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メイドインタカ

「こりゃうまくやりゃバンシーを進化させられるな」

 

 オクテリが領域を去ってから数日後。

 前金として受け取った魔石を床に並べながら俺はほう、と息をついた。


「今後くれる魔石次第ではあるが……前金でこれなら期待できる」


「あう?」


「ああ、そうだ」


 つまりマジあうあうってことさ。


「あの、主殿。我輩の強化は……」


「短剣関連のスキル持ちはレアなんだよ。その数少ない短剣スキル持ちの魔石もヴァンプレディ持ちのガッテンのとこに全部渡しちまったしな」


「うぅむ……」


 こればっかりは仕方がない。短剣関連スキルは蝙蝠系統の魔物がよく所持しているが、それらはヴァンプレディの進化や強化に必要な魔石とかなり被っている。


「おっさんとヴァンプレディ、優先事項はどっちかなんて言うまでもねぇだろ?」


「む、ぐぐ……」


「まぁ地道にレベ上げよろしく……あ、いや待てよ?」


 経験値タンク用の魔物を錬成すんのも有りだな。

 敵にやられた味方の物を回収していたのか、オークの魔石が多数見受けられる。

 オークを錬成してオーク城に派遣、奴等の狩りに混ぜてもらって経験値回収……


「ふむ。良いかもしれん」


「主殿……もしやオーク部隊でもつくるのですか?」


「あ?いや、違うぞ。オーク城に派遣して経験値回収してからおっさんに混ぜようかなって」


「それは大丈夫なんでしょうか?その……オークの心情的には……」


「えぇ?今更?」


 小高い丘作れるぐらいのゴブリンを餌にしてきた癖に言うねぇ。


「一応同盟国ですよ?」


「んー」


 まぁ、そうか。

 流石にやめとくか。


「じゃあ戦力補強で普通にオーク錬成して城の方で鍛えといて貰おうかな」 


「ふむ……それは戦力拡大になるのでは?」


「俺が得するから良いんだよ」


「あ、はい」


 よろしい。

 俺はバンシーちゃんがあうあう言いながら弄っていたオークの魔石をそっと取り上げ錬成陣に置いた。


「……ん?」


「主殿、如何しましたか」


「なんか脳裏に妙な魔法陣が」


 これは錬成陣のアレンジか?よく分からんが……あぁ、あの肉塊脳筋聖女が俺の脳髄に刻み込みやがった知識の断片か。

 まぁ試すだけ試そう。ここをこうして……


「うーん?」


 なんかしっくりこないがやっちまおう。レッツ錬成。


「うお!?」


 バチチィと音をたて紫電が迸り、俺の部屋のカーペットが焦げる。

 そして紫電の発生数が次第に多くなり――

 

 俺が火災の心配を始めた辺りで、ようやく収まった。


「どうなった?……うわぁ」


 錬成陣の上にあったのは、とりあえず人間のパーツを集めてギュッと握りました、とでも言いたげな凄惨な肉塊だった。


「びっくりするぐらい気色悪いなこれ」


「あ、主殿これはいったい……」


「俺も分からん」


 どうしてこうなった?

 俺の魔力不足か?それとも……


「あれ?」


 そこで俺は気付いた。

 おかしい。床に並べていた魔石が目に見えて減った。


「……畜生ォ……持っていかれたァァ……ッッ!!」


 許さんぞあの腐れ聖女ォ……!







タカ:君たちにアレンジ版錬成陣を教えてあげよう


ほっぴー:何だそれ


タカ:肉塊を作れる


ほっぴー:本当になんだそれ


タカ:聖女の知識の断片っぽい


ほっぴー:うわマジか


ほっぴー:ちと見に行くから陣はそのままにしとけよ


タカ:おう





 俺がバンシーちゃんのお腹をぐにぐにすること数分。

 ドタドタという音ともに部屋の扉が乱暴に開け放たれた。


「来たぞー……うっわぁ何だこれ。禁忌にでも触れたか?」


「俺が触れたのはバンシーちゃんのお腹だけだ」


「え?あぁ、うん……」


 なんだその微妙な反応。


「とりあえず写真撮っといてくれ」


 ほっぴーがそう後方に呼びかけるとカメラを構えたスペルマンが入室してきた。


「肉塊邪魔だなぁ。どけてくんない?」


「待て。肉塊がある状態も撮っとこう」


「了解~」


 気の抜けた返事と共にシャッターが押される。


 パシャ。パシャパシャ。




「おーい、何集まってんだお前r……うわぁッ!?殺人現場ッ!?」


 血の気の引いた顔で叫ぶ紅羽。

 その方向を見もせずほっぴーが雑に返す。


「おお、紅羽。ちょうど良いとこにきたな」


「どこが!?」


 てか紅羽の顔、なんか違和感あるな……


「タカ、何じろじろ見てんだ」


「いやなんか足りねぇなって……ああ、あれだ。今日のお前完全に黒髪じゃん」


 俺がそう指摘すると、紅羽が慌てた様子で頭頂部をポンポンと叩いて確認した。

 そう、アレがないのだ。頭頂部から右目にかけて垂れていた一束の紅い髪が。


「やっべ、つけ忘れた」


 つけ忘れた?


「……あー、アレってウィッグなのか」


「当たり前だろ。髪染めなんてしたら校則違反だっての」


 校則……学校かぁ。もはや懐かしさすらある響きだ。

 なんとなくしんみりした空気が俺と紅羽の間に広がる。

 それを感じ取ったのか、ほっぴーがこちらを向いて少し優しげな目つきで言った。


「ようやく状況が落ち着いてきたし、俺らもお互いのこともっと知ろうとしたほうが良いのかもな」


「ああ」


「まぁ今はとりあえずアレだ。……紅羽、この肉塊ちゃちゃっと火葬してくれ」


「お、おう……分かった……」


 良い雰囲気が台無しだった。







 場所は変わり、領域外。

 肉塊を盛大にファイヤーすべく、俺、ほっぴー、スペルマン、紅羽の四人が集まっていた。


「うん、この辺でいいな。スペルマン、紅羽。やっちまってくれ」


「俺要らなくない?モータルとの合流の準備もあって時間ないし意味なくついてこさせないで欲しいんだけど」


「この肉塊の製作者はてめぇだろうが」


「あ、はい」


 いやまぁ厳密にはあの腐れ聖女……とは言えないか。

 俺だな。メイドイン俺。


「あ、生産者表示の写真撮っとく?」


「やめろ」


 俺にそう言われスペルマンが構えかけたカメラをおろす。

 そんなコントじみたやり取りをしてる間に、ほっぴーが肉塊の設置を済ませたらしく、軽く息を切らせつつも戻ってきた。


「じゃあスペルマン、やってくれ」


「了解。フォーカススペル」


「ドラゴンブレスッ!」


 真っ赤に煮えたぎった火竜のアギトが、メイドイン俺の肉塊に直撃する。

 俺が余波で吹っ飛び、周囲の木も数本吹っ飛んだ。


 木の枝に引っかかり吊るされながら肉塊のあった場所を遠目に確認する。


「火葬ってか消滅してるよな」


 クレーターのように凹んだ地面を見て乾いた笑いが漏れる。

 明らかに過剰火力だ。


 俺と同じように吹っ飛び木の枝に吊るされている他の三人も予想以上の火力に半笑いになっている。


「……なぁ、俺ら、もうちょい強くなった方がいいな」


 ほっぴーの言葉に、三人とも弱々しく頷くしかなかった。


 

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