いつもの会議フェイズ
「見えてきたぞ」
道中、さしたるトラブルもなく転移ポイントへと到達した。
「……砂漠の女王、頼む」
その声に反応したのか、元々スタンバイしていたのかは分からないが、瞬時に転移時特有の眩暈がおとずれる。
ぐらつく視界。世界が歪んでいく感覚。
それが次第に収束していき――。
「目的は達成できたようですね」
正面からの声に、ハッと我に返る。
危うく気絶しそうになった。極度の疲労状態で転移は良くないらしい。
「ああ。色々とイレギュラーはあったし、次の目標というか問題が浮き彫りにされたけど、一先ずは目標達成だ」
俺の言葉に、砂漠の魔女が満足げに頷く。
「そうですか。ではさっそく――戦争の後片付けを手伝っていただきましょうか」
アッハイ。
タカ:労働は悪い文明!!!!!! 破壊する!!!!!!!
ほっぴー:書き込んでる暇があるなら作業しろカス
タカ:うっせぇ!!!! ちょっと休憩中だ!!!!!!!
ジーク:ずっと休憩してそう
ほっぴー:領域外の東区の避難民誘導、頼んだはずだけど
タカ:休憩してる間は弟子に任せてる
ほっぴー:は?
ガッテン:ずっる。俺も弟子作ろうかな
ジーク:弟子× 召使い○
ほっぴー:やる気がないなら帰ってくれ。んで別の作業やれ
タカ:確かにやる気は無いが帰らないことにおいては自信がある
ほっぴー:頼むから帰ってくれ
ジーク:草
ガッテン:最悪すぎる
ジーク:そんな事に自信を持つな
紅羽:なんとなく確認したら意外と人がいてビビってるんだが
タカ:おっ、紅羽じゃん。身体は大丈夫か?
紅羽:全身痛ぇしだるい
ほっぴー:全治一週間だったか? ハイリスクハイリターンだよなぁほんと
ガッテン:一人だけ無双ゲーやってたもんな……
紅羽:楽しかった
タカ:俺も無双ゲーやりてぇ
ほっぴー:異世界行ってオーク相手にやってくりゃいいだろ。今ならオークキングくらいは余裕だろ?
タカ:せやな
七色の悪魔:すみません、報告です
ほっぴー:お、どうしました
七色の悪魔:西区に作っていた畑ですが、ほぼほぼ壊滅状態です
ほっぴー:あちゃー……
タカ:あー、何? 調達してこいってか?
ほっぴー:あの運び屋も暫くこっちに顔出してきてないしなぁ
タカ:普通に契約違反だよな
七色の悪魔:それに関してはこちらが戦いの準備をしていたせいもあるかもしれませんので
タカ:うーん
ガッテン:砂漠の女王に聞けば分かるだろ
砂漠の女王:はあ、運び屋ならこちらの食料供給が安定してきてからは手切れ金を渡して契約を切りましたが
ほっぴー:切るの早すぎねぇか?
砂漠の女王:あの、そもそもわたくしは領域にあれほどの人数を匿う事をあまり好ましくは思っていないのですよ? いちいち転移させるのもタダではありませんし、切れそうならさっさと切るのは当たり前です
タカ:冷てぇなぁ
ほっぴー:まぁ俺らのわがまま通してもらってる訳だし、そう言われると弱いが
ガッテン:あ、ちょっと今から重めの瓦礫の撤去に入るから反応死ぬわ
タカ:りょ
ほっぴー:はいよ
ジーク:いってら
ガッテンが掲示板の会話から抜けた流れで、何となく会話が止まった。
ふむ。俺もそろそろ仕事に本腰入れるかな。
えーと、確かあそこに20人くらいでまとまって居るのが軽傷の怪我人か。
「はい、皆さん。怪我をした方達ですね?」
「え? あっ、はい」
「横一列に並んで下さいー。並びましたかー?」
俺の声かけで怪我人達が一列に並んでいく。
こういうのを見ると避難訓練って無意味じゃねぇんだなという気分になる。
タカ:おい、空いてる回復ルームは
ほっぴー:最寄りは102号室だが、多分軽傷だろ? 305でよろしく
タカ:了解
これがほっぴーが掲示板に張り付いている理由だ。
いくつか回復魔法が使えるフェアリーを配置した部屋を用意しておき、そこに渋滞にならない程度に怪我人を届けている。
フェアリーだけでいいならもっと部屋数を増やせるのだが、いかんせん一度食料を巡り争った仲だ。
安心して貰えるように、フェアリーを使役している(っぽい)人員もセットで配置しておかなくてはならない。
この配慮さえやらずに済むなら楽だったのだが。
「……あの、タカさん、ですよね?」
「はい?」
考え事をしていたら、列の先頭にいた中学生くらいの少年に話しかけられた。
「そうだけど」
「あ、あの」
少年が俺の手の甲を指す。
ん?
