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京都と頭痛と影法師


「そろそろ見えてくると思うが」


 あのドラゴノイドとの邂逅から数日。

 特に大きなトラブルもなく京都に到着した。


「ほら、これ」


 モータルがこちらに望遠鏡を投げ渡してくる。


「……ああ、あるな。この街並みにはまるで不釣合いな城が」


 京都府景観条例に正面から喧嘩を売っているその巨大な城は、遠目に見るだけでもこちらにかなりの圧を与えてきていた。


「オークエンペラー、か」


 オークキングなら勝てる自信がある……が、それの上位。それも取り巻きの数も凄い量だろう。


「作戦を立てる必要があるな」


 見切り発車で勝てる敵じゃねぇ。

 いや、まぁ避難民の救助ができれば勝つ必要は無いが……


「情報がない。斥候に行きたいが……領域だもんなぁ」


「ふむ。であれば主殿、我輩に一つ案が」


「言ってみろ」


「領域内だけでは食料が足りないはず。必ず外に出てくるオークがいるはずです」


 ふむ。まぁ俺らもそうだったしな。


「その内、上位オークを生け捕りにし尋問しましょう」


「尋問ね。それが通じるほどの知能はあるのか?」


「オークキングであれば」


 オークキングか。

 オークエンペラーからすれば格下だし何体か配下にいてもおかしくねぇな。


「とりあえず領域に入らない範囲で嗅ぎ回るとすっか」


 俺の提案に他の三人が頷いた。







タカ:定期報告


タカ:オークエンペラーの配下として二体のオークキングを確認


ほっぴー:うわ


タカ:これは予想だが十体はいるんじゃねぇかな


ほっぴー:なんで?


タカ:そのオークキングと取り巻き数匹って領域の外での食糧調達役みたいなんだよ


ほっぴー:ああ、俺らの方の領域での戦力の分配比率とだいたい同じと


ほっぴー:うーん、種族が違うしどうなんだろうなぁ


Mortal:生け捕り作戦のこと話さないと


タカ:ああ、そうそう


タカ:オークキング捕獲して尋問しようかなって


ほっぴー:えぇ


ほっぴー:どんだけ丈夫な鎖用意すりゃいいのそれ


タカ:いや普通に四肢切断でええやんけ


ジーク:普通の定義こわれる


ほっぴー:いやそれは……


Mortal:切れるかなぁ


タカ:そこはもうモータルがズバッと


ジーク:モータルが斬る!


ほっぴー:「葬る」


タカ:葬らねぇよ。生け捕りつってんだろ


ガッテン:実際やっちゃいそう


Mortal:わかる


タカ:わからないで


鳩貴族:どちらにせよ、腕や足を両断できるほどの隙が必要ですよね


タカ:わかる


ガッテン:普通の会話のキャッチボールなはずなんだけどなぁ、なんか投げ方がブーメランっぽくて一瞬反応してしまう


タカ:は?


タカ:ぺしゃんこにするぞ


ガッテン:どういう脅しだよ


ジーク:草


ほっぴー:笑うわ


鳩貴族:投げ方がブーメランっぽいって表現、なかなか的確ですね


ほっぴー:フェイントブーメランすき


タカ:謎単語を生み出すな


紅羽:ブーメラン投げすぎて精神がブーメラン寄りになってんだろ


ジーク:精神性がブーメラン


タカ:はーーーー


タカ:あのなぁ


タカ:お前らこんな言葉知ってっか?


タカ:ブーメランを投げ返すとき、自分もまたブーメランを投げているのだ


ほっぴー:謎格言を生み出すな


ジーク:相互ブーメランすき


七色の悪魔:ブーメランがゲシュタルト崩壊起こしてて頭がくらくらするのですが


ジーク:あ、悪魔さん、今晩クトゥルフやらね?


七色の悪魔:いいですね


タカ:流れるように遊びの予定立ててんじゃねぇよ


お代官:ちょっと君達


ガッテン:お代官さんだ……!


お代官:いや多少の脱線は許容しようと思ってROMっていたが


お代官:流石にアレなのでな


タカ:せやぞ


ほっぴー:は?


タカ:やんのかコラ


お代官:流石に!!!!!アレなのでな!!!!!!!!


ガッテン:言われてるぞ


ジーク:ちょい離席


ガッテン:フリーダムが過ぎる


Mortal:俺も離席いい?


タカ:お、なんかあったの?


Mortal:見える距離にオーク来た


タカ:りょ


お代官:う、うぅむ


お代官:ひとまずタカ君の目標確認だ


お代官:タカ君の目標は避難民の救出


タカ:はい


お代官:そのために城の内部の情報が欲しいんだろう?


タカ:そうです


ガッテン:さすがお代官さんやなぁ


タカ:ガッテンとは違うなぁ


お代官:そして!!!!!!オークキングを!!!!!尋問する案を思いついた!!!!!ここまでいいかな!!!?!?!?!?


ほっぴー:ヤケクソで草


七色の悪魔:あまり大声を出すとお身体にさわりますよ


お代官:別に実際に叫びながら書きこんでるわけじゃないぞ!!!!!!!!!!!


お代官:でもなんでかな!!!!!!!!脳の血管への負荷が半端じゃない!!!!!!!!


砂漠の女王:わたくしの膝枕の効能のひとつに頭痛抑制がございますよ


お代官:ありがとう!!!!!!!普通に治癒魔法でいいよ!!!!!!


砂漠の女王:膝枕という条件を達成しないと行使できない魔法なのです


お代官:そんな実用性皆無な魔法廃れちまえ!!!!!!!!!


ほっぴー:勢いで笑う


タカ:草


ガッテン:草


お代官:もう寝るぞ!?なぁ!!?!?


砂漠の女王:でしたら是非、わたくしの膝枕を


お代官:もうそれで構わんよ……


タカ:順調に落ちてんなぁ


お代官:とりあえずタカ君、モータル君。慎重に動いてくれ


タカ:分かりました


お代官:じゃあ私は寝るよ


タカ:はい


鳩貴族:慎重に動く、ですか


タカ:まぁそうなる


鳩貴族:避難民のことを考えるとあまり時間があるとは思えませんが


ガッテン:確かにな


ほっぴー:でもそれでミイラ取りがミイラになっちゃ元も子もねぇだろうが


鳩貴族:まぁそうですけど……


Mortal:救うよ


Mortal:最善を尽くす


鳩貴族:分かりました。その言葉を信じます






「……モータルに良いとこもってかれたな」


 俺はほう、と息を吐き、再び領域内の観察に戻った。


 城は数匹のオークやオークファイター、ごくまれにオークキングが出入りする以外は何の変化も見られない。

 そして既に日が傾きかけた今、その出入りすらもまるで見られなくなってきていた。


「ふむ」


 次第に城の落とす影法師が大きくなる。

 そんな光景を何の気なしに眺めているとふと、違和感のあるモノが目に入った。


 影の一部がむくりと起き上がりこちらに手を振ってきた・・・・・・・のだ。


「……影、か」


 俺がそう呟くと、影が「ご名答!」とばかりにサムズアップしてきた。



 ドラゴノイドの言葉が俺の頭の中でフラッシュバックされる。



『あー、アレはアレでまた別のこと準備してるみたいだぜ』



 クソが。頭痛がしてきた。

 バンシーに腹枕してもらわなきゃ……



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