業火と駆ける者達
さて、結局俺は砂漠の女王を説得するしかない状況に追い込まれたわけだが……
「ごきげんよう!さっそくだが蛇への攻撃を止めてくれるかな?」
「駄目に決まってるでしょう」
まぁ、いいともー!とはならねぇか。
さて、どうするか。一番効くのはお代官さんを絡めた説得だろうが……
そこで砂漠の女王と目が合った。
「……なんだよ」
「このことはお代官様も納得済みです」
「それは本当のことを話した上で、か?」
俺がそういうと、砂漠の女王は微かに嘲笑を浮かべた。
「ええ、貴方に話していない部分も含め、包み隠さず」
なんだと?俺に話してない部分?
「……俺には言えないのか」
「わたくしはお代官様の魔物ですから」
クソ、お代官さんさえ居りゃそっちから聞くんだが……んな時間はねぇし……
チラリと大蛇の方を確認する。かなり厳しい。十分もつかもたないかってとこか。
「頼むから教えてくれ。部分的でもいい」
「……あの蛇が領域にいるだけでわたくしの命が脅かされます。これは大蛇の敵意の有無に関わらず発生する問題です」
「ならあの蛇は領域外を巡回する役を与えるってのは」
「そんな大した益もない事でわたくしに生命の危機を甘んじて受け入れろと言いたいのですか?」
……まったくもって正論だな。
嫌になっちまうぐらいに合理的で、正しい。
「……分かったよ」
「分かって頂けましたか。ではモータルさんを……」
「モータルぅうううううう!蛇連れて領域外に脱出するぞぉおおおおおお!」
「「「……は?」」」
誰ともつかぬ困惑した声が領域に響く。
「撤退、撤退!撤退するぞモータル!」
ついでとばかりに砂漠の女王に砂をぶっかけつつモータル達のもとへ駆ける。
「わ、分かった!」
おら蛇てめぇもぼさっとしてねぇで……
そう俺が口を開こうとした瞬間、眼前の巨体が消えうせた。
「……あぁ!?」
『魔力切れしたようです!今の内にトドメを!』
させるかクソがぁ!
「モータル!……そいつ抱えろ!走れ!」
「分かった!」
先ほどの姿からは考えつかないような小さな身体と、真っ白な肌。
モータルはその蛇男をひょいと抱えると俺が追いつけるかどうかギリギリの速さで走り出した。
「おいおい、待ちなよタカ」
「カーリアちゃん!アルザ止めてくんね!」
「えぇっ!?」
「おいおい、カーリアちゃん、まさか、また僕に叩きのめされたいのかい?そんな事ないよねぇ?」
「い、いえ、そんなことは……」
クソ、一秒も稼げないか。
そんなことを考えた、数瞬。
後頭部をかすめるようにしてとんでもない質量を伴った熱が通過していった。
その凄まじい衝撃に、俺の身体が数メートルほど吹き飛んだ。
「うおおおおおおああああああ!!!!?? ……くっ」
だが好都合だ。傷だらけの身体に鞭をうち、立ち上がる。
その時ちらりと後方を確認してみれば、こちらに向けサムズアップする紅羽の姿が見えた。
「やり方が荒すぎるだろ……ッ!」
一歩間違えば丸焦げになりかねない援護をしてくれた仲間に苦笑いしつつ、俺は歩を進めた。
それから領域の外へ出るまでおよそ三分。
紅羽や他の十傑に足止めされたのか、諦めたのか。
いずれにせよ、俺達に追っ手がつくことは無かった。
タカ:こんばんは
ジーク:は?
ほっぴー:こんばんは、裏切り者さん!死ね!
ガッテン:お前なぁ……
砂漠の女王:あんな事をしておいて、平然と掲示板に顔を出せるとは思いませんでした
砂漠の女王:なにか弁明でもするつもりですか?
