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庭を荒らす男

 

「練成……よし。一旦このフェアリーはキープかな」


 コツコツと魔物を練成しながら今後の計画を練る。


 まず当面の問題は何があるのか。

 一つ目。避難所の動向。完全に放置していたが、流石に三日も経っているし、あちらの戦闘要員とこの街の防衛に関して話し合う必要がある。

 二つ目。家族の保護。まあこれに関しては俺と紅羽で何とかする。両親はラインで「米軍TUEEEEEE(意訳)」とか何とか言っていたので大丈夫だろう。

 三つ目。俺のペラペラの装甲。フェアリーに杖で殴られても普通にダメージが通るレベルでやばい。これは使役する魔物を強くして何とかカバーする。耐久度高めのグールが手に入ったので当面はグールの強化に勤しんで、タンク役にする。


「とまぁ、そんなもんか」


 さて、この中で一番見通しがついてない問題は、避難所の動向だ。正直どうやってコンタクトをとればいいか分からない。紅羽に丸投げしたい。

 おっさんに代理で行かせて仲介みたいにするか。あー、でもそうすると相手側から見た俺の立ち位置が謎すぎるか。上手い具合に部下っぽいの行かせて「街の魔物駆除を積極的にやってくれている別働隊」みたいな立ち位置を確立したいな。


「部下らしい部下、ねぇ」


 周囲を見渡すと、一面の緑。そう、スキルの餌でお馴染みのゴブリンである。

 こいつらを行かせようものなら俺の事を魔物の王とみなして討伐隊を組まれかねない。

 かといってグールもアウト。参ったな。誰か天の石くれよ。次はもっと良いのが引ける。そんな気がするんだ。


「おい」


「ん?ああ、紅羽か。どうした」


「あたしが何で怒ってるか分かるか?」


 うわー出たよ。どう返しても怒られるやつ。


「当たり前だろ。何で人に迷惑かけといて怒られずに済む方法を模索してんだてめえ」


 迷惑かけてるか?


「ちょっと周囲見渡してみ?」


 ……一面のクソミドリですね。


「いやー、良かった、良かった。ちゃんと目は見えてるんだな。じゃあ質問をもう一個」



「自分の家の庭で勝手にゴブリンを大量生産されたあたしの気持ちを述べよ」



 いや、ほんとすんません。












 タカ:悪魔さん居る?


 七色の悪魔:聞こえるぞ……我を呼び覚ます声……


 タカ:人材育成のチャートくれ


 七色の悪魔:人材育成?


 ほっぴー:毎回素が出るの早すぎて笑う


 ジーク:悪魔さんは化けの皮の粘着力がゼロだから


 タカ:人育成したい


 Mortal:マジ?練成できるようになったの?


 ほっぴー:サイコ発想やめえや


 七色の悪魔:そういうのよくないですよ


 ガッテン:悪魔さんはこのグルの良心だな……


 タカ:いやー、俺も最寄の避難所支援しようと思ってな。悪魔さんそういう事してたんでしょ?


 七色の悪魔:してたというよりしてる最中です


 スペルマン:最中を毎回もなかって読んじゃう


 ジーク:スペルマンさん原稿は出来ましたか……?


 スペルマン:おい。やめろ


 ガッテン:浮上する度に沈めるのは可愛そうだからやめて差し上げろ


 七色の悪魔:個チャに留意すべき点を幾つか書いておきました。参考までに


 タカ:あざっす


 Mortal:あとお前ら掲示板使え


 タカ:パス違ってて入れねぇんだよ


 Mortal:マジ?じゃあもっかい立てるわ


 タカ:おう。前のスレ消しとけよ。あとスレタイ十傑にすんのやめろ








 さあ、人材育成はまず人材を見つける所から!


 おや?さっそく誰かが入ってきましたね?

 あの金髪頭のチンピラ男二人組みは……

 ああ、先日会った火事場泥棒かぁ!


