羽虫と泥棒
七色の悪魔:ようやく近隣住民の避難誘導、終了しました。皆さん、反応が遅れてしまって申し訳ありません。
ガッテン:お、反応無いと思ってたらそんな事やってたんですか
ほっぴー:そ ん な 事
ジーク:悪魔さんキャラ付け忘れてますよ
七色の悪魔:フゥーハハハハ!今しがた、劣等種の人間共を鉄の牢獄に押し込めてきてやったわ!あのような下等な存在は、その檻の中で永遠に怠惰で無為な日々を過ごし続けるのがお似合いだ!フフ、ハハ!ハハハハハハ!!!
鳩貴族:妙なレイドボスが出現したりはしていませんか?
七色の悪魔:いえ。仮に出現しても、余程の相手でない限り何とかなるかと。
鳩貴族:そうでしたね。安心しました。
ジーク:なりきりのスイッチ付け消しし過ぎて壊れそう
七色の悪魔:そこの貴様、何だその口の聞き方は……?身の程をわきまえろォッ!
ガッテン:すいませんキツいんで一旦素に戻ってもらっていいすか
ほっぴー:キ ツ い ん で
七色の悪魔:ごめんなさい。
ジーク:悪魔さんかわいそう。個チャで続きやる?
七色の悪魔:いいんですか?
ガッテン:はいストップ、ストップ。その前に情報収集な?
ほっぴー:あんまり悪魔さんイジめんなよ
ジーク:そうだよ
ガッテン:俺のせいなの……?
鳩貴族:その避難所は悪魔さんの他に戦闘要員はいますか?
七色の悪魔:居なかったので、今育てている所です。魔物ではなく、人を。
「ここがあの羽虫のコロニーね!」
周囲の探索を開始して数十分。ようやく見つける事が出来た。
「ヒャッハー!皆殺しだァ!」
無理してキープしているハイテンションそのままに、俺は羽虫共の群れへ突撃した。
早急に回復役が欲しいのだ。出来る事ならハイフェアリーにしてMP自動回復のスキルが手に入ると更に良し。
「死に晒せぁ!」
半ば自棄になりつつ短剣を振るう。
ちなみにおっさんとグールは別の場所でゴブリン狩りをさせている。ゲームだった頃には出来なかったプレイングだ。
「だあッ!ちくしょう!逃げるなッ!」
塀を越えて逃げようとする羽虫を叩き落すようにして斬る。
「ラストォ!」
背後から俺に棒切れで殴りかかってきていた羽虫を振り向き様に両断し、俺は戦闘を終えた。
さあ、収穫の確認といこう。
「いーち、にーい……あー、6個かぁ……」
フェアリーの練成二匹分か。
コロニーというよりは集会場所って感じだったな。
「ん?」
最後のフェアリーが逃げ込もうとした塀の裏に、何かゴミのようなモノがかなりの数捨てられていた。
「これは……缶詰か。器具無しにこじ開けてるな……」
おそらくフェアリーが食ったのだろう。いったいどこから盗ってきたのだろうか。
というか、飯食うのか。まずそこに驚きだ。
「……コンビニとかで待ち伏せするか。いや、待てよ……?」
もしかすると、個体によっては巣に持ち帰るんじゃないだろうか?もしそうなら、食料を盗んでいった羽虫を追跡して、巣まで案内して貰う事が可能かもしれない。
ここの最寄のコンビニは……
タカ:潜伏飽きた
ガッテン:潜伏?何のために?
タカ:餌で釣って羽虫の巣まで運ばせて、場所暴いて、後日PTで凸ってアイテムやら魔石根こそぎゲット!ってのをやろうとしててな
紅羽:お前そんな事してんのかよ。つーかそろそろ日が暮れる。帰ってこい
ほっぴー:え?紅羽とタカって同棲してんの?
紅羽:ふざけんな。住んでる所が近いから一旦共同戦線組んでんだよ
ガッテン:というか思ったんだが。何かあった時の為に互いの住所晒し合っとかないか?
Mortal:お前等なんで掲示板使わないでここで話してんの?
タカ:いちいち魔方陣起動すんのダルくね?
Mortal:パスzyukketu
ジーク:有無を言わさず鍵スレのパス押し付けるのすき。まあ俺今、目の前に魔法陣起動してあるし参加するわ
ほっぴー:鍵スレとかあんの
タカ:あるぞ
Mortal:見た目こことあんまし変わらない
ガッテン:分かった、分かった。後で参加する
ほっぴー:ガッテン以外のメンバー用の鍵スレ作ろうぜ
ガッテン:やめろや!
タカ:うわやっべ
ジーク:どした
ガッテン:何かあったか?
紅羽:なあ、鍵スレの使い方がよく分からん
紅羽:ん?あれ?タカどうした?
まずいかもしれない。
いつから俺は餌を漁りにくるのはフェアリーだけだと錯覚していた……!?
「よし、まだあるぞ。いっぱいある……!」
「へ、へへ……やっぱ先輩凄いッスよ。まだ家の中で隠れてるのが大半って時からこうして物資集めてるんスよね?」
「わはははは。そう褒めるなよ。そこまでおだてなくたって分け前はキッチリやるから、な?」
「先輩最高ッス」
そんな心の闇丸出しの会話を聞きながら、俺は必死に気配を殺していた。
これは「出て行ったら戦闘になるかも」とか「もう少し様子を見るべきだ」とかそういった感情に基づく行動ではない。ただ単純に「今出ていって微妙な空気にしちゃうと気まずい」というだけだ。
「多分意味無いだろうけどレジの金も漁ってみるか?」
「いいッスね」
良くないぞ。
俺は現在、レジの棚に身体をねじ込むようにして隠れている。もし、金を盗る為にレジのこちら側に来られたら……!
「……あれ?何だコイツ」
「よ、よう。なんだよ魔物かと思って隠れちまったぜ。ははは。じゃ」
「お、おう。そうなのか。じゃあな」
っしゃあ!チョロい!このまま逃げさせてもらうぜ!
俺はカウンターをガシっと手で掴むとそこを起点としてくるりと向かい側へ跳び移り、そのまま店の外へダッシュする。あばよ!火事場泥棒共!
「先輩アイツなんかスマホ起動してたッス!俺達の犯罪の証拠録音してたのかも!」
してねーわバーカ!被害妄想乙ぅー!
「何だとぉ!?オイ、追いかけ……速っ!?」
はっはっは。速さが違うのだよ貴様らとはァ!
一瞬にして店から遠ざかった俺は、見えていないと知りつつコンビニの方向へ中指を立てた。
「火事場泥棒?」
「おう」
「……まあ定番っちゃ定番だよな」
俺の報告に、何やら訳知り顔で頷く紅羽。
「え?何?経験あんの?」
「ねえよ!……いやほら、有りがちだろ。ネット小説とかだとさあ!」
何だ、そういう事か。いやぁ、前科持ってんのかと思ってびっくりしちゃったぜ。
「そういう事だよ。つーかあたしらも遅かれ早かれ似たような事する羽目になるんだからな?分かってるよな?」
「そう、か。そういやそうだな」
「最寄の避難所がどうなってっかも調査しなきゃならないし」
「あー、そうだな」
なんか戦闘と育成以外の要素多すぎて萎えてくるな、やっぱ……
「仕方ないだろ。ゲームを模してるとは言え、ここは現実なんだからよ」
そりゃ正論だが――萎えるもんは萎える。
俺はその後数十分、紅羽と今後の方針について話し合い、倉庫に戻りグールのお腹をぐにぐにしてメンタルを回復させた。あうあう。
グールがメインヒロインみたいになってる……