えと食料と水!あとタオル!そんだけありゃ充分だ!一日以内で到着する予定だからな!」
時の呪術師とほっぴーによって、スペルマンは担架の如く運び出されていった。
ズラリと並んだゴブリン&魔狼で編成された機動部隊。
その先頭に陣取っているのはホブゴブリン・リーダー。騎乗している魔物も特別で、赫狼というレアエネミーである。また、その付近を「ペリ」という火属性魔法アタッカーの魔物がふよふよと飛んでいる。
そしてその集団を率い立つのはケンタウロス・アマゾネスに騎乗したほっぴーと、未だにぐずっているスペルマンとそのスペルマンと共に時の呪術師が騎乗しているドラゴンである。
「スペルマン、カーナビアプリ入ってるか?」
「入ってない……というかほっぴー氏ぃ……仕事道具……」
「シルフィード倒したらまた戻ってくればいいだろ。あとカーナビは俺が起動すっからお前らついてこい」
スペルマンの嘆きを適当に受け流しつつ、ほっぴーは周囲をぐるりと見渡した後に、叫んだ。
「目標!シルフィードの討伐!いくぞてめぇら!出発だぁあああああああ!!!」
「「「「ゴブー!!!!」」」」
「なんかほっぴー氏だけ別ゲーしてる……」
「しっ!それを言っちゃ駄目なのじゃ!」
実際にこれは別ゲーなんだよ。そんな独り言をポツリと呟くと、ほっぴーは人馬と共に駆け始めた。
ほっぴー:乗馬もそれなりに出来るようになったので報告。ちょっとだけ東京に入る。
タカ:早いな
ほっぴー:どうもゾンビ系統の魔物が多い。というか東京だけ2,3番目レベルの魔物が出現してる。そっちは大丈夫か?
タカ:フェアリーまみれのボーナスタイムだな。まあ俺は今家の中で寛いでるが
ガッテン:お前も戦えや
タカ:紅羽の両親と俺の妹を守らないといけないんでね。ただまあ、庭を巡回してるグールにビビって近づいてはこない
ほっぴー:まずいんじゃないのか?一旦場所移した方が良いぞ
タカ:俺の弟子の一人が結構離れた所に良い空き家を見つけたらしくてな。そっちに移動しようと思ってる。今は最低限暮らせる荷物の運搬中だ。おっさんがせっせと働いてるよ。
タカ:あとわらわら湧いて出てくるフェアリーは避難所の戦闘員と俺の弟子のベガってやつが協力して駆除してる。まあお前らが到着するまで接敵は避けられそうだな
ほっぴー:了解。こっちもなるべく急ぐ
タカ:無理して満身創痍になられても困る。一日と言わず二日ぐらいかけて構わん
ほっぴー:おう
「クソ!集会所とカチ合っちまったか!?」
わらわらと押し寄せるアンデッドの群れ。スケルトンにゾンビ。
「聖樹の国の魔物使い」においては、三つ目の大墳墓と呼ばれるステージに出現する魔物達だ。
「ほっぴー氏ー!あんまり早く行くとゴブリン隊が分断されかねないぞー!」
ペリの魔法攻撃により何とか繋がってはいるが、ゴブリン隊との分断は時間の問題だった。
「分かってる!あー!クソが!リセット!呼び出し!“雑魚処理作業用”!」
ほっぴーの身体が一瞬光に包まれる。
「レインアロウ!」
水で出来た小さな槍が周囲のアンデッド軍団に降り注ぐ。
「リキャストが長いんだよ!……あークソ!メテオ!」
レインアロウのリキャストを待つ間に、メテオをひたすらにぶっ放す。ただリキャスト短縮のスキルを付けていないせいか、比較的回転率の良いメテオもまばらにしか打てない。
「だぁッ!畜生!武器がないせいで他の広範囲攻撃が出来ねぇッ!」
「ほっぴー氏!時の呪術師のエクストラクト、どうする!?」
「次俺がレインアロウを撃った後に頼む!一気に戦線に穴空けてそっから脱出だ!スペルマンはアクセラレーション撃つ準備しとけ!」
「了解!」
じりじりと追い詰められつつ、逆転の瞬間を待つ。
……今!
「レインアロウ!」
「エクストラクト!」
「レインアロウ!」
「アクセラレーション!」
「穴が出来た!駆け込めてめぇらああああああ!!!!」
「「「ゴブー!!!」」」
広範囲魔法の連発に加え、唐突に速度が増したほっぴー達に付いていけず、崩壊した戦線からボロボロと獲物に逃げられていくアンデッド達。
――かくして、数十匹規模での被害を出しつつも包囲網を脱したほっぴー達。
だが、その去っていく背中にぶつけられた、興味深げな視線には当然の事ながら気付く事は無かった。
スキル:エクストラクト(所持魔物:時の呪術師)
直前に撃ったスキルのリキャストタイムの強制スキップ。
強力な効果だが一戦に付き一度しか使えない程の長時間のリキャストタイムがある。