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避難民奪還計画

「さーて、まずはオークの城の内部構造だ。避難民はどのあたりに居る?」


 俺の言葉に影がすっと肩をすくめた。


「すっとぼける気か?」


「それってまだ助かる避難民?それとももう助からない・・・・・・・避難民も含めて教えて欲しい?」


「……まだ助かる避難民だ」


「あっ、言い忘れてた。もしかしたら助かるかもしれない避難民はどうする……うぐっ」


 俺は気がつけば影の胸倉を掴み上げていた。


「確実に助けられる奴だけ助ける。他は見捨てる。余計な口ばっか利くようなら眉間に風穴をあけるぞ」


 俺の脅しなど意に介さない様子の影は口の端をニヤリと歪めた。


「主殿。その辺にしておいた方が良いかと」


「そうだよタカ。落ち着いて」

 

「喧嘩しちゃだめだよ」


 他の3人に諭され、俺はしぶしぶ影から手を放した。


「いやー、ときめいちゃったよ。で?他には?」


「……最初からこうすれば良かったな」


 首を傾げる影に俺は紙とペンを渡しニッコリと微笑んだ。


「書け」


「えっ、めんどくさっ」


「書け」


「いやでも主要部だけ口頭で言ってあとは出たとこ勝負……」


「書け」


「…………りょーかい」


 影は肩をすくめた後、ペンを持ち城内マップを書き始めた。


「終わったら言えよ」


「はいはい」


 俺はふう、と息を吐き、次はモータル達の方へ向き直った。


「今回の作戦は大方決めてある」


「ほほう?どういったものですか」


「ヤワタ。お前は外で暴れ回って領域を破壊しろ。ただその時は、闇雲に破壊するんじゃなく、意識的に破壊するんだ」


 首を傾げるヤワタ。

 まぁいきなりそう言われても困るか。

 もう少しアドバイスしてやりたいが、領域破壊に関しちゃ俺はその感覚を知りようがない。


「うーん……わかった」


「頼むぞ」


 さて、と。


「じゃあ次に俺達だが……ヤワタが暴れてるうちに城内に潜入する」


「なるほど」


「と言っても城内の構造次第じゃかなり厳しい……影、城に裏口はあるか?」


 せっせと城内マップを書いていた影は一瞬だけ顔を上げ答えた。


「あるよー」


「よし。俺、モータル、おっさん、あと影。この4人で裏口から侵入する……で、まぁこっからは城内マップ次第だな」


 俺はそこまで言うとソファーに深く腰掛けた。


「ヤワタ」


「なに?」


「俺はまだお前にそこまでの思い入れはねぇが、救う覚悟は出来てる」


「えーと」


 ヤワタは俺の言いたいことが分からないようで少し困惑した様子だった。

 もっと直球で言うべきか。


「信用してくれって事だ」


「もうしてるよ?」


「……そうか」


 何となくむず痒さを感じた俺はヤワタから目を逸らした。

 

「あ、タカ」


「どうしたモータル」


「掲示板で一応報告」


 そうだな。

 俺は気恥ずかしさから逃げるようにして掲示板魔法を起動した。





タカ:報告


ほっぴー:おっ


タカ:作戦の目処が立ちつつある


タカ:ヤワタが城の外で暴れ回って警備してるオーク共をひきつける


タカ:んでその隙に他のメンバーで裏口から城内に潜入して救助


ほっぴー:ふむ


砂漠の女王:領域に足を踏み入れた時点で勘付かれるのでは?


タカ:そこは心配してない


タカ:影のやつ、俺と最初に会った時に何してたと思う?


スペルマン:触手プレイ?


タカ:やってたらもう全力で殺しにいってるんだよなぁ


ジーク:大喜利が始まったと聞いて


タカ:始まってねぇよ。下がってろ


ガッテン:もったいぶらずに話した方が良いぞ


タカ:そうだな


タカ:俺と会った時、あいつはオークの領域の中で寝そべってた


ガッテン:えぇ……


ほっぴー:舐めプかよ


お代官:うぅむ、それは何とも……


お代官:ああいや、そういう事か


ジーク:影は領域の主に気付かれない術を持ってる?


お代官:私のセリフなんだが


砂漠の女王:お代官様が言ったことにしてさしあげましょうか?


お代官:どういうことだ!?


砂漠の女王:かなりの代償を支払いますが認識の書き換えを


お代官:この程度のことで!?


ジーク:草


砂漠の女王:やりますか?


お代官:やめなさい


砂漠の女王:分かりました


お代官:うむ


タカ:あー、なんか影が呼んでっから離席すっぞ


お代官:分かった。何か追加情報があったら報告するんだぞ


タカ:了解





「見てよこれ、上手く書けたと思わない?」


 影が渾身のドヤ顔と共に数枚の紙を差し出してきた。


「やけに早いな」


「触手も総動員で書いたからね」


 くすん、キモいよ……。

 掲示板の方見ててよかった。影の方を直視してたらSAN値チェックが入ってたかもしれん。


「ふむ。シンプルな作りだな」


「まぁしょせんオークってことだね。捻りが足りないよ」


「ここが裏口か?」


「そうだね。で、赤で囲ってるとこが避難民を監禁してるとこ」


「……なんでこんなにオークジェネラルの居る場所に近いんだ」


 俺の問いに影は片眉を上げ、答えた。


「君だって日用品は近くに置くだろう?」


「……不愉快な言い方だな」


「でも事実だ」


 ああ、そうだな。

 だからこそむかつく。


「他に言い忘れてる情報はあるか」


「うーん」


 影はあごに手を当て悩むような素振りを見せた。

 だがすぐに満面の笑みを浮かべると言った。


「さぁね」


「殺すぞ」


「まぁ確定事項じゃないから。簡単に成功できちゃうかもよ?」


「……クソが」


 やはり今回もなにか・・・ある。

 だがそれを知った上でも行くしかない。


「まぁいい。良くはないが……ああ、そうだ。お前、領域に侵入してもオークジェネラルに察知されない術があるだろ?それは俺達にも使えるか?」


「それは勿論」


 少し不安だったがやっぱり持ってたか。


「じゃあ頼む」


「任せてよ、ボクの光」


 お前ほど物事を任せるのに不適切な人材もないんだが……


 俺は深く溜め息を吐くと、城内マップを持ってモータル達のところへと戻った。

 このマップをふまえた上で作戦内容を掘り下げる。

 そしてその作戦の決行は――


「今日中に行くぞ」


「主殿……」


「俺達の救助が遅れれば遅れるほど助かる人間が減る。急ごう」


 俺の言葉に、モータル、おっさん、ヤワタが強く頷いた。


 

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