サブカルクソオーク
俺がオークの城に囚われてからはや一週間。
未だ領域側の奴らの意見は「強襲して奪還する」で、俺の意見である「国として認める」との水掛け論が続いていた。
「うーむ」
部屋で一人考え込む。
どうしたものか。今はなんとか諌めてはいるが強襲してくるのは時間の問題だろう。
そして作戦も段々と煮詰まってきており成功確率も悪くないように思える。
「まいったなぁ」
俺は元々避難民の持ち物であった小説の中から一冊を手に取ると、部屋を出た。
「おっす、お疲れ」
すれ違いざま、警備担当のオークキングに軽く会釈。
その後黙々と廊下を歩いていると、ようやく玉座前の扉に到着した。
「失礼します」
「うむ、入れ」
ギィと扉が内から開けられる。
俺が扉を通り抜けると、そそくさと燕尾服を着た細身のオークが扉を閉めた。
「どうだった」
「相変わらずの水掛け論だ……です」
「敬語は別に使わずとも良いと言っているだろうに。一度は素の口調で喋ってくれただろう?」
「いえ、敬語じゃないと落ち着かないケースの方が多かったので」
今でこそ友好的だが、オークエンペラーの気が少しでも変われば俺は一瞬にして肉塊となるだろう。
流石に「敬語めんどいな」ぐらいの理由でそのリスクを増やす気にはなれない。
「ふむ、タカよ。率直に問おう。領域の者らの説得は可能か?」
「可能です」
「それはどのぐらいの確率だ?我を打倒しオークを滅ぼすよりも高い確率か?」
うぐっ、痛いとこ突いてきやがる。
「……分かりません」
「ガハハハ!そう言うしかないだろうな」
こっちは笑い事じゃねぇ。
俺は額に脂汗がにじむのを感じながらオークエンペラーの次の言葉を待った。
「ではタカよ。そこのオークドルイドと共に領域まで行ってくるが良い」
「…………え」
は?
え、いや……駄目だ、意外過ぎて言葉が出てこねぇ。
というか何で?
ひょっとして試されてる?
「ちなみにお前を試してるつもりはないぞ」
強者は読心が必修科目なの?
「今タカを手放し我が従者の1人と共に領域に放つことが最善だと判断した」
……そうなの?
「では、同伴者であるオークドルイドを紹介しよう」
俺が話の展開を飲み込めずにいる間にも、どんどん話が進んでいく。
燕尾服を着た細身のオークが俺の前に立ちうやうやしく礼をし、そのまま流れるようにジョジョ立ちに移行した。
「オークドルイドはこの領域内のオークの中で我を除いて一番知能が高い。ある程度言語も仕込んである」
「インテリジェンス……」
すげぇ!馬鹿そう!
「漫画やえぇと、ラノベ、だったか。それを特に好んで読んでいたらしいからな、タカとも気が合うはずだ」
「インテリジェンス」
「お前それしか喋れねぇんじゃないだろうな」
俺の言葉に目を丸くしたオークドルイドがニッと笑いピッと人差し指を立て再び口を開いた。
「クレバー」
おいこいつぶっ殺していいか?
タカ:インテリジェンス!!!!!!!
ほっぴー:ようストックホルム症候群発症中のタカ君
タカ:はいノットインテリジェンス
タカ:俺はいたって正気だ
ほっぴー:生態からして相容れねぇつってんだろ
ほっぴー:人間を餌食にする侵略的外来種だ
タカ:あーもーいいよ
タカ:今からインテリジェンスなオークをひっ連れて領域に戻っからよ
砂漠の女王:は?
ほっぴー:は?
砂漠の女王:え?解放されたんですか?
タカ:いや、派遣された
ほっぴー:ナチュラルにオーク軍に入隊するのやめてもらえます?????
ガッテン:ブーメランとかそういうレベルじゃねぇぞ
ジーク:シンプルに裏切りで草
タカ:はー、そうやって自分を枠の中に入れてしまうその思考、ノットインテリジェンス
鳩貴族:さっきから何なんです?それは
タカ:連れの口癖
ほっぴー:駄目だこいつ1人にした途端どんどん事態を訳分からん方向に発展させやがる……
Mortal:タカ、ヤワタの事はどうするつもりなの?
タカ:オークエンペラーんとこに遊びに行かせたらいいんじゃないか
ジーク:はいノットインテリジェンス
ガッテン:さっそく使いこなしていくのか……
鳩貴族:用法がブルゾンちえみの「ダメウーマン!」と一緒ですね
ほっぴー:隙あらば風評被害広めるのやめろ
タカ:まったく、もう!ダメヒューマン!
Mortal:タカ、怒るよ
タカ:あっ、すいません……
ほっぴー:ダメヒューマン!(自己紹介)
ジーク:ブーメランちえみやめろ
ガッテン:草
鳩貴族:草
タカ:草
ほっぴー:てめぇは草を生やすな
タカ:はい……
砂漠の女王:ふむ
砂漠の女王:まぁひとまず領域には来てもらいましょうか
タカ:ああ、頼む。モータルごめんな、とにかく一度直接話したい。オーク側の意見も交えてな
砂漠の女王:身柄を拘束した後でならいくらでもどうぞ
タカ:本当にちゃんと話を聞いてくれるんだろうな?
お代官:保証するとも。正直こちらとしてもオークエンペラーの真意を知りたい
タカ:分かった
タカ:あとモータル、後回しになるけどごめんな
Mortal:分かった
Mortal:でも一番会いたがってるのはヤワタだから
タカ:そうだよな、ごめん
ほっぴー:領域に到着はいつになりそうだ?
タカ:あと一日かけりゃ着く
ほっぴー:分かった
「なぁ、オークドルイド」
「オークインテリジェンスで良いと言ってるではないですか、マイソウルメイト」
オークドルイドが読み耽っていた漫画雑誌から顔をあげる。
「じゃあオクテリ」
「オクテリ!?」
んな長い名前いちいち言ってられっか。
「このまま領域に行けば俺もあんたも身柄を拘束される。分かってるよな?」
「ええ、分かっておりますとも。無論、オークエンペラー様も」
そうか……
「説得、成功すると思うか?」
「それは我々のインテリジェンスにかかっています」
はあ、我ながらどうしてこうなったのやら。
頭の隅をよぎるのはオーク城での日々。
大したことはやっちゃいないが、俺はあの場所に……確かに生物としての営みを感じた。
「問題は山積みだが、覚悟決めて一歩踏み出すとするか」
「インテリジェンスと共にあれ……!」
多分フォースだと思うんですけど……