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第二十七話 すべて僕が背負えばいい

 闇は何の音も立てずに、周りを侵食していく。

 そして、拠点のすぐ側まで近づいてきている。

 僕たちは、逃げるように町を後にした。

 小雨が降りしきる中、ぬかるんだ道を進む。

 アルクが足を怪我しているため、それほど速い速度で移動できない。

「ごめん……足を引っ張って」

 アルクは、申し訳なさそうに呟いた。

「そんなこと無いよ、アルクはみんなのために戦って負傷したんだ。胸を張っていい」

 いつもならテオが、嫌味を言ってきそうなものだが、何も言ってこない。

 僕と揉めたせいだろう。

 雨で気分がうつになっているせいか、みなの口は重い。

 会話が弾まないまま、ただ歩いて行く。

 やがて道の横に、小さな小屋が見えてきた

「この先に、少し大きな集落がありそうだね」

 テオが沈黙を破る。

「あぁ……」

 僕はそっけない返事をした。

 彼とはあまり会話をしたくない。

 正直、信用できないし……嫌いだ。

 やがて集落が見えてきた。

 多くの家が建ち並ぶ。

 これまで訪れた町の中でも最も規模が大きい。

 中央には時計台のような建物が見えた。

 奥に進むにつれ傾斜になっており、その道は高台へと続く。

 その高台には、大きな屋敷が建っていた。

 ミネットは、息を吹き返したように急に元気になる。

「見て見てー! 時計台があるよー、行ってみたい」

「観光で、きてるんじゃないんだよ」

 テオはぼそりと呟いた。

 それを聞いてミネットは、頬を膨らませる。

 僕は、ミネットに声を掛けた。

「どこかに敵が潜んでいるかも知れないから、安全を確認してからにしよう」

「うん、そうだね」

 彼女は笑顔で返事をした。

 銃声は聞こえてこないが、これだけ大きな町だ――ほかのパーティが潜んでいてもおかしくはない。

 辺りは薄暗くなり始めている。

 どこかの建物を拠点として、一晩を過ごしたい。

 目に付くのは、高台にある屋敷だ。

 僕は双眼鏡で覗いた。

 屋敷には、敵が見張っている様子はなかった。

 中央の道は、屋敷に続いているようだけど……堂々と町の中を歩いて行く訳にはいかない。

 そんなことをしたら、撃ってくれと言っているようなものだ。

 町の外側を迂回して、岩山を登る形で移動すれば危険は少なそうだ。

 僕は皆に告げた。

「あの屋敷を取ろう」

「敵がいない保証は?」

 テオが口を開く。

「そのリスクは、どの家でも同じことだ。それならば、有利なポジションに陣取るのが理想的だ」

「なるほどね……わかった」

「僕は、その意見で問題無いよ」

「わたしもー!」

 皆、同意してくれた。

「岩山から迂回する形で進もう」

 僕たちは、岩山をよじ登る。

 所々手を使わなければ、登れないところもあった。

 僕はミネットの手をとり、一緒に登った。

 アルクは鎧を着て、ハンマーと盾を持ち、怪我をしているにも関わらず、難なく登ってきている。

 アビリティの効果なのだろうけど、すごい体力をしている。

「アクル、大丈夫?」

 僕は、声を掛けた。

「うん、大丈夫だよ……」

 そうは言っているが、やはり顔には疲労が見える。

「到着したら、ゆっくり休んでいて」

「ありがとう……」


 僕たちは、15分程で丘の上に到着した。

 屋敷の裏手には、僅かばかりの木々が並んでいる。

 多少の目くらましにはなるだろう。

 僕たちは、そこを通り屋敷に近づいた。

 屋敷は、周りを高い塀で囲われている。

 正面には格子状の門があり、入り口はその一箇所のようだ。

 屋敷は二階建てで、中央には円状のテラスがある。

 屋敷の片側は、三階建ての塔になっている。

 僕は双眼鏡で、それぞれの窓を確認した。

 しかし、カーテンが閉まっていて中の様子は分からない。

「みんなは、塀の外で待機していてほしい。僕が先行して、中の様子を見てくる」

「ビリーお兄ちゃん、危なくなったらすぐに戻ってきてね」

「大丈夫。無茶はしないよ」

 僕は、不安そうな表情を浮かべるミネットの頭を撫でた。

「アルク、塀を登るのだけ手伝って貰えないか?」

「わかったよ」

 僕はアルクの肩に乗り、塀を乗り越えた。

 さて、どこから侵入しようか?

