二話「エルフとの遭遇」
太陽の日差しが瞼に優しくかかり、木の枝が頬を軽く触る感じがして僕は目が覚めた。
夢だったら良いなという感傷もあったり、でも、現実なんだよなっていう複雑な気持ちもあったりなそんな二日目。
家の木さんに起されて、外に出ると湖に霧が立ち込めていた。
夜が寒かったせいか、朝の気候の変化で湖が幻想的になってた。
うっすらと見える水面がとても良い。
湖に近づいて、両手で水をすくい軽く顔にぶつける。
冷たい水が心地よくてしっかり目が覚めた。
そうして、一旦杖を取りに家に戻ってから結界を張りなおした。
一応、神様からの説明で張り直す必要は無いって言われてるけど、気分だよねこういうのって。
別段、魔力を沢山使うわけでもないしね。
というか、魔法全般に関しての魔力はその辺に漂ってるしね。
つまるところ、魔法に関しては今のところ使いたい放題。
魔法チートって良いよね。魔法使いっぽくて。
でも、魔力がないところもありそうだし、この変はしっかり準備しないとかな。
魔物とかが現れて、僕を襲ってくれたりすると助かるんだけど。
魔物って体の中に魔石っていう魔力の塊があるんだよね。
これを加工すれば、魔力を温存できるから緊急事態に備えて欲しいところなんだけど。
神様からは無闇な殺生はやめてって頼まれてるからね。
うん、襲われない限り襲うのはやめておこうね。
そんな事を考えながら、家の周り付近を散歩して安全なのを確認してたら、昼近くになってきた。
お昼も、家の木さんから果物をもらいつつ、口にしている。
しかしながら自分の家ではあるのだけれど、こちらの都合で成長させちゃったわけだし、名前が無いのは可愛そうだなっておもった。
早速家に戻ってきて、とりあえず聞いてみる事に。
「家の木さんは名前が欲しいかな?」
僕が質問をしてみると、ドアをバタバタと開いたり閉めたりしてくれた。
これじゃあ、欲しいのか欲しくないのかわからないね。
「んーっと。名前が欲しかったらドアを二度開け閉めしてくれるかな?」
するとバタバタと二度返事をしてくれた。
どうやら欲しいらしい。
なんて名前が良いかなぁ……。
「家の木さんはどんな名前が良いかな?
カッコイイ名前が良いならドアを一度開け閉めして?
可愛い名前が良いならドアを二度開け閉めしてくれるかな?」
僕が尋ねると、家の木さんは二度ドアを開け閉めしてくれた。
可愛いのが良いのか。
うーん……。女の子なのかな?
そういえば、実がなるんだから雌の木でいいのかな?
あんまり木について詳しくないんだよね……。
どうせなら、精霊っぽい名前が良いかな?
僕の魔力でどこまで進化できるかわからないけどね。
んーー……。そうなるとドリアードっていう木の精霊がいたね。
「じゃあ、君の名前はドリーで良いかな?
僕が聞いたことある精霊からとってるのだけど、どうかな?」
僕がどうかなって尋ねてみると家の木さんは木の先端からポンポンって赤い花を沢山咲かせてくれた。
気に入ってくれたみたいだね良かった。
新しい世界での話し相手が家のドリーさんというのも、不思議な事だけれど、意外にもドリーは僕の話を聞いてくれる。
ひょんな事でこっちの世界に来てしまったことや、神様からのお願いがあったり、自分の記憶が曖昧だったりと、色々な話を聞いてもらった。
そのたびにドリーはドアをバンバンしたり、花が咲いたり、しおれちゃったりと忙しない。
なんだかそれがとても面白くて、思わず笑みがこぼれた。
でも、なんていうか、やっぱり話し相手がいるって大切な事なんだなって僕はおもった。
ドリーと戯れてると、お腹がすいてきた。
やっぱり果物だけじゃ厳しいものがあるかな。
かといって、魔物や動物を狩るのは難しそうというかー……。素人だしねぇ。
というか、食べれるモノがどれかわからないのは辛いところかなぁ。
神様の話では毒なんて気にしなくて良いって言ってたような気がしてたけどー……。
「あの神様、何処と無く不安材料多いんだよねぇ」
僕のため息が部屋の中で広がった。
****
三日目、雨が降ってきた。
外に出れば雨粒がわんさかぶつかって痛い。
今日、外にでるのは厳しいようだ。僕は家に戻ってドリーに声をかける。
「雨がふったら出かけられないよねぇ」
ドリーは応えるように葉っぱを揺らす。
「ドリーは雨が好き?」
するとドリーさんは同じように葉っぱを揺らす。
まあ、そうだよね。森にとっては恵みの雨ってわけだし。
「それは良かったね。でも今日はどうしたものかなぁ」
うむ。本当に困った。
ただまあ、急いでる旅でもないから、気にしなくても良いと思うけど。
僕がそんな風に感傷に浸ってると、不意にドアを叩く音がした。
思わず、ビクッとしてしまった。
何故なら一応、結界が張ってあったからね。
まさか、作動しないとは思ってもみなかった。
もしかしたら、敵意がないと作動しないのかもなぁ。
そんな説明を神様に受けた気がしないでもない。
「――――!! ――――!!!!」
女性の声だった。何か大声で言っている。
ただ、言語が分からない為か頭に言葉が入らない。
んー……。あ、そうだ。こういう時の為に魔法があったね。
僕は神様から教わった『解読』の魔法を耳と口にむけて放った。
ドンドンと二回もう一度ドアを叩く音。
「夜分にすまない! 誰かいないのか?」
「はいはい、居ますよー。
開いてますので、どうぞー?」
僕がテーブル越しに応えてあげると、勢いよくドアが開いた。
そこで僕は目を見開いた。
僕より大きな身長にスラリとした細身の体。
雨に濡れた髪は黄金色の金髪で、耳が長く尖っていた。
青い瞳に白い手には長弓。
ファンタジー世界では一度は見てみたかった長身でモデルさんの様なエルフだった。
しっかし、胸が大きいー……。大きいと肩がこるんだっけ?
何かと大変なイメージだ。
あんまり見ると怒られそうだけど。
額から流れ落ちる雨粒を手で振り払い、僕のように目を見開いて彼女が一言。
「て……天子がいるッ!?」
「はい?」
うん、全くもってよく分からない。
普通の魔法使いにみえるはずなんだけどなぁ。