第三十七話 十字に延びる町
水処理施設で敵と遭遇した。
水攻めで溺れそうになった時に、ルカのアビリティが発動する。
ルカの能力は、水の壁を作ることができた。
コレルのRCと、アーラの奇襲により敵を殲滅させた。
どうやら、もうこの建物に敵は潜んではいないようだ。
このパーティは強い――。
コレルの索敵と麻酔針、行動力のあるアーラ、ルカも能力に目覚め、僕も殲滅の自動照準に加え、超音波敵影探知を手に入れた。
「そう言えば、ハクさんのアビリティは?」
僕は、ハクに問い掛ける。
ハクは、驚いた表情を見せた。
「うーん……能力に目覚めなかったみたいなんだ……ははっ」
彼は、頭を掻きながら苦笑した。
「そうなんですね……」
「すまないね……戦闘に参加できなくて」
「いえ、そういった人も多いみたいですね……」
「少なくとも、最低限自分自身の身は守るよ」
ハクは、けん銃を手にした。
ルカが最初にこの世界にきた時は、能力に目覚めていなかった。
でも、後から能力に目覚めた……どうしてだろうか?
「ルカは、その能力にいつ気がついたの?」
僕はルカに声を掛ける。
「昨日? とかかな……」
僕がウォールハックが使えるようになったのと、ほぼ同じ時期……か
何か関係があるのだろうか?
「僕もいつか能力に目覚めるかな?」
ハクは、煙草を吹かしながら言った。
「そうかも知れませんね」
僕たちは水処理施設で一夜を過ごし、翌朝次の町を目指した。
半日ほど歩くと、崖下に大きな町が見えてきた。
これまで見た中で最も大きな町だ。
コンクリート造りの近代的な建物で、二、三階建ての建物が多く、町の中央付近には高いビルが建ち並ぶ。
家々は、まるで十字を描くように、東西南北に延びている。
十字の街道沿い以外の土地には、家は一切建てられていない。
「不思議な作りの町ですね……」
僕の問い掛けにハクが答えた。
「ふーむ……東西南北に延びた街道沿いに最初の家が作られたとしても、路地が作られ間を埋めるように家が建てられるのが普通だと思うんだけどね」
「何か理由がある……ということでしょうか?」
ハクは首をひねる。
九龍城のような建物もあったし、謎のホログラムの男が、ほかにも仕掛けを用意している――と言っていた。
もしかしたら、この町にも何か仕掛けが隠されているのかも知れない。
「これだけ広い町だと、間違い無く敵はいるだろうね」
コレルが言った。
「もしかしたら、1グループや2グループじゃすまないかもね……」
ハクが不安そうに告げる。
双眼鏡で確認したが、敵の姿は見えない。
「敵が占拠しているとしたら、中央の高い建物かも知れません」
僕はそう言った。
端っこからクリアリングしていくしかなさそうだ。
「見て、煙が立ち上がっているよ」
ルカが指を指す。
「火事か?」
ハクが言う。
あの煙は……!?
