第48話 永遠と愛・大真面目に
奪われただけの人生ではなかった。
愛情というものに、気がつくことができた人生だったのだ。
二度目の人生を、ガードルフに貰ったからこそ、それがわかった。
まとまらない考えを、感じた勢いのままに話し出すウィスティリア。
そんなウィスティリアを優しい目で見ながら、ガードルフは「そうか……」と何度も頷いた。
「愛というものが、ウィスティリア、お前の中に、確かにあるんだな……」
「はいっ!」
湧き上がってくる喜びをそのまま答えた。
ガードルフが頷く。
「では、ウィスティリア」
「はい、ガードルフ様」
そしてまたもや、予想外の言葉を、ウィスティリアはガードルフから告げられた。
「愛というものを、私に教えて欲しい。それが対価だ」
ぽかん、とか。きょとん、とか。
そんな表情のまま、ウィスティリアは固まった。
「え、っと。あの……」
ガードルフは何を言ったのだろう?
対価。
対価と言った。
ならば、支払う。なんでも。魂でも肉体でも。
だけど……。
「愛を、教える……ですか……」
言葉の意味は分かる。
だけど、その言葉をガードルフともあろう存在が、自分に言う意味が分からない。
じっと、無遠慮にガードルフを見れば。
そのガードルフは照れたように横を向いてしまった。見えてしまったガードルフの耳が赤い。
「え、ええと……」
「嫌なのか?」
「嫌なことなんかありませんっ!」
思い切り、怒鳴ってしまった。ウィスティリアの勢いに、ガードルフが驚きながらも「そ、そうか……」と言った。
「ええと、あの、その、ガードルフ様」
「……なんだ」
「あの、不躾ながら、ガードルフ様は、その、あの……」
「だからなんだっ!」
ウィスティリアは、ガードルフの耳だけでなく、その頬も赤いことに気が付いた。
「……わたしのことが、好き、だったり、しますか……?」
「う……っ!」
途端に苦虫を噛み潰したような顔になって、しかもがりがりと頭を掻きだしたガードルフ。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか……と、ウィスティリアが申し訳なくなった。
「……わからん」
「はい?」
「わからんが、気になる。面白い女だと思う」
自分が、面白い女なのかどうかはわからないけれど、ガードルフがそう言うのなら、そうなのかもしれない。
面白いと、興味を持ってくれるのならば、素直に嬉しい。
もしも、好きになってくれたというのなら……それは、もっと嬉しい。
思わず頬が緩んでしまった。
だけど、ウィスティリアが生きていられるのは、あとほんの短い間。
その間に、愛などという大きなものをどうやって伝えればいいのだろうか……?
(ううん、悩んでいる時間なんて、わたしにはない。悩んでいる間に、わたしの寿命が尽きてしまう。とにかく思いつく限り即座にやってみないとっ!)
もう、悔いはなく、満足のいく人生で。
あとはガードルフに対価を支払うだけで。
その対価が愛というのならば。
急いで、愛を伝えなくてはならない。
「誠心誠意、真心を込めて、わたし、ガードルフ様を愛しますっ!」
ウィスティリアは大真面目に宣言した。
両手を握りしめて、その背後に燃え盛る炎の幻が見えるほどの勢いで「愛します」などと言ったウィスティリアに、今度はガードルフのほうが目を丸くして。
そうして、苦笑しつつウィスティリアを抱き寄せた。
「やはり、お前は面白いなウィスティリア」
「そうですか?」
「ああ、そうだ」
「対価に愛をと言うガードルフ様のほうこそ面白いと思います」
口をへの字に曲げたガードルフを見て、ウィスティリアは思わず笑ってしまった。
すると、なぜだかガードルフも笑い出した。
笑い声が重なる。まるで二重奏のように。
とてもしあわせなことだな……と、ウィスティリアは思った。