 正直、直接潜入するのは、リスクが高い。

 こんな時、ドローンがあると安全に索敵ができるのに――。

 そんなことを考えたが、今は僕一人でどうにかするしかない。

 僕は、みんなに頼りすぎていたのかも知れない。

 木の裏に隠れながら、建物を観察する。

 正面入り口の真上にある、テラスの窓が開いているのに気が付いた。

 あそこからなら、侵入できそうだ。

 正面入り口の横までくると、窓枠に足を引っかけ、テラスを支えている柱をよじ登った。

 テラスに着くと、いつでも撃てるように拳銃を手にした。

 窓越しに中を覗くが、敵の姿は見えない。

 窓をそっと開け、中に侵入した。

 室内は広く、洒落たテーブルや長椅子が並んでいる。

 壁には肖像がが飾られ、応接室のような部屋だ。

 僕は耳を澄ませた。

 しかし、足音は聞こえない。

 この建物の中には、誰もいないのだろうか?

 少し慎重になりすぎたか?

 僕はそれでも拳銃を構え、足音を立てないようにしながら進む。

 部屋を出るとすぐに、一階へ降りる階段が見える。

 僕は異変に気づいた。

 階段上に――何かある。

 針金?

 僕は階段に近づいた。

 これは、有刺鉄線だ――。

 カミソリ刃が付いたもので、円状に巻かれたものが階段上に張られていた。

 こんなものが設置されているなんて……。

 やはり、この建物には――敵がいる。

 僕は二階から、クリアリングしていくことにした。

 慎重に、廊下を進んでいく。

 廊下の先に、部屋がある。

 その部屋の入り口を、覗き込もうとした時だった――。

 パァン――。

 部屋の中から撃たれた。

 間一髪だった。

 弾丸は、僕の頬を僅かに掠めていく。

 もう少し奥まで覗いていたら、顔面を撃ち抜かれていた。

 僕は少し下がり、入り口に銃口を向ける。

 どういうことだ?

 極力足音を立てないようにしていたのにも関わらず――なぜ部屋に入ろうとしたことが分かったんだ?

 何か秘密があるはずだ。

 その秘密を解き明かさないと――やられる。

 心臓の鼓動が速くなる。

 冷たい汗が頬を伝わり、顎から滴る。

 敵の数は不明――。

 |殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》があるとはいえ、視界外から撃たれたらそれでおしまいだ。

 僕は、最初に突入した部屋まで引いた。

 一度、外に出た方が良いだろうか?

 パァン、パァン――。

 考えがまとまる前に、壁越しに撃たれた。

 弾丸はソファに当たり、僕は無傷。

 しかし、完全に僕の位置がばれている――。

 いったい、なんで……?

 僕は、部屋の隅に移動した。

 そして、部屋の入り口に照準を合わせる。

 すると、すぐに銃をもった男が部屋に入ってきた。

 その男が視界に入った瞬間、僕の|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動する。

 パァン――。

 僕の放った弾丸は男の頭に命中し、彼はその場に倒れ込んだ。

 拳銃を握る僕の手は震えていた。

 危なかった――。

 このままだと、いつかやられる。

 秘密を探すんだ――僕の位置が分かる秘密を。

 答えは、この部屋の中にあるはずだ。

 僕は、部屋中を見渡した。

 テーブルの上には何も無い。

 ソファにも、床にも変わった物は見当たらない。

 どこにある?

 天井を見上げた。

 部屋の隅に黒いドーム状の装置が取り付けられている。

 分かった――あれが、秘密の正体だ。

 防犯カメラだ――。

 ドローンがあるんだから、近代的な装置のことを視野にいれておくべきだった。

 戦いの優越は、銃撃戦の強さだけでは無い――より多くの情報を入手したほうが勝るということか。

 だが――。

 パァン――。

 僕は、銃でそれを破壊した。

 破壊してしまえば、それまで。

 最後に立っているのは――この僕だ!

