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レメゲドン エピソード1

 凄まじい恐怖による悲鳴がヘレンの耳をつんざく中。貴族たちのしんがりに、オーゼムの姿が見えた。オーゼムは大階段を珍しく慌てて駆け上がっていた。ヘレンは貴族たちを掻き分けて、オーゼムの傍に寄ると一緒に上へと駆ける。


「オーゼムさん! サロンで何が起きたのです?!」

「なんということでしょう? 六人の少女が全員死亡してしまいました! 即死ですよ!!」

「え?! 今、なんと?!」

「ヘレンさん! 一つだけ言っておきますが、階下を決して覗いてはいけませんよ!」

 

 ヘレンとオーゼムは、死に物狂いで階上へと駆け上がる。階下から不気味な啜り泣きの声が上がった。それと同時に、得体の知れない空気が漂っていく。徐々に広がる冷たい気体。呼吸を荒げるヘレンは、その氷のような冷たい空気を嫌というほど吸い込んでしまった。


 途端に、ヘレンの血液は勝手に暴れだし、激しい痙攣と共に。体の至る所が盛り上がってきてしまった。穴という穴から暴れ狂った血液が外へと噴き出る。


 大階段の豪奢な壁がヘレンの生血で真っ赤に染まる。

 ヘレンは意識を失い倒れた。


 だが、オーゼムが手を差し伸べ、倒れているヘレンに触れると、途端に身体中の血液が沈静化し、ヘレンは意識を取り戻した。


 再び立ち上がろうと、気力を振り絞るヘレンの真っ青な顔からは、次第に血の気が失われていく。


「……モート」


 そう呟いたヘレンの顔には、絶望の二文字が浮き出した。何故なら、得体の知れない空気のようなものが、大階段全体に広がってしまったからだ。隣のオーゼムも険しい顔をして、ぴたりと硬直してしまった。


 と、その時。


 階上から真っ黒な物体が得体の知れない空気の中心に、飛び掛かった。ギラリと光る大きな鎌で、得体の知れない空気をぶっつりと両断した。得体の知れない空気が霧散する。


「ああ、モート!」


 生き返ったかのような声を張り上げたヘレンの目の前で、モートはそのまま不穏な階下へと向かって行ってしまった。


 階下から激しい戦いの音がする。

 しばらくすると、シンと静かになった。

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