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一話『異世界』

 うっそうと茂る森、森、森。

 あたり一面の森に丁度、日の光が空に見えて木漏れ日が出来ていた。

 鳥のさえずりも聞こえるし、動物達もちょくちょく見かける。

 都会の汚れた空気と比べるとここはまさに大自然だね。澄んだ空気がとても良い。

 神様から――


「森の中では魔物がいるかもしれないが、手当たり次第殺してはならんぞ!

 生態系が崩れるからな!

 ただし! 襲い掛かってきたら別だ!

 存分に力を発揮したまえ!」


 とかなんとか言われたが、未だに魔物と出会ってはいない。

 というか、むしろ魔物に出会ったら即殺せとか言われなくて良かった。

 そんな度胸はまだ持ち合わせてないよ。

 ニホンジンアラソイキライ、だしね?



 さてはて、現状をまとめておこうかな。

 僕の名前はムラマサ。

 一応、魔法使いだ。

 魔法の使い方はこちらの世界に来る前に練習というなの洗脳学習で神様に学ばさせてもらったので、大体大丈夫……のはず。

 念のため、こっちに来てから軽く練習もしてみたけど、問題ないようだ。


 この世界の魔法って面白いんだよ?

 僕の場合だけど、ゲームの様に体に蓄積された魔力を使うのかと思ったら、その辺に漂ってる魔力を練って発動するみたい。

 だから魔力が感じられればどこでも魔法が使えるみたいなんだ。

 ただ、ゲームの世界みたいに、隕石を落とす魔法や、山一つを吹き飛ばす魔法ってのは無理みたいだね。

 あくまでも、目に見える範囲で出来ることもそこそこみたいな?

 それでも十分すぎるほどだけどねー。


 はなしがそれちゃったね。

 で、神様のお願いで、ここ異世界『アスマルマ』にただいまやって来ましたと。

 自分の身長は成人男性より少し低いかな?

 少年?……いや、青年? うーん、青年くらいかな?

 顔はー……まあまあかな?

 と、いっても水辺にうつったぼやけた顔しかみてないけどね。

 髪は白くて、耳は長いっぽい。なんだかエルフっぽいね。


 それで、神様からの使命が『魔力溜まりの除去』って、事なんだけど、毎日魔力溜まりを探す事はしないでも良いらしい。

 なんでも日本人ってのは勤勉すぎて、作業を黙々とやってしまう傾向があるからだとか?

 なので、見つけたら『魔力溜まり』を潰していけばいいらしい。


 そしてその『魔力』とは何ぞやってことなんだけど、この世界には目に見えない空気と一緒に微量な魔力が一定方向に漂ってるらしい。

 これが自然へ良い方向で作用してて、世界のバランスに影響を与えているらしいんだけど。

 全て全てがそういうものでもないらしい。


 その一つが『魔力溜まり』なんだそうな。

 魔力溜まりってのはそのままの意味で、一定方向に流れてるはずの魔力が、特殊な条件化でのみ、溜まっていっちゃう現象らしく。

 魔力溜まりが発生すると、そこを基点として魔力がぐるぐる回って圧縮されていくんだってさ。

 で、これをずーっと放置しておくと、危険な魔物が増えたり、発生源に近い自然を破壊しつくしてしまうらしい。

 危険だねぇ。


 そんな危ないものを除去して欲しいって無理難題も良い所なんだけど。まあ、やってみないとわからないから、見つけ次第やってみようってかんじだね。


 『魔力溜まり』を消すには色んな方法があるらしいけど、一番手っ取り早いのは僕が魔力溜まりに触れれば良いらしい。なんでも、僕を通して神様が回収するみたい。

 うん、これだけなら出来そうだし、なんだか神の使徒っぽいね。

 いや、実際そうなのかもしれないけど。


 ちなみに『魔力溜まり』を探すのには、このもらった杖が便利らしい。

 見た目は大きな樫の木っぽい杖で、僕よりも背が高い。

 なんでも、『魔力溜まり』に反応して行き先を示してくれるとか?

 便利なものがあるもんだ。


 でもねーその使い方が酷い。

 この杖を垂直に立たせて手を離すだけ。

 こうして倒れた方角に一番近い魔力溜まりがあるらしい。

 良いのかなーそれ。

 なんか杖がかわいそうな気がする。

 大事な杖を毎回毎回、倒すってどうなのさー?


 次、今の自分自身についての感想。

 生前の僕はラノベを読んだりゲームをしたりな、いわゆる大人しい青年だったのだけれど、こうやって外の世界を歩くというのもなんだか、楽しく感じた。

 多分、神様が僕を色々いじってそうしたのかもしれないけど、それでも大自然の川を見たり、大きな木や草に手を伸ばしてみるとなんだか、それらの生きている実感を感じることができた。不思議だね。

 とりえあえず現状はそんな感じかな。


 今は杖に導かれて移動してる感じだね。

 いきなり魔力溜まりを見つけることもないとおもうけど、一応ね?

