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ラグジョーカー・俺氏降臨

 

 うむ。絶景である。


 でっかい機械ウサギの耳の穴からこの世界に生まれた俺なのだが、空中に放り出されると同時に大地が俺を歓迎して迫ってきているのだ。



 空中で椅子に座っているかのように足を組んで、ついでに腕も組む。空中で。

 目下の群衆よ、とくと見やがれ。これがスタイリッシュ落下である。



 はぁ。よく考えなくても分かるけど、遊んでる暇無いわ。


 これ落ちてるけど大丈夫かね?ここで死んだらどうなんの。復活とかできるの? できれば地面に打ち付けられたくないよ。

 

 まぁ、でかい池があるからそこにこう、ジャッパーンと上手く飛び込むという案が可決されてるから。もうそれしか助かる方法無いから。


 さぁ、問題は落下地点をどう池までずらすかだ。持ち物は仮面と銃。しょっぱい。

 ....まぁいいや。銃の反動で多少は軌道修正できるだろ。俺は信じるぜ、ビリーブ。


 スタイリッシュな体制から、地面に平行になるようにして、とりあえず仮面は被っておき、体の軸の延長線上で銃を両手で構える。

 

 そして一応、三連射モードにして引き金(トリガー)を引いた。

 バババンッ!と三連続で銃声が空に鳴り響く。



 よし。ちょっとずつだが、落下地点は池へとずれている気がする。



 あとはあれだな。落下三原則の一つ、思いっきり叫ぶ事だ。


 池が近づいてきている。叫ぶなら今だ。

 俺は池に飛び込む体制になりながら叫ぶ。



 アイーム ア ジョーカーー!!!(理想)

「アァァーイム アぁあばばばばぁば!!!」



 そんな謎の叫びと共に、池にドバーンといった。

 大丈夫?俺生きてる?おっけ? おっけぇ完璧だ。俺の飛び込みが上手かったのか安全システムが発動したのかは知らないが、とにかく生きてる。そう水中で自問自答する。


 そして、すぐ近くにある陸に手を伸ばし、ついに上陸した俺氏。

 陸に上がると、着ている黒いシャツとズボンはすぐ乾いた。


 

 改めてこの世界を見渡す。青色と桃色の機兎、ビル群、その間を縫うように走るジェットコースター、その他諸々。某都市と某ネズミ帝国を合わせたような感じか。

 言うとこ娯楽だけを詰め合わせた世界みたいな感じか。


 まぁ俺はそんな悠長に景色を眺めている暇も無いようで、派手な登場とこの仮面のせいか他人の注目を集めてしまい、そして....



「おい、アイツ銃持ってるぞ!」



 なんて事を言われてしまったのだ。


 どうせう(どうしよう)。何も言い返せない。この格好、強盗とどこが違うんだ。しかも後ろは池、そうでない所には俺を囲む人々や野次馬など。確実に詰みじゃねぇか。

 

 仕方ない。強行突破で逃げるか。イベントまでラグ能力は隠しておきたいという密かな願望は諦めた。



 俺は、先ほど『銃持ってるぞ!』なんて言ってくれた奴に向かって走り出す。


 そして、奴がそれに反応して動こうとした時点でラグ能力を発動した。

 世界は、半透明な灰色から覗いたようになる。

 そして奴の動きも止まった。

 俺は奴が動けない二秒の間に、奴の耳元で囁いた。



「You have aleady had joker」

"お前らはすでにババを引いてしまった"



 英語で言ったのは、日本語で言うより正体がバレにくくなると思ったから。あとは、なんか俺の厨二心が疼いたためだ。まぁ中学レベルの英語なんだが。



 そして奴のように動けなくなった他の人たちを押し退け、そのまま逃走。


 少し後方を確認すると、奴らはあの二秒間の間ずっともがいていたのか地面に転がってあたふたしている。


 ラグ解除っと。どうでもいいが、この仮面は任意発動なんだな。便利だ。



「....っ! 、アイツを追え!」



 さっさと逃げるとしよう。鬼ごっこだな。



 走りながら街並みを見渡す。もう人で賑わっている。

 いやぁ、平和だな。



「気をつけろ!あの黒仮面、銃を持ってる!」


「誰かそいつを止めてくれ!」


 平和じゃねぇぇええ。俺が走った所から平和じゃねぇ。しかもなんか増えてる。


 ほらそんなこと叫ぶから娯楽を満喫してた人たちがザワザワしちゃったじゃない。

 俺が何をしたって言うんだ。ただ怪しい格好してただけだろ?



 前を見ると、なんか言って立ちはだかってる人がいた。


「そこまでだ! この平和な世界はこの俺が守る!」


\キャー、がんばってぇー/


 そんな声援も聞こえた。どこにでもいるのな、こういうの。


 俺が構わず向かってくるのを見て正面に立ちはだかる奴は、ニヤリと笑って構える。フゥー、カックイィー。


 俺は銃を構える→奴はその沿線上から避けてカウンターしようとする→俺、一瞬だけラグ発動→奴、カウンター失敗→俺、普通に押し退けて逃げる。


 おつかれ。



「待てっ!」


「追いかけるぞ!」


「いいだろう」


「俺もいるぜ?」


「みんなでアイツを追いかけるんだ!」


「「「おう!」」」


 

 なんか追いかけてくる奴らが結束してるんだが。何?友情でも育むの? ってか俺、確実に敵を増やしてるよな。



 この鬼ごっこなんだが、あれか。あいつらが諦めるまで続くパターンか。やだわ。


 とりあえず撒こう。



 路地を曲がり、進み、また曲がり、奴らの視界から消えた所で、人目につかない所で仮面と銃を隠し、建物に入る。

  

 建物に入ってすぐそこにある地図を見た。服装とか変えられる場所.....服屋か。すぐそこだな。


 よくわからないブランドの服屋に入り、適当に地味なのを選ぶ。あと仮面と銃が入るくらいの大きさのカバンか。

 値札にはどれも無料とあり、その代わり、レジでそのブランドの宣伝をされるようだ。デザインとか気に入ったら現実でも買えよと。


 宣伝を適当に受け流し、更衣室を借りて着替えさせてもらって、建物から出る。



 先ほどまで追いかけてきていた奴らも、仮面を取って服装を変えた俺には目もくれずに「仮面の奴はどこだ?」などと騒いでいる。


 ふぅ、これでしばらくは平穏だな。ちょっと疲れたし、ゆっくりしよう。ここは娯楽に溢れているようだし。




「ちょっといいかしら?」


 何するか考えながら歩いていると、横から声をかけられた。控えめに言って嫌な予感しかしない。


 

「いや、よくないです」


 俺はスルーを決め込んだ。


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