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第十二話「帰り道」

「ふむ、なかなか面白かった」


 演劇を見終わり、四人揃って教室から出る。

 文化部だけでも今日中にまわってしまおうと考えていたが……。

 スマホを起動し、時間を確認する。


「……今日はそろそろお開きにしておくか」


「そうだなぁ」


 退席していく生徒の邪魔にならない場所まで移動した後、俺は三人の方を振り返った。

 ビシッと人差し指を立てる。


「今回は反省点は一つ。タイムスケジュールが甘かった事」


「まぁ、そうだけど。仕方なくないか?」


 仁の言葉に、小倉さんと梔さんがこくこくと頷く。

 実際仕方ないが、反省点を見出したならば改善案を出さねばならない。


「第一、部活全てを見学するなんぞ時間がかかりすぎる」


 三人が、確かに……といった表情になる。

 ふふん。狙い通りだ。


「だから、明日の巡回ルートを練るためにも、事前にお互い興味がある部活を把握したい」


 ここでスマホを取り出し掲げる。


「ライングループを作ろう!」


「掲げる意味ある?」


「うるさい!」


 おいこら七瀬仁。何故お前が呆れ顔なんだ。

 お前がライン交換するための策だぞ。自覚を持て。


「いいですね! 作りましょう!」


 小倉さんが嬉々とした表情でスマホを取り出してくれた。

 続けて、梔さんもスマホを取り出す。

 

「じゃあ後で俺にグル招待投げといて」

 

「あ、じゃあ七瀬君がグループ入った後、私に招待ください。その後、小倉さんを私が招待するので」


 むむ。

 ……まぁこの場でせずとも、グループを作っておけば勝手に友達登録もするだろう。

 これでいいか。


 スマホを操作し、サクッとグループを作成する。

 

「よし。じゃあ後は帰り次第、グループで話そう」


「はい!」


 ピロン、と通知がとんでくる。

 友達追加してくれたらしい小倉さんからの個人ラインだ。

 ピンク色の名状し難い生物がうにょうにょしながら「よろしく!」と言っているスタンプ。

 ……女子高生の感覚はよくわからん。


 横にいる仁が妙な表情をしているので、おそらく同じスタンプが送られてきたのだろう。

 

「……このキャラは?」


「えっ、知らないんですか!? 桃色みとこんどりあ君ですよ!」


「知らない……」


「このキャラ、そんな名前だったんだ……」


 小倉さんと元からライン交換してた梔さんですらこの様子だ。

 あまり一般的ではなさそうだな。


 というかこれ、教科書に載ってるタイプじゃなくて細長い管の断面見せてるタイプのやつじゃねーか。どこの誰がどこの層に向けて作ったんだ。

 あとなんで桃色にした?


「ふふ、誕生日になったらプレゼントとしてあげてもいいですよ。このスタンプ」


「ああ……うん。ありがとう」


 そんなこんなで、俺達の第一回部活見学会はお開きの流れとなった。


 帰り道。

 俺は七瀬仁に少し遠回りな道を選んでもらい、しばしの間、一緒に歩けるようにした。


「七瀬仁」


「なんだ」


 俺の言葉に、仁がこちらを見る。

 これは聞いておかねばなるまい。


「好きな人はいるか」


「家族と友達って答えてもいいけど、そういう事じゃねぇんだろ?」


「察する通り」


「じゃあ、答えはノーだな」


 だろうな。

 見ていれば分かる。


「オカルト研究部の部長はどうだ。脚に抱き着かれた時、鼻の下を伸ばしていただろ」


「うっせぇ。伸びてねぇ」


 いや、伸びていた。

 ……まぁ、条件反射のようなものだしな。そこは保留にしておくか。


「では気になる人は」


「……そういうのはさ、流石にやめねぇか?」


 仁が神妙な顔で立ち止まる。


「そういうの、とは」


「人と交友関係をもつとこまでのアシストは、まぁ……俺、友達少ねぇし。助かるし、実際楽しいから感謝してるよ」


「ふむ」


 仁と目が合う。

 真剣な目だ。


「でも、そうやって人を人として見なくなったら終わりだろうが。ヒロイン候補なんて枠に当てられて良い気分になるやつは一人もいねぇぞ」


 ここまで強い視線を向けられたのは久しぶりだ。

 俺は、そういうつもりではなかったのだが。


 いや、そういうつもりでなくとも。

 結果としてそう印象を与える言葉になっていたかもしれない。


「……すまん」


 頭を下げる。

 暫くすると、仁が深く息を吐いた音が聞こえた。


「悪い、多分お前はそこまで考えたわけじゃないんだろうけど……このままいけば、いつかトラブルになると思ってな。ちょっと荒い言い方になっちまった。すまん」


「構わん。俺が浅はかだった」


 そうだ。

 俺はいつからか、目標を誤認してしまっていた。


 しばらく、呆然としたまま歩いていると、分かれ道にさしかかった。

 仁とはここで一旦解散だ。

 

「……っと、ここまでだな。じゃあ、また明日」


「ああ」


 計画を練り直そう。

 俺は一人、思考に沈みながら帰路を進んだ。



 


ミタル:おい、七瀬仁!


七瀬仁:はい


七瀬仁:まだ帰宅途中なんですけど


ミタル:そうか! 俺は既に帰宅した。歩きスマホはやめろ


七瀬仁:新しく入ったグループだから通知消し損なってて思わず反応したんだよ。家着くまで反応消えるぞ


ミタル:了解。はよ帰れ


クチナシ:私は今バスなので反応できますよー


ミタル:お、じゃあクチナシさんの興味のある部活から聞いておくとしよう


クチナシ:うーん。今日行った茶道部とか、結構良さそうでした


ミタル:ふむふむ。他には?


クチナシ:他は特にないですね。皆さんが見に行きたいってとこに合わせます


ミタル:なるほど


クチナシ:【桃色みとこんどりあ君がにっこり笑っているスタンプ】


ミタル:え、買ったの


クチナシ:コインが余ってたので……


ミタル:むむ。では俺も買うか


クチナシ:弥生ちゃんからの誕生日プレゼントで貰えるのに?


ミタル:十月まで待つのか……


小倉:先行投資してもいいですよ!


ミタル:プレゼントの事、投資って呼んでるんですか?


小倉:呼んでませんよ!


ミタル:なるほど


小倉:なるほど?


クチナシ:その手のボケ通じる子じゃないよ


小倉:えっ?


ミタル:【桃色みとこんどりあ君が頭を下げるスタンプ】


小倉:あっ! もう買っちゃったんですか!?


ミタル:うむ


小倉:えー! じゃあ誕生日にはいったい何をあげれば……


クチナシ:それ一択だったの?


小倉:ミタルさんの好みが分からないので……


ミタル:その時考えてくれたら良いよ。そもそもこのスタンプの第二弾が出る可能性もあるし


小倉:確かに! じゃあ誕生日プレゼントはそれで!


クチナシ:えー? 第二弾出るかなぁ……


小倉:大人気だもん! 出るよ!


ミタル:どの層での大人気なの?


小倉:私とか


ミタル:なるほど


クチナシ:自分の事を層って呼んでるの?


小倉:呼んでません!



 その手のボケは通じないって言ったの梔さんじゃなかったっけ?


 そんなツッコミをぐっと堪え、先ほどきた通知をタップする。

 通知は、七瀬仁からの、帰宅を伝える個人メッセージだ。

 気の回る男だ。俺の用事を何となく見抜いているのだろう。



ミタル:七瀬仁。電話をかけていいか。話したい事がある



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