 誰に相談していいかもわからないし、神様が応えてくれるわけでもないしね。

 

 現状、歩いても歩いても、森、森、森。そしてたまに川があったりかな。

 疲労感は今のところないね。その辺は神様の恩恵があるのかもしれないけど。


 小さな川を見つけて、それにそって道なき道を進んでいったら小さな湖があった。

 そういえば、小さい頃に湖で泳いで見たいって思った事もあったかな……。

 当事は泳げもしないし、そんなことしたら寒くて風邪を引くって言われたっけ。


 ……ん? 誰に言われたんだろ。あーー、記憶が欠如してるのかなぁ?

 多分両親に言われたんだと思う。

 大事なところで記憶の欠落があるとなんだか寂しくなるね。

 まあ、現状がボッチだから仕方ないのかもしれないけど。


 現在の気温はそれほど寒くもなくて、むしろ暖かい。

 なんだかお昼寝するには持ってこいだった。

 僕は靴を脱いで、近場にあった湖に足を入れてみる。

 深さはそれほどなくて、程よい冷たさが気持ち良かった。

 こんなことしてて良いのかなぁって思うけど。

 まだ、初日だし多少はね?

 森の中で浮き足立ってるのは否めない。


 それにしては森には危険がつきものだって聞いたけど、全く魔物が出てこないのも気になる。

 一応、魔法使いっぽく、敵意があれば直ぐにでも気がつく魔法は使ってるんだけどね。

 『敵意感知』だったかな?

 僕を対象に狙ってる者がいれば、気がつくらしいよ?

 まだ、感じ取ってないからわからないんだよね。


 それと念入りに『障壁』魔法も自分を中心に展開してるから大丈夫のはずではあるのかな?

 こっちも攻撃されてみないとわからないのが不安だねぇ。


 だって……まだ、攻撃を受けてないからね?

 どういう結果になるか全くわからないんだよね。


 だから、精神的不安はあるんだよね。

 かといって、怖いっていう感情は起きないんだよなぁ。


 この辺は、頭の中をいじられた結果なんだろうなぁ……。

 僕は一人「はぁっ」ってため息をついた。



***



 それから、しばし湖をグルグルまわってから、少し考えて。

 僕は魔法を使って手短にあった小さな木を成長させることにした。

 何を思って行動したのかってことだけど、折角だから、魔法使いの家が欲しいなっておもったんだ。

 魔法使いだしね?


 周囲から集めた魔力で魔法を展開して、木の成長を促進。

 ファンタジーな世界につきものな、木の中にある家を想像しながら再現してみた。

 勿論、ドアっぽい物もあれば、窓っぽい物も作る。

 ただ、ガラスとかは用意してないから、これも木で開く形だね。


 木をメインにしたのは、素材は簡単に手に入るし、僕自身がエルフっぽい感じだし良いかなっておもっての行動だね。

 あと、無理に木を成長させてしまうのはどうかなっておもったんだけど、丁度枯れそうで弱い木があったから、それに魔法をかけてみたんだ。

 案の定、息を吹き返して見る見る大きくなってくれた。


 小さな木が大きくなると感謝の気持ちなのか、出来たばかりの大きい木の実を落としてくれた。

 食べてみると梨っぽくて、とても甘くてみずみずしくて美味しかった。

 貴重な食料だねこれは。

 食料事情はどうするか困ってたところだから本当に助かるね。


 お礼代わりに僕が集めた魔力を木に少し分け与えると、かなり喜んでくれた。

 僕が魔法で動かさなくても、家のドアをパカパカあけてくれたり、木の実を沢山実らせてくれたり、どうやら明確な意思が芽生えたみたい。魔法って本当に不思議だね。

 今日は一日、この木と対話でもして楽しむかな。

 相手の木さんが喋れるわけじゃないけどね。



 夜になってくると、冷たい風が家の中に入り込んできた。

 外は真っ暗で家の中も真っ暗だ。

 仕方ないので、魔法で明かりをつけるんだけど、ほのかな光が外に漏れるとなんだか、魔物を呼び寄せてしまう気がして困った。

 すると、家の木が応えてくれるように、光が漏れないように生い茂った葉で窓やドアの隙間を隠してくれた。

 これのおかげで、冷たい風も入ってこなくなって本当に助かった。


 寝る場所をどうするか悩んでいると、家の木が葉っぱを大量に生み出しては落として、自然のベットを作ってくれた。

 一時的な感情で作っちゃった家だけど、なんだか申し訳なくなってきたよ。


 僕はお礼に魔力を少しだけわけてあげて、家を守るように魔法で強固な結界を張ってみた。

 効果はあるかわからないけど、無いよりましだとおもう。


 外から持ってきた大量の葉っぱに体を埋めて、僕は寝ることにした。

 夜中に行動してもきっと良い事も何もないしね。

 安全が一番。『魔力溜まり』はまた明日、探したり考えたりしてみよう。

 そういえば、食料事情もどうにか考えないとね。

 なにはともあれ、明日だね明日。


 そんなかんじで、この世界での僕の一日目が終わった。

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