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9章 下された判決 3話

 そして、隣にいるジェイルを見てハッ、と驚くオキディス。


 「君はジェイル君か⁉ 何故君がここにいる?」


 「それはこっちのセリフだ! なんでお前こそここにいるんだ?」


 何故自分以外が加害者になっているのか、と困惑するジェイルとオキディス。


 そして、扉から金色のプレートアーマーを着た者が現れた。


 それは幹部の兵士だった。


 幹部はそのまま裁判官側の椅子の横にまで歩き、止まるとジェイル達の方を向く。


 「(せい)(しゅく)に、(せい)(しゅく)に!」


 幹部の男が声を張り上げると雑談していた兵士達が口を閉じ、ジェイルとオキディスも黙って前を向く。


 すると、開いたままの扉から誰かが入ってくる。


 扉から入ってきたのは、オキディスと同じ衣服を着た若い男だった。


 白い肌でサラサラとした緑色の髪に(おう)(よう)な表情。今まであった誰よりも気品が感じられた。


 その男の後ろにボサボサの赤い髪の老人の男。更にその後ろには別の兵士。その三人がゆっくりと歩いてくる。


 赤い髪の老人を挟んでの登場。


 そして、ジェイルとオキディスの中央の前に立ち、裁判官の椅子に向け前を向くと、間にいた老人の男性はゆっくりとした足取りで裁判官側に置かれている豪華な椅子に向かって歩いていく。


 そして、豪華な椅子に老人の男が座ると、右側のテーブルには兵士が向かって行き、左側のテーブルには緑色の髪の男が向かって行く。


 そして、各々が指定されたテーブルの位置に立つ。


 「それではこれより、オキディス・ビュウレンがジェイル・マキナに、ブルンデの生息地を口外した件と、人体実験の()(わく)による裁判を開廷(かいてい)したいと思います」


 老人の近くにいる幹部の言葉に、これはオキディスの裁判なのか? と首を傾げるジェイル。


 「まずはブルンデの生息地を口外した件について議論いたします。無罪側のスコット・ダルマ殿からどうぞ」


 幹部がそう言うと、スコットは軽くお辞儀をする。


 「私は当然ながら、オキディス様の無罪を主張します。三百年前、オキディス様は確かに地獄に足を運び、ジェイル・マキナと(せっ)(しょく)いたしましたが、ブルンデの生息地は口にしていません」


 右側のテーブルにいる兵士であるスコットが堂々とそう主張する。


 「さっ、三百年!」


 ジェイルはあれから三百年経っていた事に驚愕していた。どうやら馬で時空間を移動している時に、場所までは瞬時に移動出来ても、実際に直接現地に辿り着くまでの時間は瞬時ではなく、移動までの行程の時間はしっかりと経過していたのだ。


 ナイラの高原からブルンデの生息地に行く時は夜だったが着いた先の天候が(そう)(きゅう)だったのは時間が経過していた証拠だった。


 だが、それでも三百年の年月が過ぎたと言う事は誰も夢にも思わない(かい)()のような出来事。


 馬で移動していた分、歩けば五百年は掛かると言う途方もない時間をある程度、短縮できたが、それでもかなりの時間を(つい)やしていた。


 ジェイルの声で裁判を妨げられた事に幹部の男は無言でジェイルを威圧する。


 その事に気付いたジェイルは口を真一文字にする。


 「それでは有罪側のユエル・イーグレシル殿」


 気を取り直し幹部が裁判を再開させる。


 「こちらは、有罪を主張します。オキディスがジェイル・マキナにブルンデの生息地を口外したかが問題の核ではなく、定期調査以外に地獄に赴き、(あん)()に地獄の人間と接触し、疑われてしまう原因を作ってしまった事にあります」


 ユエルも堂々と主張する。


 「無罪側」


 「おっしゃる通り、オキディス様は軽率な行動だったかもしれません。しかしそれは、(てん)使()(かい)の脅威となる地獄を視察し、その人間達の思想を測る為、やむを得ず接触したのです。ジェイル・マキナもその内の一人です」


 スコットの主張を聞いたジェイルは、すぐに嘘だと分かった。


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