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9章 下された判決 4話

 廃人化の人間達を()(りょ)にし、(てん)使()(かい)に連れ去った事はとてもじゃないが、無罪側の主張とは辻褄(つじつま)が合わない。


 その事を言おうか悩んだジェイルは、ふとユエルと目が合った。するとユエルは不敵な笑みを浮かばせる。


 「有罪側」


 「それは素晴らしいですね。天使界(てんしかい)のためにそこまで貢献(こうけん)なさろうとは。その(けん)(しん)(てき)な姿勢には感服いたしますよ。ただしそれが真実ならの話ですが」


 ユエルはスコットに目を合わせると(けい)(がん)の眼差しを向ける。


 「神よ。ここで私から一つ進言したい事があります」


 ユエルだけでなく法廷にいる全員がスザクに視線を向ける。


 そこでジェイルはスザクにギョっ、とした視線を向ける。


 ……スザク。奴が(てん)使()(かい)を統べる神か、と。


 「‥‥‥申して見よ」


 外見もそうだが、声にもあまり()(げん)を感じさせないスザク。


 どこにでもいる一般の老人が無理に役になり切ろうとしているかのような。


 しかも目蓋が半開きで、今にでも寝落ちしそうな感じさえする。


 「ブルンデの話は一旦、保留としましょう。このまま無罪側の主張を聞いても(らち)が明きません。何故ならスコットはオキディスの配下。そんな者の主張はいくら言っても信憑性がない。ただの虚言(きょげん)です」


 愚劣と言わんばかりの態度を取るユエルにスザクは少し沈黙するとコクコクト頷き始めた。


 無罪側のスコットは顔を俯かせ、どうしたらいいのか? と悩んでいた。


 「では改めまして、ここからオキディスが人体実験したかを議論したいと思います。有罪側からどうぞ」


 幹部がそう言うとはユエルは一枚の紙を懐から取り出す。


 「では続けて主張させていただきます。オキディスは間違いなく(てん)使()(せい)(かい)の牢屋の更に地下深くで、人体実験をしていました」


 「そ、そんな証拠はあるのですか⁉」


 ユエルの主張に明らかに動揺するスコット。


 「無罪側は勝手な発言は(つつし)んでください」


 幹部に(きょ)()されたスコットは深く俯く。


 「証拠はもちろんあります。こちらに記載されているのは私の部下が独自で入手したものです」


 ユエルはそう言うと紙の文面を朗読し始めた。


 「これにはこう書かれてあります。生者(せいじゃ)の血を作り上げる事は不可能だが、邪神(じゃしん)の血は完成した。廃人化の人間を素材に使っているため、制度はここまでだが、(てん)使()(かい)の人間を使えば元来の(せい)(じゃ)の血を作り上げる事が可能かもしれない。しかし、これ以上、派手には動けない。貴方の力が必要だ名も無き協力者よ。神の権能を手にし、現世での楽園を共に築くため更なる協力を要請する。オキディス・ビュウレン」


 ユエルが文面を読み終えると、(ぼう)(ちょう)(せき)にいる兵士達がざわめき始めた。


 「そんな馬鹿な!」


 オキディスが酷く動揺する。


 「このようにオキディスは、何者かと裏で通じ、(せい)(じゃ)の血を手中に収めようと何者かと暗躍していたのです。(あまつさ)え神の座を奪い(せい)(じゃ)となり、(げき)(せん)の権能を使い現世を手中に収めようと記載されております。だが彼は(せん)(りょ)なばかりに(げき)(せん)を得る術を知らず、誤った人格者として神と世界を冒涜している。そしてこれを書いたのも当然ながらオキディスです。自分の名前を書いているだけでなく、筆跡も一致しております」


 自慢げに語るユエル。


 スコットは何も言えず、ただ無言で俯くだけだった。


 「そもそも、貴方がどこでそれを手に入れたのですか⁉ 私は自分の名前など書いてはっ――!」


 オキディスは、自分で言おうとした事が不味い、と思い、慌てて黙った。


 「自分の名前は書いてはいないが、この文面を明記した事は認めるのですか? 今貴()(ほう)は、はっきりとそう仰いましたね?」


 圧力をかけるようにユエルはオキディスに問いかける。


 それに対しオキディスは、冷や汗をかいていた。


 「神よ。この通りオキディスが悪に染まっているのは明白です。(ただ)ちに神官の座を剝奪(はくだつ)し、(きょ)()(おく)りの刑に処すべきです。この男は死者として地獄で這いつくばる事すらも(あたい)しない。そこにいるブルンデ殺しのジェイル・マキナ同様に」


 ギロリとした目をジェイルとオキディスに向けるユエル。


 既にジェイルは答弁も弁明する余地すらなく、この裁判が始まる前には処罰は決まっていたのだ。


 「‥‥‥」


 スザクはユエルの言葉に先程と同じように俯きコクコクト頷いているだけだった。


 しかし、ジェイルはそこである音を耳にする。


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