第二十三話 新たなる恐怖
バックパックに、家に備えてあった水と食料、医療品を詰め込んだ。
ウエストポーチには、予備のマガジンとグレネードを入れた。
腰のホルダーには、使い慣れた拳銃がある。
人、相手ならこれで十分だ。
闇の者の大群と戦わなければならない状況になったらサブマシンガンを使おう。
サブマシンガンは、ストックの部分を折りたたんでバックパックにしまった。
「ビリーお兄ちゃん、準備できたよー」
「行こうか」
僕たちは仲間を探しに、次の町に向かって出発する。
ブロックの話では、化け物騒ぎになっているとか――。
闇の者とは違うようだけど、化け物とはいったい。
とにかく、行ってみなければわからない。
蒼天の元、白土の大地を歩いて行く。
周りに木々は少なく、土を被った岩山がまるでビルのように建ち並ぶ。
森の中とは違って、障害物は少なく開けているので、敵の襲撃――特に狙撃されないように注意しなければならない。
僕は、常に辺りに警戒しながら進んで行った
水や寝具など、重い物かさばる物はアルクが持ってくれた。
僕の横にミネット、その隣にアルクと並んで歩いて行く。
ミネットは、楽しそうにはしゃいでいた。
僕は彼女に声を掛ける。
「先は長いから、ゆっくり歩かないと疲れちゃうよ?」
「へーきー」
「あれなんだろう? 見てくるー」
ミネットは、ひとりで駆けだして行った。
「アルクは、ここにきて長いの?」
僕はアルクと話し始めた。
「生き返ったのは三回目かな」
「僕は、ここにくるのが二回目だ」
「一回死んだんだね」
「あ、うん」
前回、元の世界に戻れたことは黙っておいた。
人殺しをしたくて戻ってきたんじゃないか? ――って、思われるのが嫌だったから。
それに、僕がいれば元の世界に戻れる――そんな期待をされても困るから。
「おにいちゃーん、町が見えてきたよー」
ミネットが手を振って呼んでいる。
遠くにうっすらと町が見える。
30分程歩くと、丘の下に集落が建ち並ぶ。
そして、微かに銃声が聞こえてきた。
「あの集落に入れば戦闘になるから、注意して進もう」
僕たちは、銃声がなる方向とは反対側まで回り込み集落に入った。
町中なら家があって、身を隠せる場所が多い。
敵同士やりあっているなら、戦い終わりを狙って攻撃を仕掛けたい。
どちらのチームが生き残ったとしても、多少なりとも消耗しているはずだ。
気づかれないように近づいて、漁夫の利を狙うのが鉄板だ――などと、相変わらずバトロワゲームのようなことを考えてしまっている。
これは、実戦なのに――まるで、戦闘狂の傭兵みたいじゃないか……。
だけど、生き残るためには仕方の無いことなんだって――自分に言い訳をする。
「僕が様子を見てくる」
「アルクとミネットは安全な所に隠れていて」
「ビリーお兄ちゃん、一人だと危ないよ?」
「無理には戦わない」
「遠くから様子をみるだけだから大丈夫だよ」
とはいったけど、僕には|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》がある。
いざとなったら、一人でも戦える力がある。
ミネットと一緒だと危険だし、一人残しておくのも心配だ。
だから僕は一人で行くことにした。
僕は銃声の鳴る方へと進んで行く。
家の壁に、死体が横たわっていた。
辺りを警戒しながら、屈んで死体の状態を確認した。
銃やナイフによる傷口では無い――壁に叩きつけられたような形で倒れている。
ブロックが言っていた化け物の仕業か。
パァン、パァン――。
銃声が近い――この先だ!
僕が音の鳴る方へ駆け出そうとしたその時だった。
人がこちらに向かって飛んできた。
空飛ぶ能力か!?
「うわぁぁぁぁぁっ」
慌てて、飛びよけた。
ドゴォォォォン!
その人は、地面に叩きつけられた。
自力で飛んできたんじゃない……何らかの力で吹っ飛ばされたんだ!
飛んできた方をみると、建物の二階ほどの大きさの巨大な人間が両手を振るっている。
その巨人は、上半身と腕だけ肥大化して、顔は醜く腫れ上がっている。
な……なんだ、あれは!?
化け物――。
それに向かって何人かの人が発砲しているが、効いている様子が無い。
ウオォォォォォォン――!
巨人は雄叫びを上げた後、握りしめた手を地面に向けて大きく振り下ろした。
パチィン――。
真っ赤な血が飛び散り、何かボールのようなものが飛んできた。
あえて振り返って確認しなかった。
背筋が凍り付く。
戦っていた人の一人が逃げ出した――敵の僕がここにいるのもお構いなしに。
僕も、彼が横を走りすぎるのを見逃した。
それどころではない……。
巨大な化け物がこちらを見ているからだ。
ひとまずここから逃げよう。
銃が効かないのは、さっき見た。
僕は化け物に背を向けて掛けだした。
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン――。
後ろから足音がする――化け物がこっちに向かってきているんだ。
速い――追いつかれる。
僕は窓から家の中に入った。
ドオォォォォォン――!
化け物は、まるでアメフトの選手のように家に突進してきた。
その衝撃で建物が揺れる。
「どうやら次の標的はきみのようだね」
え? 家の中に人がいる。
化け物から逃げることで精一杯で、気が付かなかった。
僕はすぐに拳銃を取り出した。
しかし、オートエイムは発動しない。
リーン――。
胸のドッグタグが共鳴する。
「おや、お仲間のようだ」
家の中には、メガネを掛けて白衣を着た少年が立っていた。
ガーン、ガーン――。
化け物は家の壁を、もの凄い強さで叩いている。
壊れるのも時間の問題だ。
「僕はテオ……キミは?」
少年は話しかけてきた。
「えっと、僕はビリー」
テオはこんな状況にもかかわらず、落ち着き払っている。
「ふむ、ビリー君だね……よろしく」
「あ、よろしく……」
「どうするつもりだい?」
僕はまだ、考えがまとまっていなかった。
この家は、いつまでも持たないだろう。
果たして、戦って勝てるかどうか……。
急に音がしなくなった。
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン――。
走り去る音が聞こえる。
よかった……ターゲットが外れたようだ。
「キャーッ」
少女の叫び声……しまった!
ミネットが――!
僕は急いで家を飛び出した。
ミネットが家の入り口で、尻餅をついて動けないでいる。
家から出てしまったのか……。
化け物は、ミネットに向かって突進している。
アルクは!? 何をしてるんだ?
彼は家の中で震えていた……。
くそ、だめか……。
「ミネットーッ!」
はたして、ミネットの運命は!?
⇒ 次話につづく!
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