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各個撃破

 

 特に何のアクシデントもなく帰路につく。

 

「ただいま、でいいのか?」


「おかえり」


 レオノラが椅子に腰掛けたままこちらに向け軽く手をあげる。


「たいそうな揉め事に巻き込まれたようだな。はて、私が買い出しを頼んだのはどちらだったか」


「お? どっちかの脳の血管が切れるまで煽り合戦やっか?」


「どういう戦いだそれは……忘れかけているようだが、私たちは片方が死ねばもう片方も死ぬのだぞ」


 そう言えばそうだった。

 

「今回のように危険な事に首を突っ込むのなら私も連れていけ。いいな?」


「善処する」


「はぁ……」


 レオノラが自分の頭を押さえるような仕草をする。

 

「お前達の部屋はあっちの角だ。寝るなりなんなり好きにしてくれ」


 俺はその言葉に甘え、角の部屋で好きにすることにした。







タカ:無事帰還


ほっぴー:うわ


タカ:なんだよ


ほっぴー:いや絶対めちゃくちゃな解決の仕方したんだろうなぁって


タカ:お前は俺を何だと思ってるんだ。ちゃんと話し合いで解決したぞ


ジーク:ほんとぉ?


ガッテン:てか結局何だったんだよ


タカ:魔女の被害者の方々に目をつけられまして


ほっぴー:あっ……


ジーク:なるほど


タカ:人間に戻りたいそうなので、今度本を持っていくついでに頼んでみようかと


ほっぴー:しっかり全方位に図々しいというか何というか

 

ジーク:人間に戻りたいとは


スペルマン:すいません詳しくお願いできますか


ガッテン:おいなんか来たぞ


タカ:詳しくって?


スペルマン:その方々の容姿を……何卒……


タカ:すまんがウェアキャットっぽい奴しかちゃんと見せてくれなかった



スペルマン:“どこ”を、ちゃんと見せてくれたのですか?


ジーク:カットイン入った


ほっぴー:流れ変わったな


ガッテン:こんなセリフでカットイン入れんな


タカ:いや、顔だけど


スペルマン:それは“広義の意味”での顔ですか?


ほっぴー:どういう事だよ


ガッテン:認めたくないが為に発言を歪めようとするな


ジーク:顔は顔でしょ


スペルマン:では質問を変えます。“いや”、この接続詞はどういった事を意図しての物でしょうか



   スペルマンが退室しました



砂漠の女王:手が滑りました


お代官:!?


ほっぴー:草


ジーク:ナイスゥ!


タカ:よくやった


紅羽:妥当な措置だな


鳩貴族:仕事中に笑わせるのやめてください


ほっぴー:仕事中に掲示板魔法起動すんな


鳩貴族:ごめんなさい



   スペルマンが入室しました



スペルマン:すいませんでした


紅羽:お前なー、仮にも被害者なんだからさぁ、そういう質問はさぁ


スペルマン:自分の意に反したケモ化という事で、えぇ、本当に、ありがとうございます


スペルマン:訂正。本当に、ごめんないさい


紅羽:部屋焼くわ


タカ:やったれやったれ


ジーク:本音がだだ漏れすぎる


ほっぴー:少しは隠す努力をしろ


スペルマン:はい



お代官:こほん。君達。本題からズレていないか?


タカ:あっ


ほっぴー:すーーーーぐ脱線する


ジーク:話の展開がオープンワールド形式


ガッテン:自由すぎる


紅羽:てか本題ってどれ


お代官:……トラブルに遭ったならそこの詳細を語るのが筋だろう


タカ:なるほど了解


タカ:えーっとな。まず魔女の被害者は五人。一人はウェアキャットっぽい、猫人間だな


ほっぴー:五人の中でのそいつのカーストは?


タカ:うーん。ムードメーカーっぽかったような


ほっぴー:ふむ。リーダー格は居たか?


タカ:居たぞ。なんか老いた感じの口調のやつ。俺がハマった、同じ道を延々と繰り返す術をやったのもそいつっぽい


ほっぴー:他の三人は?


タカ:いっつも言い合いしてるのが二人。片方は祈り虫とか呼ばれてたかな。なんか俺の話に懐疑的で途中で帰りやがった


ほっぴー:残り一人は


タカ:エリーさんっていう、前に出張した時世話になったギルド員


ほっぴー:なるほど


お代官:そうそう、そういう事だ。よくぞ報告した


ほっぴー:祈り虫ってやつ以外はお前の案に賛成したのか?


タカ:賛成というより保留だな。明日また会って詳しい事を決める


ほっぴー:なんか危なっかしいなぁ


タカ:じゃあ他になんかやり方があんのか?


ほっぴー:レオノラを連れていくのはどうだ


タカ:えぇー……


ほっぴー:あいつだって見た目ガッツリ人外だろ。被害者って事にできるんじゃないのか


タカ:利点は?


ほっぴー:いざって時にそいつら殲滅できる




 そこで、俺の掲示板魔法を操作する手が止まる。


 ああ、確かにそうだ。敵対する可能性はあるし、敵対したなら証拠も残さず殲滅する。

 俺は同意の言葉をうとうとして……やめた。



タカ:ちょっと考えさせてくれ


ほっぴー:考えるまでもないってか、この話きいたらレオノラは絶対についてくると思うが


タカ:それでも、だ



 そこまでで、俺は掲示板魔法を閉じる。


 さて、どうしたものか。


「クソ……」


 俺はもっと愉快な異世界ライフを過ごしたいのに、気付けば厄介事にぶつかっている。

 影を倒して、魔王を倒して。強くなっても、このザマだ。


 ……実際、どうする?

 今の状況でレオノラが行ってしまうと、何となくまずい気がする。

 完全に勘だが、こういう勘が巡り巡ってどでかい厄介事の始末に役立ってるからな。俺個人としては無視できる物ではない。


 だがレオノラにはいずれ会わせる必要がある。話の辻褄的にも。

 それまでに、どういう状況に持っていけばいい? 敵対を一番避けやすいルートは?


「……」


 よし。

 困ったら基礎に立ち返ろう。


 各個撃破だ。

 いや実際に撃破するわけでなく、こう、心理的な意味での攻略、及び撃破だ。

 五人まとめて説得ってのは難しい。一人ずつ俺の側に立たせて、詰めていく。特に祈り虫なんかはなかなか面倒そうな奴だった。あいつを言いくるめるならあいつ一人に集中したい。


「まずはエリーさんだな」


 俺とエリーさんの間には、まだいくつも壁がある。

 他の四人と合流する前に何枚か壁をぶち破っておこう。


 ではその為になにをすべきか……。


「とりあえず、これか?」


 俺は手始めに、エリーさんから貸してもらった本を広げた。

 共通の話題は取り入れといて間違いはないはず。





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