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第二十一話 理不尽な世界

 僕の体は再び光に包まれた。

 暖かい――。

 気持ちいい――。

 優しく体を包み込むこの感覚はくせになりそうだ。

 やがて、光から解き放たれる。

 視界が開けてきた。

 僕は、どうやら屋内にいるようだ。

 家の中を見て回った。

 この家は木造の二階建てで、家の中には僕しかいない。

 窓から外を見ると、岩と土の大地が広がっている。

 耳を澄ませても銃声はしないので、ひとまず安全は確保されているだろう。

 まずは、仲間と武器を探さないと――。

 僕は家の中を物色した。

 一階のテーブルの上で拳銃を発見する。

 前にきた時に使っていた銃――1911とは別の銃だ。

 銃口が筒状に細く突き出ていて、ボディにはW38の数字が刻まれている。

 ずしりとくる銃の重み――。

 前の銃よりは僅かに軽い気がする。

 マガジンに弾を込め、銃に装填した。

 ガッチャン――。

 コッキングをして安全装置を外す。

 僕は、誰もいない壁に向かって狙いを定めた。

 懐かしい――この感じ。

 やっぱり、実物の銃を持つと心が躍る。

 胸を見るとドッグタグがある。

 手には、ルカとハイジのドッグタグも握られている。

 必ず見つけ出す――。

 そして、僕のドッグタグを渡して一緒に帰るんだ。

 僕は家の窓から外に出た。

 日本でこんなことをしたら、ただの不審者だ――。

 しかし、この世界では、敵の気配はないが、用心するに越したことはない。

 どこかに潜んで、こちらの様子を伺っているかも知れない。

 僕は家の壁を背にし、腰を落として辺りを警戒した。

 特に足音も聞こえてこない。

 ゲームじゃないこの感覚。

 僕は戻ってきたんだと実感する。

 ――殺し合いの世界に。

 この辺りには小さな小屋が転々と建っている。

 さて、どこへ向かおうか。

 耳を澄ますと、遠くから微かに銃声のような音が聞こえた。

 僕は音のする方に向かって歩き出した。

 悪い癖がでた――。

 銃声のする方へ向かえば敵がいる。

 敵を殺せば僕のキルになる――なんてことを考えている。

 バトロワゲームなら、それでいいだろう。

 でも、これは現実なんだ。

 命懸けの戦いなんだ。

 実際に人が死ぬし、僕が殺されるかも知れない。

 最初にこの世界にきた時は、殺し合いなんかしたくなかった。

 それがいつの間にか、スリルを味わいたくて――。

 戦うことを――殺し合いを楽しむ自分がいた。

 パァン、パァン、パァン、パァン――。

 銃声は近い。

 僕は家の陰に身を潜めた。

 正面の家に対して、その奥の家の二階から発砲している。

 リーン――。

 胸のドッグタグが反応した。

 このドッグタグは、仲間が近くにいると、音叉のような音が鳴るのだ。

 おそらく、正面の家に仲間がいるはずだ。

 パァン、パァン――。

 銃声だ――。

 僕が狙われたわけではなさそうだ。

 奥の家の二階の窓に、発砲する人の姿が見えた。

 拳銃で狙いをつけたが、距離がありすぎる。

 もう少し近づく必要があるな。

 先に仲間と合流するか――。

 僕は、仲間がいると思われる正面の家に近づいた。

 窓から中を覗くと、二人の姿が見えた。

 大きな男と、小さな女の子だ。

 僕はそのまま、窓から侵入した。

 窓のを乗り越えた瞬間、小さな少女と目が合った。

「うわぁっ!」

 しかし、大声を出したのは大柄な男の方だった。

 彼は、驚いて尻餅をついている。

 その大男は鎧に身を包み、巨大な盾とハンマーを手にしていた。

 見た目は強そうなのに、臆病なのか、部屋の隅で体を丸めて怯えている。

 小さな少女の方は、小学校低学年くらいだろう。

 物怖じしない性格なのか、泣き叫ぶようなこともなく平然としている。

「安心して、仲間だよ」

 僕はすぐに伝えた。

 リーン――。

 胸のドッグタグが、二人と共鳴している。

 僕は、窓から向かいの家の二階を見上げた。

 男が銃を向けて、こちらの様子を伺っている。

 僕は射線が通らない位置へ移動した。

「ふたりとも、窓から顔を出さないようにね」

 少女は黙って頷いた。

「僕はビリー、君達は?」

 僕は二人に手を差し出した。

「わたしはミネット」

「ぼ、ほくはアルク……」

「よろしく!」

 アルクの手は大きく、僕の2倍はある。

 それなのに、僕の手を握る力は弱かった。

 きっと、優しい性格をしているのだろう。

 パァン――、パリンッ。

「きゃっ」

 敵の発砲で窓ガラスが割れた。

 ここで手をこまねいて待っていてもじり貧だ。

 不意を突かれて攻め込まれたら、ひとたまりも無い。

 それなら、奇襲をしかけたほうが有利に進められる。

 現時点で戦力になるのは、僕とアルクだろう。

 ミネットは武器を持っていないようだし――。

 例え持っていたとしても、戦わせるのは気が引ける。

 僕はアルクに言った。

「僕達の武器では、接近しないと戦えない。二手に分かれて潜入しよう」

 アルクの武器は巨大なスレッジハンマーだ。

 木や石造りの壁なら破壊できそうな大きさをしている。

 まぁ、そんなことをしなくても、ドアから侵入できるだろう。

「僕が先に飛び出して引きつけるから、その隙に正面から突入してほしい」

 アルクは不安そうな表情を浮かべて、声を出さずに頷いた。