僕たちは、コレルのRCと、僕の超音波敵影探知で索敵しつつ、黒煙の場所まで向かった。
やっぱりだ――。
道の真ん中にフォージトレインが停車していた。
ブロックがトラックの天井に腰を下ろしている。
「よぉ! 久しぶり」
僕はブロックに手を振った。
エイトリは、助手席で眠っているようだ。
「彼らは?」
ハクは驚いている。
「武器を提供してくれている中立の人……としか僕は知らない」
「そうか……」
ハクは納得したようだが、怪訝な顔を浮かべていた。
僕は1911を手に取った。
やっぱり、これがしっくりくる。
ルカは、サブマシンガンを手に取った。
「そいつは、UMP――近距離は、めちゃくちゃつえーぞ」
ブロックがやってきて説明する。
「弾は、この45ACPだ」
「そっか、ビリーのけん銃とお揃いの弾だね」
ルカが笑顔を僕に向ける。
「じゃ、これにする」
なんか、弾丸が同じだから決めたような感じだった。
パァン、パァン――。
ダダダダダッ――。
遠くから銃声が聞こえてきた。
ほかのパーティ同士でやり合っているようだ。
「やはり、ほかのチームがいたね」
ハクが銃声のする方を向いた。
「近くまで行って様子をみてみましょう」
僕は皆に提案する。
この町にいるほかのパーティとは、いずれ戦うことになるだろう。
それなら、ほかのパーティ同士が潰し合っているタイミングで襲撃できれば、有利になる。
「そうですね……索敵しながら近づいて見ましょう」
コレルは、同意してくれた。
「僕は主戦力じゃないから、君らの判断に任せるよ」
ハクは言う。
ルカとアーラも同意してくれた。
僕たちは、ブロックに別れを告げ、銃声近くの高い建物に入った。
寂れたオフィスビルのようで、中にはデスクと椅子が並べられている。
索敵をしながら、屋上まで階段を上った。
屋上の扉を開けると、風が吹き付けてくる。
手すり越しに地上を見下ろすと、戦闘の様子が良く見えた。
一つのパーティがビルの二階に籠もり、外側から別のパーティが襲撃をかけている。
パリン――。
外にいる男は、グレネードを窓に投げ入れた。
ドーン――。
部屋の中で大きな爆発が起きる。
別の男が、次にフラッシュを投げ入れた。
キーン――。
その直後、外にいた4人は一斉に建物内に流れ込んだ。
すぐに銃声が鳴り響く。
ダダダダダッ――。
敵が籠もっていたビルの窓ガラス越しに見ると、中にいたパーティを取り囲み一瞬で掃蕩していた。
やりあっているというよりは、一方的な戦いだった。
「どうする?」
コレルが僕に問い掛ける。
お互いのパーティが疲弊しているならチャンスと思ったけど……。
ここまで実力差があると、外から襲撃したパーティの戦力は削れていないだろう。
「見て!」
ルカが指を指す。
さらに別のパーティが、同じビルを取り囲んでいた。
漁夫の利がきたんだ。
僕たちがやろうとしていたように――。
突入したパーティは窓から顔を出し、表にいる男たちに向けて発砲する。
ダダダダダ――。
その弾丸は、外にいた男に命中する。
一人がダウンするのをきっかけに、3人同時に建物の二階の窓から飛び降りた。
ダダダダダ――。
そして、表にいた者たちを銃で一掃する。
強すぎる――。
連携が完璧だ。
全員アサルトを装備し、頭にはヘルメット……まるで戦場の兵士だ。
「これは、段違いの強さだね……」
ハクは頭を掻きながら言った。
パァン、パァン、パァン、パァン――。
遠くで銃声が鳴る。
また別のパーティがやりあっているのか!?
兵士のような男たちは、銃声のする方へ走っていった。
「いったいどれだけのパーティがこの町にいるんだ……」
コレルが呟いた。
「何だろう……あの光……」
ルカが言った。
屋上から道を見ると、緑色の光が見える。
暖かそうなこの光は……見覚えがある!
その光の元に、二人の人物がいた。
倒れている者を介抱しているようだ。
まさか……!?
僕は、その人物を双眼鏡で確認した。
倒れている男の腹に手を当てている少女がいる。
その子から緑色の光が放たれていた。
彼女は、紛れもなくハイジだった。
「ちょっと、行ってくる!」
「行くってどこに!?」
ルカの言葉も聞かず、僕は無我夢中で駆け出した。
今行かないと、もう会えないような気がして――。
ビルの階段を駆け下りて、道に出る。
道の先に、緑色の光が見えた。
行って渡すんだ……僕のドッグタグを――。
そして、ハイジを元の世界に戻してあげるんだ。
僕は、そのことだけを考えて走っていた。
だから、横道から駆け込んでくる男に気が付かなかった。
僕は近くまできて、ようやく気が付き足を止める。
交差点で、そいつと目が合った。
しまった――。
ダダダダッ――。
その男は、アサルトライフルを僕に向けて発砲した。
僕はすぐにビルの影に隠れた。
僕のオートエイムよりも先に撃つなんて……なんて反応の速さだ――。
足音がゆっくりと近づいてくる。
おそらく、銃を構えながら僕を探している。
僕も銃を手にした。
はたして、撃ち勝てるだろうか――。
不安がよぎる。
ダダダダダッ――。
後ろから発砲音?