「なあ……パワーレベリングしようやぁ……」


「うっわ!?ってお前この前の!!この店にも居るのかよ!」


 さあしっかり肩を組んで捕獲したらナイフをチラ見せしながら交渉。


「せ、先輩……俺帰っていいッスか」


「てめえ!見捨てる気か!?」


「何揉めてんだよ。いいから俺に育てられろ」


「なんかコイツやべぇ事いってんぞ!?助けてくれ!!!」


「いや、ちょ、ホント俺アレがアレなんでお先に」


「おおおおあああああ待て!待てって!なあ!」


「いやお前も逃がさんぞ」


「……うッス……」


 やかましい奴等だ。だがこの環境に数日で適応してみせたその生き汚さはなかなかに盗賊みがある。俺は盗賊系統のジョブの育て方しか知らないので、その分コイツらは都合が良い。


「お前ら、ジョブはどうせ盗賊だろ?」


「お、おう。そうだ。二人とも盗賊だ」


「俺はお前らの上位職についている。どうだ?お前らも高みを目指したくないか?」


「先輩、これ代償に魂とか要求してくるタイプの奴ッス。何とか断ってください」


「無茶振りしてんじゃねぇ!……あの、拒否権とかって」


「え?聞こえないな」


「……あの、拒否権」


「え?聞こえないな」


 いやまあ別にこいつらに固執する必要は無いし逃がしてもいいんだけどね。


「……わーい、俺高み目指したいッスー」


「てめえ!あ、あの俺も目指したいです!へ、へへ……」


 いい適応能力だ。見込みがあるぞ。


「よし。じゃあ……」


 この辺にぃ、いい魔物のコロニーあんだけど……殺ってかない?










「死ぬ!死ぬ!」


「黙って手を動かすんだよ!」


 想像以上に多いな。クソ。あんまし見せたくなかったが、いずれ見せる事になるだろうし使っちまうか。


「グール!やれ!」


「師匠、急に何を……うおおおおお!!!?」


「がぁあああうっ!」


 フハハハハ!!見ろ!ゴブリンがゴミのようだ!




 俺率いる盗賊部隊は昨晩、紅羽から報告を受けていたホブゴブリン・リーダーを中心とし繁殖していたコロニーを襲撃していた。湧くわ湧くわ一面のクソミドリ。まるでどこかの誰かさんの庭みたいだぁ……。


「先輩!やっぱアレ魔王ッスよ!高笑いしてるし!」


「お前もそう思うよな!?バリバリ魔物使役してるしなぁ!?」


 何言ってんだ。俺はどちらかと言うとヒーロー側だぞ。失敬な。


「ゴァアアーーーーッ!」


 お、ようやくリーダーのお出ましか。

 進化素材、期待してるぜ。レアエネミーさんよ。


「師匠ぉおおおおお!!なんかヤバそうなの出てきましたけどぉおおおお!?」


 ああ。アレは俺がやるから。


 俺はゴブリン共を足場に跳躍し一気に距離を詰め、首をちょんぱした。

 まあたかだか序盤のレアエネミーだし、こんなもんだ。


「……師匠、パねぇッス」


 パねぇだろ?お前らもいずれこうなるんだぜ。










「俺の拠点へようこそ」


「倉庫ッスよねこれ」


「まあ座れよ」


 辛い戦い(盗賊二人組にとっては)だったが、得る物は大きかったようで、帰り際の速さは明らかにコロニー襲撃前よりも速かった。数値で見れないのが残念だが、レベルはかなり上昇したと見ていいだろう。


「あ、あの、師匠……なんか髪の毛赤い人がこっち来てますけど」


「ん?おお。紅羽」


 髪の毛赤い人こと紅羽が、ズンズンと効果音がつきそうな足取りでこちらへ向かってくる。


「その二人は、何だ?」


「拾った盗賊」


「……返して来い!拾った所に!」


「ちゃんと育てるから!ね!?」


「信用出来るかぁッ!!タカ、てめえゴブリン片付けずに出かけやがっただろ!あたしが全部あのおっさんに混ぜてやったんだぞ!?」


「ちゃんとするから!ちゃんと世話するから!」


「嘘つけ!またどうせあたしに尻拭いさせるんだろっ!?」


 ギャーギャーと、野良猫を拾ってきた息子とその母親のような問答を始めたタカ達をただ呆然と見つめながらその拾われた盗賊達はポツリと呟いた。


「俺達、何に付き合わされてるんだろうな……」


「さあ、分かんないッス……」




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