9章 下された判決 5話
「ぐうー、ぐうー」
スザクは心地の良さそうな寝息を立てていた。どうやら最初に俯いていた時から寝ていたようだ。
「おいっ! あいつ寝てるぞ!」
思わずジェイルはその場でスザクに腕を伸ばし指を差し語気を強め指摘する。
「貴様! スザク様に向かってなんと無礼な!」
後ろに居た兵士がジェイルの態度に怒り、手にしている槍の石突でジェイルの頭を強く殴ってきた。
痛みでうめき声をあげ、縛られている両手で頭を押さえつけるジェイル。
そこで、スザクがハッ、と飛び跳ねるように起きると、幹部が今までの話を要約し耳打ちで告げていた。
「う、うむ。良かろう。オキディス・ビュウレンとジェイル・マキナの処分は巨尻で潰すにする」
「間違えてんぞ、クソ爺」
寝惚け眼を擦りながら口にするスザクの言誤りに、ぼそりと悪口を言うジェイル。
「いい加減にしろ貴様!」
またもや兵士に槍の石突で頭を強く殴られるジェイル。
そして、同じようにうめき声を上げ、頭を押さえつける。
幹部は軽く咳払いをし、気持ちを切り替える。
「それではこれにて閉廷したいと思います」
「お待ちください神よ! どうか、私のお話をお聞きください!」
幹部がそう言うとオキディスは慌てた面持ちで必死に声を上げる。
「見苦しいぞオキディス。貴様は命を軽視し、禁忌である生者の血に触れそれを悪用しようとした。それを悪行と言わずなんと言う。同じ神官でありながら情けない。いや、元神官だったか」
ユエルは鼻高々にそう言うと、オキディスの元にまで不敵な笑みを浮かべて歩いてくる。
「これはもう貴様には必要ないだろう」
ユエルはそう言うと、オキディスの首元に巻かれている青いケープを勢いよく剥ぎ取った。
悔しそうな表情を浮かべるオキディス。
ジェイルは腹立たしく思いながらユエルを睨みつける事しか出来なかった。
オキディスに情を持ったわけでも、憐憫な気持ちを抱いたわけではないが、ただ単にユエルが気に食わなかったジェイル。
「連れて行け」
ユエルが冷たくそう言うと、四人の兵士達がジェイルとオキディスに二人ずつ付き、布猿轡で口を塞ぎ後頭部で縛ると法廷の場から連れ出していった。
「さっさと歩け!」
兵士の一人に背後でどやされながら、歩かされるジェイル、その前を一人の兵士が歩き先導する。その後ろからもオキディスが絶望したような表所で俯きながら二人の兵士達に挟まれながら、重い足取りで歩いていく。
着いた先は怪しげな古代文字が円を描くように刻まれた大きな石の扉。
その石の扉がギギギッ、と音を立てて独りでに開いていく。
「来い」
先導している兵士がそう言いながら扉の先を歩いていくとジェイルとオキディスも言われるがまま入っていく。
暗くて何も見えない部屋だったが、入って間もなくして、四方の壁際に設置されている四つの篝火がボッ、と音を立てて発火する。
壁も地面もコンクリートで出来た部屋。そして中央には石の門に刻まれていた、似た古代文字が円を描くように刻まれていた。
そして、一つ一つの篝火のすぐ近くに四人の修道着を着た女性が中央を向きながら正座をして祈っていた。その近くに兵士、一人一人が修道着を着た女性の警護をしている。
嫌な予感がしてならないジェイルだったが、逃走しようにも両手は縛られ、一人の兵士はジェイルとオキディスの背後にピッタリと張り付くぐらいすぐ近くにいるうえ、三人の兵士達が石の門を完全に塞いでいる。
仮にこの場を抜け出せたとしても場内や天守国にいる兵士達に見つからずに外に出るなど不可能。上手く外に出られたとしても、どこに行けばいいのかも分からず、彷徨う事が目に見えている。
脱出の方法があるとしたら、この場で死んで地獄に強制的に帰還すると言う方法もある。
舌を噛んで自害する方法もあるが、布猿轡で口の中を塞がれているのでその方法は使えない。
わざと兵士達に反抗し、その手にしている槍で致命傷を負わさせ、自害を差し向けるなど、プランはあるにはあるが、そう上手くいくだろうか。