振り返ると、道の先から銃で撃たれている。
挟まれた!
殲滅の自動照準が反応する距離じゃない。
パァン、パァン――。
僕は自力で銃を撃つが、遠すぎて当たらない。
「くそっ!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン――。
敵の弾丸が、僕の足元に飛び散る。
だめだ……終わった――。
僕は目を閉じた。
ザーッ――。
目の前に水の壁が現れた。
敵の弾丸は、水の壁に当たり威力を落とす。
「ビリー、逃げてーっ」
ルカが向かいのビルから叫んでいる。
そこから、水を投げてくれたんだ。
シューッ――。
そして、道を塞ぐようにスモークが焚かれた。
アーラが投げている。
「こっちだ!」
コレルが手招きをしている。
スモークで、敵の射線は切れている。
敵は今、僕のことは見えていないはずだ。
僕は、ルカとコレルのいるビルに向かって駆けだした。
「ここから距離を置きましょう」
コレルが言う。
僕たちは路地を抜けて行く。
町の端まできて、小さな建物に入った。
「ふーっ……命拾いしたね」
ハクが煙草に火を付ける。
「ビリー……」
コレルが僕に話掛けてきた。
パン――。
ルカの手のひらが僕の頬を叩く。
「一人で突っ込んだりして……だめじゃないか!」
ルカは真剣な眼差しで僕を見ている。
その瞳には、少し潤んでいた。
「ビリーの不用意な行動でみんなが危険になるんだからね! いーい? 良く考えて」
ルカの言うとおりだ……。
何も考えず……ハイジに会えると思って……それだけで駆けだしてしまった。
「みんな……ごめん」
僕は頭を下げた。
死んでしまったら、なんの意味も無いのに……。
僕は一人、ビルの屋上から道を眺める。
しかし、もうそこにはハイジの姿は無かった。
でも、この世界にハイジはいる――。
そう考えると嬉しくなった。
このまま勝ち進めば、生きていれば――いつかハイジに会えるのだから。
「ねぇビリー、さっきはぶったりしてごめんね……」
ルカが僕の袖を引っ張った。
「ルカが謝ることはないよ……悪いのは僕なんだから……」
「なにかあったの?」
「約束した人がいるんだ……元の世界に戻すって……」
僕はもう誰もいない道に目を向けた。
「その人って女の子?」
ルカは、僕の顔を覗いてくる。
「うん……ハイジって言うんだ……」
僕は目を閉じた。
そして、ハイジのことを思い出す。
「とっても人思いで優しくて……誰よりも心が強くて……人を傷付けることが大嫌いで……ずっと一緒にいたいって思える……そんな子なんだ」
目を開けると、ルカが頬を膨らませていた。
「怒ってる?」
ルカに問い掛けた。
「怒っているわけないでしょう!?」
明らかにルカの機嫌が悪い。
「どうしたの? だから、さっきのはごめんて……」
「さっきのことじゃないから!」
ルカは、そのまま背を向けて室内に戻っていった。
あとで、機嫌とらないとな……。
それにしても、あのパーティの強さは尋常じゃなかった。
まるで戦場の兵士……訓練を受けたような動きだった。
僕たちのように、ただこの世界に飛ばされてきただけの素人じゃなさそうだ。
いったい何者なのだろうか?
⇒ 次話につづく!
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