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影を追え side:ジーク班


 ぼーっと待っていると、班分けが終わったらしく、ガッテンがこちらに走ってきた。


「おいジーク。俺とお前は同じ班だ。探索は城の捕虜用の座敷牢付近」


「りょ」


 適当に頷き、適当な方向に歩き出す。

 ガッテンが文句を言わずついてくるという事は間違った方向ではないのだろう。多分。



 道中すれ違ったオーク複数体に会釈しつつ、歩を進める。


「ねぇ」


 背後から聞き慣れない高音ボイスが聞こえたので立ち止まる。

 なるほど。喋ったのはガッテンの初期魔物のヴァンプレディだ。


「どうした?」


「さっきすれ違ったオーク、死んでる」

 

「はぁ!?」


 ガッテンが素っ頓狂な声をあげてさきほど来た道を振り返る。

 そして廊下の角に倒れ伏したオークがいることを確認すると、殺気立ちつつ背負っていた剣を抜き構える。

 それに倣いヴァンプレディが血の刃を展開し、ジークは武器を入れてあるポケットに手を突っ込む。



「サイレントキルって意外と難しいんだね」


「影だッ! やれッ!」


 言われるまでもない。

 既に投げられた爆弾。それが一瞬消失し、こちらに投げ返される。


「うおぉあッ!?」


「あぁ、それ不発弾だから」


 跳び退きそうになるガッテンを尻目に、ジークの発言を聞いたヴァンプレディが爆弾が一瞬消えた場所へ攻撃を開始する。


 ガキィンという金属音と共に影の姿が露わになる。


「咄嗟にその判断は素晴らしいねッ」


「あんな見事に引っかかるとかアホじゃん?」


 ジークが薄く笑いながらいつの間にやら構えていたコルト銃らしき物を取り出し撃った。

 真っ赤な銃弾が影の脇腹をかすめていく。


「あっれぇ!? 銃は使えないってきいてたんだけどなぁ!?」


「使えるに決まってるじゃん」


 ジョブ補正が無いだけでスキル自体はあるから構成をいじくれば狙撃手の真似事はできる。

 これはゲーム時代にあった装備制限が現実には無いからやれている戦法だ。

 ただ狙撃手の真似事では純粋な製作士のスキル構成よりも弱いから普段はやらないというだけ。


「は、ははッ、戦法をボクに合わせて変えてきたってことだッ! ボクをッ殺すためにッ! 嬉しいよッ!」


 次々と射出される銃弾や血の刃がその身を掠めつつも笑みを崩さない影。

 

『ジーク班。そちらに我、タカ班、七色の悪魔班が向かっている。挟撃だ』


 ジーク達にオークエンペラーの声が届く。

 これは先ほどまでのものと違い、耳元にささやかれているように感じる声だ。

 おそらく影には聞こえていない。


「もうボクを殺せるッて、本気で思っているのかい?」


 いいや? 出来て消耗だろう。

 そう思いつつもわざわざ口にはしない。


 弾幕を絶やさず、ひたすら影を足止めする。


「ああもう、ウザいなぁ」


 影がそうぼやき、グッと身を屈めた。

 完全なる隙だが、ジークやヴァンプレディはそう思わなかった。


「ガッテン」


「応よッ!」


 ヴァンプレディが血の盾を展開し、ガッテンがジークを守るようにして前に出る。

 

 その刹那、一筋の風が吹き抜ける。


 その風はヴァンプレディでもガッテンでもなく――転移阻害の白い人型へと向かっていった。


「じゃあねぇ!」


 そんな余裕の笑みを見せる影。その影を、人型の裏から出てきた刃が袈裟切りにした。


「ぐうッ!?」


 ギャリギャリギャリ! と金属を無理やり引き裂いたような音。

 その直後に白い人型の首がへし折られ、影が姿を消した。



「……チッ、流石に一撃では無理か」


 ジークが眉をしかめる。

 そして空に向けて手をメガホンのようにして呼びかけた。


「おーい。悪い、一発それなりのやつ当ててやったけど逃げられたわ。転移阻害のやつ壊されちゃったから補充よろー」


 そこまで言うとその辺の壁を背もたれに座りこんだ。

 

 先ほどの状況をようやく飲み込んだガッテンがどかどかと足音をたてジークに近寄る。


「おいおいおいおい! おま、あの魔物、忍び寄る刃じゃねぇかッ! いつのガチャで当てたんだよ!?」


「唾かかってんだけど」


「ガッテン、不潔」


 ジークに言い返そうとしたところをヴァンプレディにも罵倒され一気に勢いをなくすガッテン。


「いや、まぁ……何でもいいから教えてくれよ」


「いつも何も。俺の初期魔物だけど」


「あー。初期魔物ね。はいはい……はぁッ!?」


 ガッテンの大声にジークが心底だるそうな表情を浮かべる。

 だがそれとはお構いなしにガッテンが大声のまま話を続けた。


「いや、お前、初期魔物は七色の悪魔さんと一緒の避難所に預けてきたんじゃないのかよッ!」


「え? いや、置いてきたのは七色の悪魔さんだけだけど」


「なんでそんな嘘つくのッ!?」


 若干オネェが混じったような叫びを漏らすガッテンに、ジークが呆れたように言った。


「嘘はついてねぇよ。一回も初期魔物のことに言及してないってだけ」


「じゃあ、なんで……?」


「察し悪過ぎ。忍び寄る刃のスキル構成知らないの?」


「知ってるっての! 不意打ちボーナスだろ!?」


 不意打ちボーナス。

 忍び寄る刃だけが持つスキルだ。

 ゲームでは初撃の威力がアップするだけ、というものだった。


「そうそう。で、ゲームとは違ってこれは現実なわけじゃん? 俺が思うに、ゲームじゃ不意打ちボーナスってやつを再現できてなかったんじゃないかなって。ゲームのアレじゃあ単なる初撃ボーナスだし」


「あー……っと。すまん、もっと分かりやすく」


「分かりやすくってか、まだ話の途中な」


 そこでジークは一呼吸おくと話を再開した。


「避難所に居た時に何回か実験してさ。その一撃が不意のものであればあるほど強化されるって仮説を立てたんだよね」


 そこでガッテンが何かに思い当たったのか頬をひきつらせた。


「お前、まさか」


「味方にとっても不意の一撃だったならもっと良い火力出るんじゃないかなって。その結果がさっきの一撃」


 ガッテンが深く溜め息を吐く。

 

「いや、お前……それお前……」


「感心した。ガッテンは少し見習うべき」


「こんなワケわかんねぇ発想力見習いたくねぇ……!」


「ガッテンは見習わなくていいよ。俺にはないシンプルな強さを持ってるわけだし」


 ジークにはそういった強さがない。

 ジョブが狙撃手でさえあればここまで周到に切り札を隠し続けたりなどしなかっただろう。

 自分のジョブが遊びで育てていた製作士になっていたから。だから搦め手の強さを求めた。


「隠してたってか、騙しててごめん。まぁでも結果オーライ的な」


「そうだな……いや、すげぇよお前」


「あんま褒めんなよきめぇなぁ」


 ガッテンが再びぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたのを無視し、床から立ち上がる。


「ガッテンがマジ置物だったってタカに教えに行こ」


「やめろォ!」


 相変わらずの会話をしつつ、ジーク班は一旦前線から退いていった。



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