「それ、その茨と鍵の形の痣……そしてその強さ……“そういう事”、ですよね?」
「どういう事?」
「封印されし力……なんですよね?」
違いますけど。
俺はようやく少年の思い違いの意味に気付き、自分の手の甲が猛烈に恥ずかしくなった。
「少年。いいかい? 今言った事は決して誰にも言っちゃいけないよ?」
その方が良い。
俺にとっても、君にとってもね。
「少年呼び、いいっすね……はい! 絶対黙ってます! タカさんが封印されし闇の力、ゼク——」
「やめようね」
俺は優しく少年の口を手で塞いだ。
十数分後、例の厨二少年含む怪我人達を回復ルームまで案内した俺は、自分の部屋に戻って手の甲を必死に洗ってみた。
落ちなかった。
タカ:皆仕事どんな感じ
ガッテン:山場は越えた感じかなぁ、そろそろ自室に戻るよ
七色の悪魔:ハッハッハァ! あっという間に終わらせてやったわ! 我の手にかかればこんなものよ!
ジーク:久々に悪魔さんのそのモード見た
スペルマン:自分はもうちょいかかりそうかなー
鳩貴族:私ももう少し働いてから戻ります
七色の悪魔:鳩貴族さん。魔女との交渉の件、そんなに気にしなくても良いんですよ。得た物も確かにありましたから
ジーク:スイッチの切り替えについていけないよ
鳩貴族:いえ、他ならぬ私が納得していませんから。ダジャレは納得の出来でしたが
ガッテン:余計な一言すぎる
ジーク:流石にアレは反省して
Mortal:倒した魔族の素材回収おわったよー
タカ:おっ、悪いな。病み上がりに
Mortal:まぁ全快したし、そのくらいは。嗅覚鋭いと色々やりやすいね
ほっぴー:ん、俺もそろそろ休んで良さげ?
タカ:まぁちょっとくらい良いんじゃねぇの
ほっぴー:だなぁ
お代官:ふむ、欠けはあるがだいたい集まっているようだし、少し始めておくか
ガッテン:あっ、お代官さん
ほっぴー:お疲れ様です
お代官:書類の整理がひと段落ついたのでね。会議をやらないかね
お代官:食料について、そして魔族の残党についての会議だ
タカ:食料……また異世界に調達に?
お代官:そうなる
タカ:じゃあ俺、やりますよ
お代官:む、いいのか?
紅羽:ひゅう、やる気だねぇ
タカ:紅羽、居たならもうちょい早く言えよ
紅羽:いや悪ぃ、さっきまで人と喋っててな
タカ:人?
紅羽:あんま面識ない中学生くらいの男子
タカ:あっ、なるほど。よし、紅羽、個チャに行こうぜ
ほっぴー:お、どうした?
ジーク:なるほど?
タカ:ハイエナが湧いてきやがったな
ガッテン:草
紅羽:なんでそんなかっこいい設定作ったのにあたしに教えてくんなかったんだよ
ほっぴー:設定?
ジーク:詳しくお願いします。病気の兄がそれを聞かないと生きる希望を持てないって言ってるんです
タカ:そんなやつそのまま死なせてしまえ
紅羽:いや、何でもな? あの手の甲の痣には封印されし闇の力が宿ってるらしくてな
タカ:ねぇそれ俺じゃない!!!!!! あの厨二のガキが勝手に作ったやつ!!!!!!! やめろ!!!!!
ジーク:†タカ†
タカ:ふざけんな!!!!!!!!!!!
紅羽:確か封印されてる神の名前は……ゼクス
ジーク:†ゼクス・タカ†
タカ:ジークてめぇマジでぶっ殺すからな!!!!!!
ほっぴー:まぁまぁ抑えて。闇の力漏れちゃってますよ
タカ:あああああああああああああ!!!!!!!!!!! あーーーーーーー!!!!!!!!!
ジーク:ガチ発狂で草
お代官:……あの、会議…………
ガッテン:い つ も の
七色の悪魔:ですねぇ
Mortal:会議しないなら寝てていい?