10章 明かされる真実と記憶 2話
そんなジェイルから目を逸らさず、真っすぐな瞳を向け真実を語ろうとするオキディス。
「本当だ。君の父親が自殺した事も知っているし、家庭の事情もよく知っている」
「なら、そのタトューは何なんだ? 俺を殺した奴も同じタトューをしていたぞ」
逼迫した表情でオキディスに問い詰めるジェイル。
「‥‥‥君を殺した者が私と同じタトューをしていた事は知らないが、君に伝えなければいけない事もある」
オキディスの言葉にジェイルは一体何の事か? と首を傾げる。
嘘を言っている様子にも見えず、仕方ない、と思い、少しでも喋りやすいようにオキディスの後ろで縛られている両腕のロープを解く事にした。
「すまない」
「それより教えろよ。なんの事だ?」
ようやく落ち着きを取り戻したジェイルはオキディスと向かい合う事に。
「あの爆発の事件で君の父親が辞任したが、それだけでは騒動は収まらず、私もその責任を負うため辞任する事になった。そして次の働き口を探そうとしたが、私を雇ってくれる会社はどこにも無かった。そしていつの間にかホームレスとなった私は、月日が経つにつれ、心が荒んでいった。気付いた時には麻薬の運び屋や、殺し屋にまで成り果て、悪事で手を染め上げていった。このタトューも道を踏み外した自分への戒めの印でもある」
オキディスの壮絶な過去に言葉が出ないジェイル。
悪魔の世界と言われようとも、レッテルを貼られては再就職も困難を極める。犯罪率八十パーセントと言うのは前歴やレッテルを貼られた者への支援が不足していた事が最大の理由でもあった。
そこまで人が人に対し無関心で無慈悲なのには一体どんな訳があったのか?
その理由を知る者とは一体……。
オキディスは続けて喋る。
「しかしある日、私の所にある殺しの依頼が来た。それは‥‥‥君の殺しの依頼だ」
振り絞るような声で喋るオキディス。
ジェイルはこの時点で言いたい事が山のようにあったが、話を最後まで聞こう、とただオキディスに鋭い眼差しを向けていた。
「続けろよ」
語るのが辛くなり黙り始めたオキディスに冷たく促すジェイル。
「私は殺しの依頼は全てネットカフェで受けていた。悪魔の世界と言われるだけあって、警察もネットでの監視はザルだった。だが念のため、履歴に不審な点が残らないように私独自の隠語と偽装のアカウントを使いSMSでそのやり取りをしていた。『死のレクイエムを奏でたい者よ、百人のベンジャミン・フランクリンを静謐の場で輝かせた時、死神の代行人がその者の傍らで、その詩を囁くだろう』と。」
「要は百枚のドル札を人気のない所で、受け渡して殺しの依頼を受けるって事だろ」
妙に頭が冴え渡っていたジェイル。この時のジェイルは今までにないくらい神経が研ぎ澄まされていた。余程この真相を知ろうと真剣なのだろう。
重苦しい表情を浮かばせるジェイル。
「鋭いな。その通りだ。そこで私に依頼した者から君の名前が出た時に、私はすぐに断った。君の父親には昔からお世話になっていた。そんな人の息子にまで手を下す程、私は極悪人にはなれなかった」
既に殺しをしている人間が今更何を言ってるんだ、と言いたい所だったジェイルだったが、それ以上に聞きたい事があった。
「俺に殺しを依頼した奴は誰なんだ?」
「それは、私にも分からない。匿名でやり取りをしていたから男か女なのかも」
それを聞いたジェイルは、顔を俯かせ一体何者か? と思案していたが、誰も思い浮かばなかった。
そもそも、一体誰がジェイルを殺したのか。
「それから私は程なくして、同業者である殺し屋に殺された。二千二十六年のクリスマスの日に‥‥‥自業自得だがね」
覇気の無い声で語るオキディス。
「……二千二十六年。それは本当か?」
「ああ、本当だ。……その日がどうかしたのか?」
疑うジェイルの瞳を真っ直ぐ見るオキディス。
丁度その一年後の二千二十七年のクリスマスの日にジェイルは殺されている。
だからこそ慎重にオキディスの言葉を見極めらなければならなかった。
二千二十七年のクリスマスの日と言えば少なくともジェイルは迷わずオキディス殴っていたかもしれない。
嘘を付いている様子が無い、と判断したジェイルは気持ちを落ち着かせた。
これでオキディスがジェイルを騙していたとなると、オキディスはとんでもない役者と言えるが、ジェイルはそこまで疑っていなかった。