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降り注げ、祝福



 アァ、アア――



 影がどろどろと融ける。


 地に滴り落ちた鉛が不快な音をたて蒸発していく。



「殺せた、のか……?」


 誰かのそんなフラグめいた言葉。

 しかし、影の様子を見るにそのフラグは回収されそうもなかった。


 俺は崩れゆく影を見ながら、妙な感情に心が支配されるのを感じていた。


「主殿?」


「悪い、ちょっと行ってくる」


「主殿!?」


 おっさんの制止を振り切り走る。

 クソが。どうにも操られてる感がある。

 初めて対面した時に交わした契約とやらが今響いてきたか?


 背後からおっさんとは別に制止の声……というか罵倒がとんできているのを感じつつも、俺は融解する影の下に辿り着いた。


 俺が走りつくまでの間にも融解は進んでおり、中から見慣れた男の姿が垣間見えた。


「よう、呼んだんだろ?」


 そう声をかける。

 すると、影はすうっと目を開き、ニタリと微笑んだ。


「ああ。そうだよ。ボクの光」


「死ね」


 反射で罵倒する。

 

「ふふ、言われずとも死ぬとも。さあ君の刃でボクの中枢を、貫いてくれ……!」


 言い方キッツ。

 俺はうんざりしつつも言った。


「悪いが届かない。降りてこい」


「ギリギリまで死を拒みたくてね」


 どっちだよ。


 ……いや、どっちも本音なんだろうな。

 

 思えばそれなりの付き合いだ。コイツを造った魔女とも会った。

 非常に遺憾ながら、コイツの望みは分かる。


「死を拒みつつ、常に誰かに劇的に殺されたがってるってとこか?」


 もはや影を覆う鉛は皆無に等しい。

 最後の鉛が垂れ始めると同時に影も少しずつ、地上に落ちてくる。


「矛盾した生き物だと思うかい? 不完全な、憐れな、不幸な種族だと、そう思うかい?」


「さあな。お前自身はどうなんだよ。これで満足か?」


 影が、落ちる。

 地に倒れ伏した影。


「……まだ、だ」


「そうか」


 うつ伏せの影を蹴りとばし、仰向けにする。

 そして短剣を構えた。


 影と目が合う。

 そして、俺はヤツが望んでいるであろう言葉を口にした。



「これで、お前の奉仕は“完成”だ」



 影の口が裂けんばかりに開かれ、三日月型に歪んだ。


「あァ、ボクは――ボクたちは幸せだ――」


 俺の短剣が影の心臓部へ突き刺さる。

 今度は甲高い金属音はしなかった。


 ただ、ガラスが割れたような、そんな繊細で、それでいて戦場中に響き渡るほどの力を持った音がした。


 影の身体が、鉛に変わっていく。

 どろどろと融け、地面に広がり、蒸発する。



 見れば、頭上に雲ができていた。

 額にピチャリとした感触がし、慌てて触ってみるも、乾ききった血がわずかに手に付着しただけだった。


「……雨、っぽい何か、か」


 最初はポツポツと、次第に激しく雨粒のような何かが一人一人に降り注ぐ。


 身体の奥底からじわじわと何かがこみ上げてくるのを感じる。

 ああ、これが祝福だ。

 アイツの奉仕だ。


 熱い身体をどうにもできず、その場に大の字に寝転がる。

 そのまま深呼吸をして意識だけでもクールダウンを試みた。


 轟くような雄叫びに慌てて起き上がってみれば、ヤワタが天に向け吼えていた。

 勝利の咆哮だろう。


 雲が減っていく。

 戦場に光が戻る。


 俺は、ヤワタにつられて天に向かって吼えた。














 

ほっぴー:影の討伐終了。今から帰還する


お代官:お疲れ様


砂漠の女王:案外あっさり終わりましたのね


ほっぴー:あっさり……? まぁ、あっさり、かなぁ


ジーク:オークエンペラーに裏切られかけたりタカが聖女産んだりヤワタを乱入させたりしたけど、あっさり終わったな!


お代官:そうか


ジーク:思考放棄しないで


紅羽:そうかアレ、タカが産んだんだもんな


タカ:俺が産んだ方向で話を決定付けようとするのやめろ


タカ:寄生虫が羽化したとかそういう系のアレだから


お代官:そうか


お代官:オェ


ほっぴー:草


ジーク:草


タカ:お代官さん!?


鳩貴族:草


ほっぴー:うーん、これは妥当


ガッテン:お代官さんのキャパ越せるのすげぇな


七色の悪魔:お気を確かに、お代官さん



お代官:なんでそんなB級ホラーみたいな展開になっているのかね……


お代官:というかそれが影の討伐にどう影響してくるのかね……


砂漠の女王:そんなに不快であればわたくしがもう一度タカさんの中に戻しますが


タカ:やめろ


お代官:やめなさい


レオノラ:それは勘弁願いたいものだな




タカ:は?


ガッテン:あ?


ほっぴー:え?


ジーク:タカジュニア!?


タカ:その呼称は絶対に許さん。殺す


紅羽:タカジュニア……そうか、そういう事になるんだもんな


タカ:ならねぇよ


レオノラ:父上と呼ぶべきか?


タカ:呼んだら殺す


レオノラ:そうか



ほっぴー:ひょっとしてアレか?


ほっぴー:タカの中に居たときに掲示板魔法の解析でもやったのか?


レオノラ:そうなるな。魂の一部がタカとリンクしているというのもあるが


タカ:それ未だに納得いってないんだけど


ジーク:???「ボクと契約して宿主になってよ!」


タカ:メリットがなさすぎる


ほっぴー:こいついっつも何かと契約結んでんな


ガッテン:魔法少女体質



タカ:というかさぁ! 砂漠の女王てめぇ、俺の中に何がいるか分かってたろ!?


砂漠の女王:?


タカ:おい


砂漠の女王:黙秘権を行使致します。


タカ:お代官さん! 酷いと思いませんか!!!!!!


お代官:良い方に作用するならもういいんじゃないのかね


タカ:お代官さん!?!!?!?!?!????!!??


ほっぴー:十傑の良心から見捨てられた男


ジーク:ハリガネムシとかも入ってそう


タカ:ぶっ殺すぞ!!!!!!!!!!!!!!


レオノラ:まぁ落ち着け


タカ:誰のせいだと思ってるんですかね!??!?!?!?!????


タカ:なんでこんなやつと一蓮托生なの!!?!?!?!?!?


タカ:俺前世で何かしたの!?!?!??!


七色の悪魔:ポル・ポトか何かだったんじゃないですか


ほっぴー:それならしょうがねぇ! 解散!


タカ:しないで


ジーク:草



お代官:ま、まぁ、とにかく無事なようで良かった。詳しい話はこちらに戻ってきてからしよう


お代官:帰り道も気をつけたまえよ。ただ、可能な限り早く頼む


タカ:りょ


ほっぴー:うい


ジーク:うす


紅羽:ん


ガッテン:もちろん


七色の悪魔:はい




鳩貴族:寄生虫と……帰省中……


タカ:久々すぎて突っ込む気になれなかった


ほっぴー:鳩貴族さん!?


ジーク:祝福の効果出てんじゃん


ガッテン:褒める風の煽りが上手いよなほんと


お代官:そういうのをやめてさっさと帰りなさいって言ってるの!!!!!!!!!!!!


鳩貴族:はい……





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