チュートリアル・誰得ジョーカー
ババ抜きにおけるババ。
それは是非とも引きたくないもの。つまり、大雑把に言えばババは嫌われ者だ。ただ、俺はとんだババを引いてしまったようで、しかも俺自身もババにされようとしている。嫌われ者という点では、すでに俺はババなのかもしれないけども。
「俺はこの仮面を被る事によって、晴れてこの世界の|ババ(嫌われ者)になるってか。はぁー、なるほど。光栄すぎて、この銃で撃ってやりたいね」
俺は貰った黒色の仮面と、白色の仮面を被った目の前の奴を見ながら言った。
「別にからかってるワケじゃあないぜ? 次のイベントで使う為に元から作っていたんだ。ただ、お前さんが予想以上に適役だっただけだよ」
なるほどねぇ。
「次のイベントで使う....か」
次のイベントがどんな内容になるか大体は予想できる気がする。
「ああ。次のイベント....この世界の記念すべき初のイベントだ。種目は『ババ抜き』だなそんでお前さんはそのイベント内でのババさ」
「......ババ抜き? 」
つまり俺は『ババ抜きやろうぜ! お前ババな』って言われてるようなものなんだろうか?
「文字通り、他の奴らが|ババ(お前さん)を脱落させるサバイバルゲームさ。VIPなどには賞金もリアルマネーで出る。そんで、そのゲームのババをやる奴がお前さんに決定したんだ。ほら、喜べよ」
「つまり、この仮面を持っちまった俺は、次のイベントで他の奴らから叩かれるって事か」
ため息が出る。もしそうなったら、俺は何人を相手にして、何人を相手にするのか。想像できない。そんなイベント出てたまるかよ。
「ああ。だがお前さんには、その銃と仮面の効果があるじゃないか」
「それでも、とんだサバイバルだな」
相手になる奴らがどんなアイテムを持って俺を倒しに来るか分からないが、仮面と銃で無双とかやってみたい気もする。
「それに、お前さんがそのイベントで生き残れば、賞金は現金で百万以上だ。百万に、お前さんが負けると賭けた奴らの賭け金の、ある程度が足される」
賭けも行われるのか。つまり運営から見れば、俺は競馬の馬みたいなものである。だが百万以上が手に入れば二、三ヶ月は少しは贅沢ができそうだ。
「本当だろうな?」
「ああ。ちゃんと公言もするぜ? ババの無いババ抜きはごめんだからな」
ふむふむなるほど。
「俺が出ないと言ったら?」
「もう一枚の白きジョーカー、この俺が出るだけだな。おいおい、まさか出たくないのか?」
「考えている。....イベントの出場料とか、脱落した時のペナルティは?」
「ジョーカー様にはどちらも無いから安心してくれ」
俺には無いのなら、イベントに出るデメリットはほぼ無い。俺以外が敵になるだけか。
「じゃあ出る方向で考えておく」
「そうしてくれ........おっと、そろそろ時間のようだな。お喋りもこれで終わりだ。イベントの詳しい事はまた後日だな」
上からドシンと音が聞こえた。
「....それと遅れたが言わせて貰おう」
ちょっと、それより俺の真上に空間の裂け目みたいなのができてるんだけど。大丈夫? ねぇ大丈夫なのこれ。
「ようこそ、この世界へ。中略、せいぜい頑張れよ」
うっわすげえ適当だな。歓迎しているように聞こえない。
「じゃあな」
下から衝撃を感じたと思った時には、すでに空間の裂け目を抜けていた。
.......空間の裂け目を抜けて、聳え立つ巨大な機械兎の耳から飛び出していた。
そして見えた幻想の世界。都市があり、その奥に海のような景色が見え、海と逆方向には美しい山々が見える。高い所にいるのでよく見える。
訂正、高い所に俺は放り出されたのでよく見えたが、今だんだんと低くなってきている。やったぜ!
この浮遊感とか、完全に現実世界の自由落下と同じである。
これは歓迎されてるね。悪い意味で。