 この作戦には自信があった――。

 いきなり飛び出して、それに反応して的確に弾丸を当ててくるやつなどいやしない。

「いくよ――!」

 僕はアルクに声を掛けて、勢いよく窓から飛び出した。

 二階の窓ぎわにいた敵は、僕に気づいて発砲した。

 パァン――。

 しかし、弾は僕には当たらない。

 僕は、敵のいる家の外壁に身を隠した。

 うまくいった――。

 敵の注意を引けた。

 僕が囮になり、アルクが敵の家に突入するはずだったが、彼はまだ家の中にいた。

 震えて動けないでいる。

 くそ、だめそうか……。

 ひとりでやるしかない――。

 僕は家の裏側に回り込み、窓から中に侵入する。

 敵は何人だろうか? 窓からは二人は確認できた。

 耳を澄ますと、足音は二階からする。

 一階には誰もいないようだ。

 僕にはアビリティがある。

 視界に入れることができさえすれば、撃ち合いで負けることはない。

 久しぶりだが、発動してくれよ|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》。

 僕は拳銃を両手で持ち、顔の前で祈った。

 よし! いくぞ――。

 僕は素速く階段を駆け上がった。

 窓際――見えた、二人!

 その瞬間、僕のアビリティ|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動する。

 僕の腕が勝手に動き出し、照準を敵の頭に合わせた。

「貫け! 僕の弾丸っ!!」

 僕の人差し指は、素速く二回トリガーを引いた。

 パァン、パァン――。

 窓際にいた男二人の額に命中し、真っ赤な血しぶきが飛び散る。

 反動が軽い――。

 この銃……トリガーは重く、撃つのに力がいる。

 それに、前の銃に比べると手応えが弱く感じた。

 銃によって、ここまで違うのか。

 コツリ――。

 足音――もう一人いる!

 奥の部屋だ――。

 僕は、その部屋に駆け込んだ。

 見えた!

 パァン――。

 部屋に入ると同時に、男が発砲してきた。

 僕は、その男に対して弧を描くように移動する。

 相手に対してまっすぐに突っ込まなければ当たらない。

 再び僕の|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》が発動する。

 パァン――。

 僕の弾丸は、男の頭蓋骨を貫いた。

 彼は、どさりとその場に崩れ落ちた。

 静けさが辺りを包み込む。

 もう足音はしない――。

 しかし、まだどこかに潜んでいるかも知れない。

 警戒しながら一部屋ずつ見て回ったが、どこにも敵の姿はなかった。

 三人か……ほかにはいなさそうだ。

 僕はアルクとミネットのいる家に戻った。

 今度はドアから家に入る。

 するとミネットが勢いよく飛びついてきた。

「すごい、おにいちゃん格好良いー! 窓から見てたよ」

「殆どアビリティのおかげだよ」

「アビリティ?」

「僕のアビリティ――|殲滅の自動照準《オートエイム&オートトリガー》は自動で敵に照準を合わせ、トリガーを引く能力」

「銃が得意なの?」

「うん。接近して視界に捉えることができれば負けることはない。あとは、飛び込む勇気さえ奮い立たせればいいだけなんだ」

「あの……ごめん……」

 アルクは俯きながら、小さな声でそう言った。

 僕は首を横に振る。

「気にしないでいいよ。誰だって最初は怖い」

 僕も人殺しなんてしたくなかった……。

 でも……今では……。

「そうだ、君達のアビリティは?」

 アルクは、頭の後ろをかきながら答えた。

「ぼ、僕のアビリティは前線の城壁(アームストロング)――重い物が軽々と持てたりするパワーなんだ……」

 もともと、力がありそうな体格をしている。

 アビリティを使うと、いったいどれ程の力が出せるのだろうか?

「けど……勇気が出せなくて」

「アビリティを信じる、自分を信じるんだ! あとは慣れだよ」

 なんか、先輩面した言い方になってしまった。

 慣れ……か――。

 人殺しに……慣れてしまうなんて。

 僕はもう一つ気になることを聞いてみた。

「ところで、前線の城壁(アームストロング)――って名前、自分で付けたの?」

 アルクは照れて赤面している。

「ち、ちがうよ、以前のパーティで一緒だった、ジャッカルさんが付けてくれたんだ」

 ジャッカル――ペーロだな……元気そうでよかった。

 僕は聞き慣れた名前を耳にして、少し嬉しくなった。

「キミの能力は?」

 ミネットにも聞いてみた。

 しかし、彼女は首を横に振り、悲しそうな表情を浮かべた。

「妹は、アビリティに目覚めていないんだ……」

 代わりにアルクが答えた。

「この世界に、自ら望んできた人はアビリティを授かるけど……自らの意思ではなく連れてこられた人や、小さな子供は力に目覚めなかったりするんだ」

 知らなかった――。

 自らの意思ではなく連れてこられた人……。

 そうすると、ルカはアビリティが使えない可能性があるということか!

 誰もが特殊能力を手にしていると思っていた。

 殺し合うこの世界において、何の能力も持たない者はそれだけで不利だ。

 自分の力だけで生き残らないとならない。

 なんて理不尽な世界だろうか。

⇒ 次話につづく!


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