 防犯カメラは、ほかの部屋にも設置されているはず。

 僕は耳を澄ませた――足音を聞いていれば接近には気づける。

 慎重に部屋を出た。

 そして、天井に目を向ける。

 あった――防犯カメラだ。

 廊下の隅にも設置されていた。

 パァン――。

 これも、銃を撃って破壊した。

 そのまま、廊下を進む。

 敵がいると思われる部屋の前々できた。

 中の人数は不明だが――。

 カメラは破壊したし、相手からしてもこちらの状況は分からないはずだ。

 僕はポーチからフラッシュを取り出した。

 ピーン――。

 ピンを抜いて部屋の中に投げ入れる。

 すぐに耳に手を当て、顔を伏せた。

 パン!

 キーン――。

 破裂音の後に、甲高い音が鳴り響く。

 僕は間髪入れずに、すぐに部屋の中に突入した。

 狭い部屋だった――そのおかげで、中にいた二人の姿を捉える。

 敵は目が眩んでいて、動けない。

 |殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動する。

 パァン、パァン――。

 僕は、引き金を立て続けに二回引いた。

 弾丸は頭を貫き、彼らは何もできぬままその場に倒れた。

 見ると、部屋のデスクの上にはモニターが設置されていた。

 そこに、映像が映っている。

 防犯カメラの映像がここに映されていたんだ。

 画面は四分割されていて、その内二つの映像は途切れている。

 破壊した二台のカメラのものだ。

 残り二つの映像を見たが、二階ではないようだ。

 おそらく、一階の映像だろう。

 ガサッガサッ――。

 部屋の外で音がする。

 何の音だ!?

 二階の防犯カメラは、破壊してしまったので映像を確認することはできない。

 金属を擦るようなこの音は――階段の所にあった有刺鉄線か?

 僕は部屋の入り口に向けて銃を置く。

 すぐに敵は、覗き込んできた。

 パァン――。

 その瞬間、僕の|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動し、瞬時に頭を撃ち抜いた。

 これで4人――。

 パーティが五人制ならば、もう一人いる可能性はある。

 一階か?

 モニターを見ると、走る人の姿が見えた。

 いた――。

 しかし、階段を上がってくる音はしない。

 ガチャリ――。

 扉の開く音。

 玄関だ!

 まさか、逃げたのか!?

 窓から外をみると、拳銃を持った男――いや少年が、門に向かって行く。

 しまった――表にはミネットたちが……。

 アルクは、動けない可能性がある。

 窓から拳銃で狙いをつけたが、既に射程距離外だ。

 僕は窓から外に飛び降り、すぐに後を追った。

「アルク、ミネットーッ! 敵だーっ」

 僕は大声を上げる。

 しかし、それと同時に――。

 パァン――。

 銃声が鳴った。

 門を出た所に少年は立っており、銃を構えていた。

 その銃口の先に、ミネットの姿がある。

 僕の|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動した。

 パァン――。

 僕は、少年の頭を撃ち抜いた。

 彼は頭から血を流し、その場に倒れ込んだ。

 ミネットを見ると、彼女の手には拳銃が握られていた。

 銃を持っていたのか――。

 その手は震え、目には涙が浮かんでいる。

 僕はミネットに近づき、胸に抱き寄せた。

「怖かったね……もう大丈夫だよ」

 そして、彼女の手から銃を取った。

 彼女は僕の胸でむせび泣く。

「……わたし……アルクお兄ちゃんを……守りたくて」

「うん、分かってる……ありがとう」

 彼女が手にしていた拳銃には、安全装置が外されていなかった。

 発砲したのは、僕がさっき撃った少年の方だった。

「怪我は、ないかい?」

「うん」

 この子に、こんな物を持たせてはいけない。

 こういうことは、僕がすればいい。

 人殺しと呼ばれるのは――僕だけで十分だ。

 人の命を奪う辛さも、殺された人の恨みも、すべて僕が背負えばいい。

 これで、このパーティは全滅させた。

 屋敷の中は安全だろう。

 ダダダダダッ――。

 銃声!?

