道化の真髄
初の主人公以外の視点です。
ほっぴー:すまん。一旦連絡を控える。ドラドラが近い
ガッテン:分かった。頑張れよ
ほっぴー:おう
ドラムと爆発音を足して2で割ったような奇怪な雄叫びが周囲に響く。
その雄叫びは地を震わせ、状態異常を周囲へと振り撒いていた。
そんな中街を駆ける集団が一つ。
「ほっぴー!いよいよ敵陣に突入だ!」
「分かってる。あーもう、ヘビードラムかよ鬱陶しい!もしかしてスペルマンのやつ、もう戦ってるのか!?」
先ほどから大声で会話を行っている人馬に乗っている――というよりはしがみつくと形容する方が相応しい乗り方だ――青年は、ほっぴー。
十傑きっての愉快犯である。
「ゴッブ!グブァ!」
「何言ってるか分かんねぇよ!!!」
魔狼に騎乗しほっぴーに併走しているのは、ほっぴーが練成したゴブリンの軍勢だ。
「ゴッブ!ゴッブ!」
「あー、分かった!分かった!分かんないけど分かったから!」
「ゴブー!」
そんな不毛なやり取りをしつつも、ほっぴーの一行は雄叫びの主――ドラムドラゴンの元へと到着する。
なぎ倒された建物。その中心で暴れまわる一匹のドラゴン。
見れば、その足元には、何やら必死に走り回りながら妨害魔法をとばす二つの影が居た。
「おぉおおおおおおおい!!!スペルマン!こっちだ!!!」
口に手を添え叫んだせいかケンタウロスからずり落ちそうになるも何とか堪え、必死にその二つの影へと迫る。
「ほっぴー氏ぃいいいいいい!!!やべぇよコレ!俺死ぬ!死ぬから!」
涙で顔がドロドロになった30代ほどと見られる男。おそらくアレがスペルマンだ。
「はっはー!ほっぴー参上!」
「アクセラレーション!」
スペルマンのスキル発動と共にドラドラに対峙している者達の速度が上がる。
「っしゃあ!スキルリセット!スキルセット呼び出し!“遠距離魔法特化”!」
光がほっぴーの身体を一瞬だけ包む。
そしてドラドラに向け掌を突き出すと、叫んだ。
「メテオ!」
人の頭サイズの火の玉がドラドラへ一直線に迫り、着弾する。
直後、またあの奇怪な雄叫びが周囲に響く。
「グォォ……ォォオオオオン!!!!!」
「だあ、ちくしょうッ!バフとデバフのリセットだ!」
絶え間なくメテオを放ちつつほっぴーが悪態をつく。
ドラムドラゴンはバフやデバフの付与、解除を繰り返しこちらを翻弄してくる、その巨大で厳つい見た目とは裏腹にテクニカルな戦法を取ってくるレイドボスなのだ。
「グゥルゥォォオオ……!」
雄叫びが終わると、ドラドラの少し膨れた腹部がブルブルと震え始めた。
「ほっぴー氏ー!これアレだよ!アレ、アレ!」
「アレじゃ分からん……って、インパクトブレスじゃねぇか!逃げろぉおおおおおおお!!!」
「ゴブ!ゴブァ!」
ゴブリン軍団の中の一匹、少々特殊な魔狼に乗ったホブゴブリン・リーダーが何やら指示を出す。
「ゴブ!」
その指示を受けたゴブリン二匹が魔狼と共にスペルマンとその初期召喚で手に入れたのであろうゴスロリ衣装の幼女型魔物の回収へと向かう。
「お、おお!?助かる!」
「助かったのじゃ!」
無論、二人とも去り際にデバフを撃ち込むのを忘れない。
そして離脱していった者達と入れ替わるようにして数体のゴブリン達が棍棒をふり回しながら突撃する。
「ゴブァ!ゴッブゥァ!」
そのゴブリン達の言葉を意訳するとすれば、「死にさらせぇ!」だとか、そういった意味になるだろう。
足元で暴れまわられ、流石に鬱陶しさを感じたドラドラはブレスの方向を下方向へと変更した。
「ゴォオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