タカ:いや普通に雑談っつーかなんつーか
ガッテン:えぇ……
ジーク:草
ほっぴー:うっそだろお前……
タカ:しばらく領域には帰らねぇよ
タカ:解決策が見つかるまではな
砂漠の女王:お代官様、もしかして話したのですか?
お代官:ああ、すまん
お代官:個チャの方できかれてな
砂漠の女王:そうですか……
砂漠の女王:解決策、ですか
タカ:力のコントロールがうまくいってねぇだけでそこさえ慣らせば何とかなる。そうだろ?
砂漠の女王:まぁ既に領域は発っていますし、わたくしが口を出す義理はありませんわ
タカ:それで構わん
タカ:まぁ何とかしてみせるから首洗って待ってな
鳩貴族:あ、タカさん。せっかく領域外に出たのなら私が元々いた避難所の様子を見てきてもらえません?
タカ:え
タカ:いや京都でしょそこ。遠くない?
鳩貴族:領域がてんやわんやしてたので伝え遅れたのですが、数日前からどうも連絡が取れなくなりまして
タカ:掲示板は?
鳩貴族:あ
タカ:ガバガバかな
鳩貴族:情報が入り次第、追って連絡します
タカ:了解。まぁ一応京都方面に進んでみるよ
紅羽:タカ、お土産はポテチで
タカ:は?
紅羽:は?じゃねぇよタコ。あたしがドラゴンブレスぶっぱしなきゃ逃げ切れてねぇだろ
ほっぴー:おや?
ガッテン:その言い方まずくないか
紅羽:あっやべ
紅羽:あのブレスは手が滑っただけだから
タカ:はいはい。まぁあるとは限らんから期待すんなよ
紅羽:よろしく
「タカ、あのコンビニまだ食料余ってたよ」
「お、ラッキーじゃん」
「タカ、これ」
「ん?」
蛇男……というよりは蛇少年というべきか?とにかく、その蛇少年が俺にねずみの死骸を渡してきた。
「……もしかして俺は今、高度な嫌がらせを受けてるのか?」
「いや、善意だと思うよ。身体の強度も上がってるし、焼いて食べてみてもいいんじゃない?」
えぇ……そりゃ俺だって強くなってきてるけど内臓まで強くは……ああいや、強くなってんのか?
「少なくとも死にはしないと思うよ」
「そうか?ネズミだぞ?病気とかやべぇだろ」
……ダメだ。流石に食べる気になれない。
俺はなるべく柔和にみえるよう微笑みながらネズミを蛇少年に返した。
「う?」
「ごめんな、お腹すいてねぇんだわ」
「わかった」
そういって蛇少年は返されたネズミにガブリと噛みついた。
絵面がやばい。
「なぁモータル。こいつに名前つけねぇか?色々とめんどくせぇ」
「いいんじゃない?」
「お前も名前欲しいだろ?……あ、もしかしてもう名前ある?」
俺の問いかけに、蛇少年はネズミをごくりと飲み込んでから頷いた。
「対領域用兵器」
「それは名前じゃねぇ」
ひでぇ呼び方しやがる。
魔物は愛を持って育てねぇと強くならねぇんだぞ。あと課金。
「……んー、呼び名、洋風と和風どっちがいい?」
「?」
あー、伝わらないか。
まぁ俺にネーミングセンスなんてねぇから、ヒドラっぽい名前かヤマタノオロチっぽい名前のどっちかなんだけども。
「なるべく人間っぽい名前にしようよ」
「んじゃ、ヤマタノオロチのヤマタの部分ちょっともじったやつにすっか」
山田……もうちょい珍しめのがいいな。
八幡とかどうだ?……うん、良い気がしてきた。
「お前の名前は今日からヤワタだ」
「わかった!」
喜んでるのかどうかよく分からないリアクションだが……まぁそんなもんか。
俺はその辺の車のボンネットにこしかけつつ、今後の計画を練り始めた。