 丘下の町中からだ――。

 こちらに向けて撃たれている訳では無いようだが、いつまでも外にいると危険だ。

 僕たちは、急いで屋敷の中に入った。

 屋敷には、もうひとつ階段があり、塔の三階まで上ることができた。

 この屋敷で最も高い位置にあり、窓から町中が良く見える。

 双眼鏡で覗き込むと、大通りで別パーティ同士が撃ち合っているのが分かる。

 先程銃声を出しているので、僕たちのこともばれているかも知れない。

 隠れてやりすごそうとしても、いずれ襲撃される可能性がある。

 奇襲に耐えられるほど、僕たちの戦力は強くない。

 殲滅までとはいかなくても、可能な限り敵の人数を減らしておきたい。

 見晴らしの良いこの部屋には、銃が置いてあった――DMR(マークスマンライフル)だ。

 僕が倒した彼らは、ここから狙撃を考えていたのだろう。

 僕は、銃を手に取った。

 ずっしりとして重い。

 使ってみようか……。

 銃の先端にはサプレッサーが付いているので、発砲音を押さえて撃つことができる。

 銃を構えてサイトを覗き込むと、倍率サイトが付いている。

 DMR(マークスマンライフル)は単発の銃だが、狙撃銃と違って連射が可能だ。

 慣れていない僕でも、当てることができるかも知れない――そんな甘いことを考えた。

 以前狙撃銃を撃ったことがあるが、その時はシモンの助言もあったし、殆ど偶然当たったようなものだ。

 練習無しで命中するとも思えないが……近距離戦だけでは、この先立ち回りが難しくなるのも目に見えている。

 とにかく――やるだけやってみよう。

 コツリ、コツリ――。

 階段を上がってくる音がする。

 振り返ると、テオだった。

「ここは町が良く見えるね……。狙撃するのかい?」

「あぁ……」

 僕は、そっけなく答えて、すぐに目を背けた。

 窓枠に銃を置き、サイトを覗き込む。

 大通りで腰を落とし銃を構える人に、照準を向ける。

 距離は300メートル? いや、400メートルか……?

 レティクルに、敵の頭を合わせた。

 そして、中心を頭一つ分上にずらす。

 一発目から命中するとは思っていない。

 弾丸がどれくらい落ちるか、分からないからだ――。

 しかし、二発目ではその誤差を調整し命中させる。

 狙撃は、高度な技術が必要とされる。

 僕は大きく息を吸い込み、吐き出した。

 そして、トリガーを引く。

 パスン――。

 もっと重厚な音がすると思ったが、サプレッサーのおかげで大分発射音は押さえられている。

 僕の放った弾丸は、敵の肩に命中する。

 当たったが、致命傷じゃない。

 頭に当たるには、もう少し上を狙わなければならない。

 僕は、すぐに銃の角度を調整する。

 腕が震える。

 狙いを定めていると、スモークを炊かれた。

 敵も手慣れている。

 しかし、まだ微かに見える。

 もう一発――。

 僕がトリガーを引こうとした瞬間――。

 狙っていた敵が、真後ろに吹っ飛んだ。

 ドゴン――。

 鈍い音がする。

 いったい、何が起きた!?

 サイトを覗き込むのをやめ、肉眼で確認する。

 大通りには、巨大な人の姿があった。

 そんな――またしても、化け物!?

 吹っ飛んだ人物は家の壁にもたれて動かない。

 頭は潰れ、腕や足は骨も粉々に砕けているのであろう、変な形に曲がっている。

 ダダダダダッ――。

 すぐに、その巨人に向かって発砲が起きた。

 音からしてアサルトライフルや、サブマシンガンを使っているのだろう。

 しかし、まるで効いている様子が無かった。

 僕は、これまでの化け物騒動は、テオの仕業じゃないかって思っていた。

 しかし、彼はこの町に入ってから、ずっとミネット、アルクと共にいた。

 そして、今も僕の隣にいる。

 僕は、勘違いをしていたのだろうか?