地が割れたかと思える程の轟音。見れば、足元にいた数体のゴブリンと魔狼は既に見るも無残な姿に変えられていた。
「あいつらの犠牲を無駄にするな!」
ほっぴーの鼓舞にゴブリン達が雄叫びをあげて返す。
「ほっぴー氏!バフとばすぞー!」
「っしゃあ!行くぞ!メテオォ!」
先ほどと同様に炎が飛び、着弾する。それも一箇所ではない。別働隊として周囲の魔物を駆除、及び索敵していたゴブリン達が戦線に復帰してきたのだ。
「ゴブ!ゴブゴブッ!」
別働隊のリーダーはホブゴブリン・メイジ。この戦闘において貴重な魔法攻撃職である。
遠距離攻撃要員はそれだけではない。何匹かのゴブリンは弓を所持しており、盛んにドラドラに向け矢を射出していた。
「グゥル……グルォ……グォォォオオオオオオ!!!」
「ブレス吐いて、自分の大幅バフ系の雄叫び!いける!HP50%以下の行動だ!」
ドラムドラゴンは、強さの序列を示すとすれば、ベンケイと同じ程度のものである。
だがバフやデバフの定期的な無効化により、攻略難度の高さにおいてはドラドラの方に軍配が上がる。
もしこの場に居たのが二人のプレイヤーとその初期魔物だけだったのなら。ほぼ確実にプレイヤーのどちらかが死亡していた。それどころか、全滅していた。そのレベルの難易度だ。
だが、違った。この場には、ほっぴーが遊びで作ったゴブリン軍団が居た。
これがゲーム時代であれば、その軍勢はまるで意味を成さなかっただろう。
だが、これはゲームとは似て非なる――現実だ。
「てめえら結構レベル上がってんじゃねぇかよ!」
「ゴブー!!!」
そう。ゲーム時代ではプレイヤーが能動的に行動しなければ出来なかったレベリング。それを魔物の判断に任せて、勝手にさせる事が出来たら?しかも、ここは現実だ。一旦ログアウトして休憩、等という概念はない。ゲーム時代とはプレイ時間の密度が違う。
ほっぴーは、これを「聖樹の国の魔物使い」の延長……とは、捉えていなかった。
類似性は認めつつも、基本は別ゲーをやるような気概でこの現実に挑んでいた。
そうでもしないと、死にかねないから。
ほっぴーは自覚があった。十傑で一番弱いのは自分だと。
ジョブ:ジェスター
聖樹の国の魔物使いのシステムは基本、皆のよく知るMMORPGのソレだ。
だが少し、スキルについて変わったシステムがあった。
それは、戦闘中ですらスキルの付け替えが可能だという事。だが転職の儀の最中や、自分のホーム以外の場所でスキルを付け替えた場合、一時的なスキルのレベルダウンというデメリットが発生する。これがなかなか重いデメリットで、この為よほどの事情が無い限り戦闘中にスキル変更を行うプレイヤーは居なかった。ほっぴーを除いて。
ほっぴーの取得しているジョブ:ジェスターにはそのデメリットがない。
それは時に応じてスキル編成を変え、擬似的にあらゆるジョブになれる事を意味している。
ジェスターはステータスの上昇量が他より少ない上に、職業補正が無い。いや、一つだけあるが、それはスキル枠+2という非常に微妙な物だ。
その為ジェスターはレベルの三分の二、下手をすれば半分程度の実力しか出せない。そう言われている。
ゲーム時代なら良かった。ネタプレイで済んだ。
だがリアルは違う。笑って片付く問題ではない。
己の弱さに対する認識と、それを補う策の模索。
停滞せずに、十傑の中で唯一、一歩この世界に踏み込んだと言えるほっぴーの覚悟。
その成果が、今目の前に居る弱り果てたドラムドラゴンである。
「さあて、終わりにすっか!そして天の石をよこせ」
その覚悟の内三割ほど、ガチャを引きたいという下心があったというのは、言わぬが花というやつだろうか。