9章 下された判決 1話
海で未だ擦れるような声でブルンデに呼び掛け続けるジェイル。
すると、背後からいきなりジェイルの首にロープの輪がかけられた。
「よし! そのまま引きずり上げろ!」
なんと、五人の兵士達と先程ブルンデの海域の近くにいた隊長が小舟でジェイルの背後に近づき、ロープを投げてきたのだ。
「ウッ! グウゥ!」
首にかけられたロープを掴み、苦しみながら藻掻くジェイル。
五人の兵士達の腕力に、ジェイルは成す術なく引きずり上げられてしまった。
「オヘッ! オエッ!」
ジェイルは口から飲み込んでしまった海水を小舟で吐き捨てながら苦しんでいた。
「貴様、とんでもない大罪を犯してしまったな。この罪は貴様の命を費やしても贖いきれんぞ」
隊長の男が野太い声でそう言いながら、二人の兵士達は仰向けで倒れているジェイルの両手と両足をロープで縛り上げ、布で口を塞ぐ。
「んんー!」
喋ろうにも喋れないジェイルはその場で二人の兵士達に押さえつけられていた。
そして、近くから白い大型の軍艦が汽笛を上げ、ジェイルのいる小舟に近づいてくる。
小舟は軍艦に近づき軍艦のすぐ下に着く。
軍艦からロープが垂らされてきて、そのロープをジェイルの身体に巻きつけ縛る。
そして、軍艦に乗っている兵士達数人がジェイルを引き上げ、軍艦の甲板に下ろす。
兵士達は何も言わず、ただ無言でジェイルの身体に縛られているロープの縄を掴んだままジェイルを引きずりながら歩き出した。
甲板にジェイルの水浸しの跡を残しながら、引きずられていくと、大きな樽の所で止まり、その樽に縛り付けられるジェイル。
ジェイルは顔をしかめながら、動かせる首だけを使い辺りを見回す。
何人もの兵士達が海域に目を向け異状がないか確認していた。
しかし、そこにはガーウェンの姿が無かった。
どこに行ったのか? と憂慮するジェイル。
すると、いきなり先程ジェイルを甲板に引き上げた一人の兵士が近づいて来た。
辺りを見回していたジェイルはそれに気付くことが出来ず、気付いた時には布で目を塞がれ強引に後頭部で縛り付けられた。
「むごごごっ!」
突然視界が暗くなり困惑するジェイル。
「出航だー!」
隊長が兵士達に野太い号令をかけると、汽笛が鳴り、軍艦は出航した。
「あれじゃあブルンデはもうお終いだよな」
「ああ。実行犯のあいつは捕らえ、もう一人の男は殺したが、どうあれブルンデの死は免れない。――見ろ、沈んでいくぞ」
兵士達がブルンデの方に目を向け話し合っていると、ブルンデの巨体は、深い、深い海へと沈んでいく。
その声を耳にしていたジェイルは深く俯き深い悲しみの中にいた。
ブルンデだけでなく、囮となったガーウェンまでも殺されてしまった、と。
軍艦が出航して四時間が経つと辺りは暗くなり、冷たい風が吹き出していた。
そして、ブルンデが死んでからある変化が起きていた。
それはとても些細な事かもしれないが昼夜問わず空を覆っていたオーロラが消えていた事だった。
その事に気付ける状況では無かったジェイル。
ジェイルは寒くてブルブルと身体を震わせている時だった。
ジェイルの所に隊長と一人の兵士が近づいてくる。
「天聖裁判所までもう直だぞ。そして貴様の愚行が裁かれるのもな」
隊長がそう言うと一人の兵士が樽に縛られているジェイルの縄を解く。
そして軍艦は港に止まった。
ジェイルは足の縄を解かれ、無理やり立たされると、手で縛られている縄のロープを引っ張られ強制的に歩かされた。
港に着くと、その前に兵士達が住む宿舎があった。
鉄筋コンクリートで建てられた団地のような佇まい。
その宿舎が何千件とあり、中央にある巨大な塔を囲うようにある。
中央の塔を守らせるためだけにある天守国と言う国。
そして、その塔は高さ五百メートルを超えていた。
ジェイルは港から馬車の荷台に乗せられた。
奥に押し込まれるようにジェイルは三人の兵士達と一緒に天守国へと移動していく。
舗装されているため揺れは酷くなかったが、ジェイルの心は悲しみや不安でごちゃごちゃになっていた。
何千、何万という兵士達が天守国を巡回していた。
天守国を巡回していると言うよりも、塔に近付けさせないための徹底された巡回。
その塔こそ、神官達が住む天使聖界。