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二〇二三年一二月一〇日のGJ部 後編

「え?」

 京夜は呆然と、真央の顔を見た。

「いや。四部屋にするか。……それで一部屋は、みんなの憩いの場だ。畳スペースとか、ソファーとか、コタツ様とか、旧式のパソコンとか、紅茶基地とか、ホワイトボードとか、ラノベの本棚とか置いてだな。あーもう禁書は作らんでいいぞ。さすがに耐性がついた」

「え? それって……」

「子育てって、たいへんじゃん? この一年で思い知ったぜ。なんだあの猛獣は。森さんがいなかったら手も足も出なかったぞ。――そしてあいつらには森さんはいないのだ。みんなで助け合うのがGJ部精神というものだ」

「はっ、はい」

「それに賑やかになって、いいんじゃないか?」

「は、はい……」

 京夜は堅くなりつつも、同意を示す。

 部長の言う、部室みたいな部屋を想像してみる。心がすごく温かくなった。

「だーら、そんな畏まるなってーの」

 とは言われても、緊張は解けない。人生最大の緊張度である。

「だいたい、あいつらにアドバイスしたの、私なんだし」

「ええっ!? あれ部長の作戦だったんですかー!」

「だってそうでもしないと、おまえ、自分から手を出したりしないじゃん?」

「そうですよ! 当然ですよ!」

「そしたらあいつら一生独身じゃん」

「ほ、他にいい人を見つけてくれれば――」

「そういうのは、平日ランチデートやめてから言え」

 京夜は言葉に詰まった。慕われているという自覚は、さすがにあった。それでも遠ざけずに、週一で会っていたのは自分だ。

「あと残る問題は、森さんだな。――霞は一生ブラコンをこじらせているとして。メグは一緒に住んでいるせいで既に恋人あるいは第二の奥さん気分として」

「えええ!? 森さんまで!?」

「だからそーゆーのは、平日ランチデートやめてから言え。――なんか、昔々の、十何年も前の、ブラッシング対決? あれでコエ出して負けちゃったからだって。所有されたいんだとか」

「わけわかりませんよ」

「おまえ、いまだに〝意気地なし〟なワケ?」

「い……意気地くらい……、あります! ……ありますよ?」

「なんで疑問形なワケ?」

「ハンバーグセットとお子様ランチ、おまたせしましたー♪」

 ウエイトレスのお姉さんが、料理を運んでくる。ネコロボットも走り回っているけど、いつも毎回、この店長よりも実権のあるフロアチーフのお姉さんが、手ずから運んできてくれる。

「わぁい! おこさまランチ! まおだいすきー!」

 真央ちゃん永遠の一〇歳のはしゃいだ声に、お姉さんは笑顔を向けて去って行く。

 食事が進む。無言で進む。もりもりと進む。

 食べ終わる頃には、京夜もすこし復活した。なんとか味がわかる程度には回復した。

 許されないことをした。

 そのことを彼女がどう思っているのか。相談されて計画してけしかけた――と本人は言っているけど。思うところは山ほどあったはずで……。本当に頭が下がる。許してもらえればだけど……。自分の〝妻〟は、やっぱりこの人しかいないと、そう改めて思った。

「ケド森さん……、ぜんぜん変わらんな」

 部長……ではなくて、真央が言う。京夜も深くうなずいた。

「天使家の七不思議は健在だな。――森さんはいつも同じ! なのだ! なのだが……」

「あの人、昔は、すごく年上の大人の女性でしたけど……。あまりにも変わらないから、いまでは年下に見えますよ。二十代前半くらいのお嬢さん、って感じで」

「だよなー」

「すくなくとも、もう四〇歳くらいですよね? 僕らが高校生の頃に二十代前半として……」

「いや、まえに写真見せたろ。ほら。赤んぼの私を抱いてる森さんの写真、おまえ、見たろ?」

「え?」

 京夜は硬直した。その意味に戦慄した。

「え? え? えーと……。真央の年齢、プラス、二四~五歳……、と、いうことは……?」

「ウン」

「真央がいま三十なわけで――」

「言うなーっ!」

「じゃあ、森さんって……。五〇歳越えてます……?」

「じつはな。ここだけの話だがな。このあいだ蔵から、明治時代の写真が出てきたんだが……」

「うわー! うわー! その先は言わないでください! ぜったいダメー!」

「曾々婆さんをあやす、森さんの姿が――」

「ぎゃーっ!」

 京夜の悲鳴が、昼時のレストランに響いた。




これにてGJ部は完結です。

最終回、ハーレムエンドはどうなんだろう……? と、しばし悩みもしました。


けれど、紫音さんとかに聞き取りしてみると、「ずっと独身でいるよ。他の男性なんて考えもしないね」とか、当然のように言うんですよー!


紫音さんも綺羅々もタマも、学者さんだったり、動物ガイドのフィールドワークだったり、商社でバリバリのキャリアウーマンだったりしますけど。まだ若い今でこそいいですけど、もう二、三〇年も経って、四〇歳、五〇歳になったら……。お一人様の寂しい人生が待っているわけで……。


それはあんまりでしょう。

キョロ、セキニン取れ!

――ということで、こんなカンジになりましたー。


天使家では部屋が増築され、部室が再現され、皆の憩いの場になっているのだとか。

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