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第十四話「困り人探し」

「おはよう」


 教室に着くなり、七瀬仁の席へ直行する。

 俺に気付いたのか、気だるげにこちらに手を振ってきた。


 前の席の生徒がまだ来ていないようなので、椅子を借りて座る。


「友達は増やしたか?」


「あのなぁ」


 仁が呆れた表情を浮かべつつ続ける。


「まず俺はこのクラスの事なんか全然把握できてないんだよ。誰が顔が広いだの、何だの」


「そうか。では教えてやろう」


 この教室の中で一番賑やかにしている集団を指す。

 髪色、髪型自由の恩恵を余すことなく受けている人達だ。あそこまでイキイキされるとこちらとしても誇らしい。


「既に運動部に入部を決めたやつらだ。面構えが違う」


「そうか?」


「うむ。基本的に顔は広い人間が多いだろうな。どうだ? サッカー部繋がりで、この高校のサッカー部がどんな具合か聞くだとか、突破口はいくつかあると思うが」


「うーん……」


 仁につられて再び騒がしい集団に目がいく。

 金や茶が目立つが、中でも異彩を放っている者が一人いた。


「青か。改めて見てもすげーな」


 仁の言葉に思わず頷く。

 爽やか系の青じゃなくガッツリ青だからな。

 

 そうやって何となしに眺めていると、その青髪と目が合った。

 

「うげ」


 視線が外れホッとしたのもつかの間、周囲に軽く手を合わせる動作をした後、こちらに駆け寄ってきた。

 

「七瀬にミタルちゃーん! 熱い視線が届いたから飛んできたぜ!」


「そんな物を届けた覚えはない」


 あとちゃん付けするな。クソが。

 さっさと去れという意志を込めて青髪を睨む。


「おぉ、視線熱ぃ~」


「殺気では?」


「仁、突っ込むな。嬉しそうにしてるだろ」


「嬉しくなっちゃダメなの……?」


 青髪が情けない声をあげた辺りで、仁が俺に向けて口を開いた。


「ミタルさ。こいつに妙に敵対的だよな。ちゃん付けが嫌なのは分かるけど……」


「えっ……マジで嫌なら気を付けるよ?」


 二人に視線を向けられ、言葉が詰まる。


「いや……うむ」


 言えるわけがない。

 この青髪の方がギャルゲの友人ポジに向いてそうだからという理由で敵視しているなんて。


 しかし、この感じなら顔は広いだろうし……第一、決めるのは俺ではなく仁だ。


 ぐぬぬ。


「……仁。どうだ?」


「どうだ、って何が?」


 その返しの後、俺の言わんとすることを察したのか、仁が青髪の方に向き直った。


中田なかた、困ってる人に心当たりないか?」


 青髪の名前は中田だったか。なるべく覚えていられるように精一杯努力しよう。


「は? 困ってる人? ……うーん」

 

 青髪が唸りつつ首をかしげる。

 唐突な話題転換にも文句を言わず付き合ってくれる辺り、良いやつなんだけどな。

 

「あ! 高橋先生が、ミタル君はほんとに困った子です、つってたよ」


「それは俺が直接聞かされてる。他のは」


 横で仁が心底嬉しそうに笑っている。

 許さんぞ青髪。


「後はー、そうだなぁ」


 しばらく悩んでいたが、思い至ったのか青髪が素っ頓狂な声をあげた。


「あぁ! 俺さぁ、悩みあんだよね! すっげー馬鹿らしい話なんだけど。相談していい?」


「じゃあいいや」


「ミタルちゃん!?」


 ちゃん付けするな。

 

「まぁまぁ。良いじゃねぇか、聞くだけ聞いてやっても」


 苦笑しつつもそう言った仁に、青髪が期待の目を向けた。

 俺としては歓迎できないが……仁がそういう態度ならば俺が拒むわけにもいくまい。


「では喋ってみろ、青髪バカ」


「青髪バカ!? ……いやー、実はさ。最近、誰かにつけられてる感じすんだよね」


 ふむ? ストーカーか。

 だとしたら馬鹿らしい話ではないな。


「心当たりは?」


「マ? 信用してくれんの? いっつもつるんでる奴らに言っても、男のお前がストーキングなんかされるわけねーだろ自意識過剰おつー、みたいに言われて終わりだったんだけど」


 俺もそう思わなかったと言えば嘘になる。

 そんな事を口にしようとしたところを、仁に遮られた。

 

「中田、俺らだって雑談の最中に何気なく言った話ならそうやって流したかもしれない。でも今回は相談させてくれ、っていう前提があるからな。どんなに疑わしい話でも本当の事だとした上で話をする」


「良いことを言うじゃないか、仁。そういうことだ、さっさと続けろ青髪バカ」


 何やら青髪がぷるぷると震えている。

 バカスライムあたりに改名させるか悩んだところで、急に青髪が顔をあげた。


「七瀬~~~! ミタルちゃーーん!」


 そう言いながらこちらに抱き着いてくる。

 俺は慌てて青髪の額に強めの拳を放った。


「あでっ!?」


「急になんなんだお前は」


「だってさぁ、嬉しいじゃんかぁ」


 おーいおい、と嘘臭い泣き真似を挟みつつ、青髪が続ける。


「俺の目に狂いは無かった!」


「目には無くとも頭に狂いがありそうだな」


「ちょ、そこまで言う!?」


 そうか?

 隣の仁を見る。


「ははは」


 笑ってやがる。

 なら言い過ぎじゃないな。


「では、話を戻そう。俺の問いをもう一度繰り返すぞ。心当たりはないのか? それに加えてもう一点。何か被害は?」


 青髪が顎に手を当て、むむっと唸る。

 考え事をする時ぐらい真面目な表情を作れないのか。


「心当たりはいまいち無くて、被害って言ったら、その、下校中、視線を感じるぐらいで……」


 あまりふわっとした説明だ。

 本人も自覚があるのか、徐々に言葉が尻すぼみになっていく。


 だが、本当だと思って接すると決めたのだ。

 そうだろう、仁。


「……あ? 俺?」


「仁。解決策を考えろ」


「丸投げかよー……はぁ、そうだな。とりあえず一緒に下校すっか?」


 仁の言葉に、青髪が頬をポリポリと掻く。


「えっ……マジ? なんか、へへ、照れるな。じゃあよろしく」


「反応きも。仁、やはりやめてくおくか」


「いやいやいや! 待って、待って! きもくはないっしょ!?」


 そこらで、学校中にチャイムが鳴り響いた。

 朝礼五分前だ。


「青髪、席に戻れ」


「この流れで!?」


「流れではない。俺達、学生は厳格に定められた枠を元に生活している」


「おっ、枠を破壊したやつが言うと説得力があるな」


 仁の鼻をつまんで黙らせつつ、青髪が席に戻るまで見守る。


「さて、俺も自分の席に戻るか」


「お前……」


 はっはっは。


 俺が席を立つのを待っていたらしい男子生徒に軽く頭を下げる。

 だがあちらも俺が居ない間に俺の席に座っていたようだし、お互い様だな!



更新サボっててほんとに申し訳ない

これからは高頻度で更新できるよう頑張ります

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