 テオの顔を見ると、彼は化け物を鋭い表情で睨んでいた。

「……ベルセルク」

 彼は独り言のように、そう呟いた。

 この名前、以前に聞いたことがある。

 確か……ブロックが言っていた。

 今回の化け物は、今までのと比較すると一回り小さいが筋肉隆々で、まるで格闘家、プロレスラーのような肉体をしている。

 これまでの醜い姿とは打って変わって、人らしい姿をしている。

 その巨人は跳躍し、家の二階の手すりに掴まると、部屋の中に向かって拳を叩き込んだ。

 超人的な身体能力だ――。

 今までのとは、格段に違うぞ……。

 もし、標的が僕たちだったと考えると、ぞっとして足が震えだした。

 僕はDMR(マークスマンライフル)を構えた。

 サイトを覗きこみ、巨人の頭に標準を合わせる。

 動きが速い。

 しかし、人間に比べれば標的は大きく、当てやすくもある。

 先程の誤差を修正して狙いを定めた。

 大きく深呼吸をして、引き金を引く。

 パスン――。

 僕の弾丸は、巨人の頭に命中した。

 しかし、まるで何ことも無かったかのように暴れている。

 やはり、今までの化け物同様、硬い――。

 この距離では無理だ。

 あの巨人を倒すには、距離を詰めて戦う必要があるが……僕一人では正直厳しいだろう。

 だからと言って、怪我をしているアルクに無理をさせる訳にはいかない。

 あのパーティが、やってくれればいいけど……。

 敵パーティながら、彼らの活躍を期待した。

 ドオォォォォォン――。

 耳を劈くような音と共に、凄まじい爆発が起きた。

 パリン、パリン――。

 その衝撃で、大通り沿いの家の窓ガラスが割れた。

 巨人は――宙に浮いている!?

 いや、家を一軒飛び越えるように吹っ飛んでいた。

 いったい、何が起きたんだ?

 巨人と戦っているパーティを見ると、肩に細長い筒のようなものを持っている人がいた。

 あれは――ロケットランチャーだ!

 対戦車用の武器じゃないか? そんなものまであるのか!?

「ビリーお兄ちゃん! なに? 今の音」

 ミネットが階段を駆け上がってきた。

 そして外を見つめる。

「また、化け物……」

「アルクは?」

 僕は、不安そうな表情を浮かべる彼女に問い掛ける。

「部屋で休んでる……」

 ズドン――。

 この重厚な音は、狙撃銃だ――。

 ロケットランチャー撃った人物は狙撃銃の餌食となり、道の真ん中に倒れ込んだ。

 別パーティにやられたんだ。

 乱戦になってきた。

 少なくとも、この町に僕たちを含めて3パーティ、それに加えてあの巨人がいる――。

 ダダダダダダッ――。

 敵の2パーティは、再び銃撃戦を開始した。

 巨人を見ると、地面に倒れて動けないでいる。

 ロケットランチャーの効果は、あったみたいだ。

 もしかしたら、今があの巨人を倒せるチャンスかも知れない。

 あれさえ倒せれば……、人間相手なら僕の能力でなんとかできる可能性はある。

 ほかのパーティが、やり合っている今の内に……。

「行ってくる……」

 そう言って僕は、階段に向かった。

 しかし、手を捕まれた。

 ミネットが両手で僕の手を掴んで放さない。

 彼女は何も言わなかった。

 それは、僕を困らせないためだろうか?

「大丈夫……危なかったらすぐに戻るから。ミネットはアルクの所にいてあげて」

 ミネットは黙って頷いた。

 階段を降りる前にテオを見たが、彼は窓の外を見つめていて何か言ってくる様子はない。

 僕は拳銃をホルダーにしまい、サブマシンガンを手にした。

 一階まで駆け下り、玄関から外に出た。

 大通りには別のパーティ通しがやりあっている。

 多少大胆だが、直線距離で巨人の元に向かっても気づかれないだろう。

 急な斜面を下り、町に向かった。

 巨人が吹っ飛んで行った場所はすぐに分かった。

 その衝撃で家が崩れている。

 しかし、僕が辿り着いた時には、巨人の姿は無かった。

 逃げたのか……!?

 辺りを見渡すと、人がひとりその場に倒れていた……。

 僕と同い年くらいの少年だ。

 服を身につけていない……。

 もし、人が巨人になったとしたら、そこに倒れている人がその正体か?

 それなら、今のうちに殺してしまおう。

 周りには、ほかに敵の姿は見えない。

 いずれにしろ、敵なら止めを刺しておく必要がある。

 裸の少年は、両手両膝を突き、ゆっくりと立ち上がろうとしている。

 相手が人間なら、サブマシンガンを使う必要はないだろう。

 僕はサブマシンガンを胸のホルダーにしまい、拳銃を手にした。

 少年は大分息を切らせて、すぐに立ち上がれなさそうだ。

 僕は銃を向けたまま、ゆっくりと近づいた。

 |殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》の射程距離に入ったら、一発で仕留めよう……。

 僕の足音に気づいたのか、少年は慌てて僕に顔を向けた。

 それは、見覚えのある顔――。

 彼の顔を見て、僕はすぐに拳銃をホルダーにしまった。

 僕の驚きはやがて、嬉しさに変わる。

 そして、彼の元へ駆け出した。

 出会えた……ルカに……。

⇒ 次話につづく!


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