異界化
「……異界化ってのはなんだ」
ドラゴノイドは俺の問いに目を丸くした後、答えた。
「強くなった魔族はその存在そのものが別世界と化す。あんたらの知り合いの中にもいなかったか?」
「砂漠の女王のことか?」
「そいつは例外だろう……ありゃ、何というか……手順が逆だ」
手順が逆?
「どういう意味だ」
「あー……」
ドラゴノイドはそんな曖昧な声を出しつつ視線をさまよわせた。
「すっげぇざっくり言うとだな。通常は、強くなったら異界化するんだ。だが砂漠の女王は異界化することで強くなった」
ふむ。
分かったような分からんような。
「強くなったら、ってのはどのくらいの強さだ?」
「いやまぁ厳密にはある程度魔力を取り込んだ時点で微少規模であれ異界化はしてるんだ」
「なに?」
「そうでもなきゃ世界のシステムに反する事象なんて起こせない」
ふむ……
正直言って、俺は突如として知らされたこの情報をもてあましている。
俺達の目標はヤワタの能力の制御であり、この情報はその目標には一切関係が……
「……オークの領域か」
「ああ。本題はそれだよ。何とか助けてやっちゃくれないか」
千載一遇のチャンスではある。だが無策で突っ込めば手痛いしっぺ返しが待っていることは想像に難くない。
コイツは意図的に逃がされた。つまりは領域の面子を釣るための罠である可能性が高い。
どの人間でもいい、軽く締め上げれば、東京にそんな場所があるらしい、ぐらいの情報は容易く吐くはずだ。
「タカ」
「モータルか。どうした」
「俺も何個かそいつに質問して良い?」
「構わん」
俺が頷くと、モータルはドラゴノイドの前に立ち淡々と質問を始めた。
「領域はどのくらいの大きさ?隣の県まで広がってたりする?」
「いや?京都市を包む程度の大きさだ」
「ふーん。話は変わるけど、ドラゴノイドの暮らしってどんな感じなの」
「狩りと、畑仕事。あとは好きなように過ごす」
「教育は?」
「んなもんねぇよ。一部のやつが読み書きを教わったぐらいだ」
「君はその一部のドラゴノイド?なら名前ぐらいあるよね」
「……い、いや、単なる村人の一人だったが」
「そっか」
そして俺が止める間もなく、モータルは抜刀しドラゴノイドを貫いた。
「……はあ!?」
「ごふッ……な、何を……!?」
血を吐きつつ、信じられないといった表情でモータルを見るドラゴノイド。
「嘘をついたでしょ」
「……は、はは……これだから勘と思い切りの良さを両立してるヤツは始末におえねぇ」
ドラゴノイドは口内の血をその辺の床に吐き捨てると、こちらに向けニタリと微笑んだ。
「だがこれは俺の善意からの行動だ。そこだけは信じて欲しい」
クソ迷惑かつ基準が謎な善意……
既視感があるな。
「……てめぇ、影か?」
「あー、アレはアレでまた別のこと準備してるみたいだぜ」
最悪じゃねぇか。
やっぱさっさと殺すべきだったな。
「てことは奉仕種族?とかいうやつか?」
「いいや?人間だよ。少なくとも昔は」
昔は?どういう意味だ?
「でもモータル君が宿主殺しちゃったし……そろそろ本部に強制送還されちまうな」
「本部?なんの本部だ」
「お前らには関係ないぞ。いやほんとに。話の規模が違いすぎるんだ」
「いいや、あるね。教えろ。じゃねぇと殺す」
「殺せるもんなら殺してほしいもんだな。こちとら不死身の社畜としてばかみてぇに働かされて……うおっ!?」
突如としてドラゴノイドの身体がビクンとはね、そしてピクリとも動かなくなった。
……これは。
「逃げられたか?」
「多分」
「クソッ……」
タカ:すまん、今誰かいるか
砂漠の女王:はあい
タカ:うーん
タカ:まあいいか
砂漠の女王:先ほどのドラゴノイドの情報提供、善意ではあるようですよ?
タカ:は?
タカ:なんで知ってる
砂漠の女王:そりゃ、見れますもの
タカ:ついでに京都も見てくれ
砂漠の女王:ドラゴノイドの中身に気付いた時点で慌てて見ましたの
砂漠の女王:コストがかかるので、使用頻度はなるべく抑えたく
タカ:わかった、わかった
タカ:アレはなんだ
砂漠の女王:さあ?
タカ:今さっき中身に気付いたつったじゃねーか
砂漠の女王:やばそうなヤツ、というのに気付いたんですの
タカ:その嘘、無理があると思わないか?
砂漠の女王:隙を見せるぐらいでしか教えられないので
タカ:ああ、そういう……
砂漠の女王:はい
ほっぴー:面白そうな話してんねぇ
タカ:お前実は結構暇だろ
ほっぴー:仕事終わらせるのがはやいだけですぅー!
ほっぴー:はー、残業するやつ無能の証ぃいー!
鳩貴族:なんだァ……?てめェ……
スペルマン:その言葉は許せん
お代官:同感だな
ほっぴー:スペルマンは純度百パーセントの自己責任だろ
スペルマン:はい……
ジーク:社畜おびきよせる香でも焚いたのかな
ガッテン:ROMってんの俺だけかと思ってたらほぼ全員やんけ
ジーク:既読つけるぐらいの気力はあるけど絡む気力が
タカ:なんだてめぇら
紅羽:お前ら仕事は?
タカ:せやぞ
タカ:仕事しろ
ほっぴー:などと逃走者が申しております
タカ:あぁコラ。立派に情報収集してるだろうが
ジーク:粘着テープみてぇにその辺の揉め事拾ってってるだけ感
タカ:ぶっ飛ばすぞ
ほっぴー:粘着テープは笑う
ガッテン:性格も粘着質だしけっこう合ってんな
タカ:テープでぐるぐる巻きにしてオークの巣に投げるぞてめぇ
ガッテン:なんで俺への罵倒だけ具体的なんだよ
ジーク:草
ほっぴー:罵倒× 犯行計画○
ガッテン:ほんとにやめろ
タカ:うるせぇ
タカ:つーか本題に戻させろ
ほっぴー:本題なんだっけ
タカ:ドラゴノイド
ジーク:ドラゴノイドガッテン
スペルマン:それすき
ガッテン:あのネタまだ引きずってんのか!?
タカ:本題をもっと引きずれ
ほっぴー:つっても俺らできることねぇし
ガッテン:それな。だからROMってたんだが
タカ:ゴミがよぉ!!!!あぁ!!!!!?!?
ジーク:草
ガッテン:ごめんね……
砂漠の女王:まぁ一応こっちでできるだけのことはしておきますから
「あてにならねぇ……なんだコイツら……」
話が脱線どころか線路粉砕してるレベルじゃねぇか。
俺は掲示板を閉じ、ひとり頭をかかえた。