8章 二十万年の孤独 8話
鍔の近くまで突き刺さった妖魔の剣のグリップを握りしめながらジェイルは悲嘆な思いで打ち震えていた。
すると、何の前触れも無くジェイルと馬がフワッと浮き始めた。
怪しげな妖術にでもかけられたのか? と思ったジェイルだったが、それは違うとすぐに分かった。
ブルンデが飛翔する力を失い、海へと落下し始めていたのだ。
その事に気付いたジェイルだったが、浮いた時にうっかりとグリップから手を放してしまい、手足をばたつかせながらコアの内部の上に張り付くように浮遊してしまうジェイルと馬。
ジェイルは慌てるも、ブルンデの落下するコアの中の遠心力に抗えずにいた。
そして、十秒以上、落下していたブルンデの巨体は海面に叩き付けられた。
その衝撃で四方八方に巨大な津波が現れる。
遠心力を失ったコアの内部ではジェイルは上から落下し、叫び声を上げながら、下のコアへと叩き付けられた。
再び硬いゴムのような弾力に叩きつけられた身体には痛みが走るジェイル。
しかし、自分の身など顧みずジェイルはブルンデの事が気になって仕方なかった。
急いでブルンデに呼び掛けよう、とその痛みを堪え、呼び掛けようとしたその時。
――ザバアァァァン!
突如、ブルンデのコアから入って来た方向から凄まじい轟音がした。
その音は途切れる事なくコアの内部へと近づいていく。
ジェイルはその音の方向に顔を向ける。
生唾を飲み込み警戒するジェイル。
――ドバアアアアァァン!
その方向から現れた正体は巨大な海水だった。
ジェイルの前に津波のような海水が押し寄せて来る。
そして、ジェイルは逃げる間もなく、その海水に飲み込まれてしまった。
水中の中で流されていくジェイル。
必死に藻掻きながら手足をバタつかせるがどうにもならない。
そのままジェイルと馬はブルンデのコアから入って来た方向へと流されてしまう。
「ごめんねジェイル。ボクが最後に君にしてあげられる事が、ただ、ここから出す事しか出来なくて」
誰も居なくなったコアの内部からブルンデが切ない声で喋り出した。
コアから離れ、流されていたジェイルには当然の事ながら聞こえなかった。
しかし、聞こえないはずのジェイルだったが、ブルンデがまだ生きているのではないか? と思い水中の中で溺れながらも、コアへ向け、必死に手を伸ばす。
「ジェイル。さっきは、少し嘘をついたんだ。ボクを殺して欲しかった理由がもう一つあったんだ。ボクを孤独から救って欲しかったんだ。ジェイルとは友達になれたけど、いつまでも一緒にいられる訳じゃないのは痛感する程理解してしまうんだ。常に寄り添い合える友達が欲しかった。やっぱりボクは孤独には耐えられなかったみたいだ」
今にでも泣きそうになるブルンデ。
「それとこれはボクの身勝手な思いだけど、なんでかな、ジェイルなら、幽界の地を救えそうな気がするんだ。――そうかジェイル・マキナ。君は――」
妖魔の剣で突き刺された痛みにより記憶の微かな断片を思い出したブルンデだったが時すでに遅し。
悲しみながら語り続けたブルンデの声はコアに溜まりきった海水により完全に途絶えてしまった。
そして、今自分がどこにいるかも分からないジェイルは横に流されていたはずが、上へと移動していくのが分かった。
一体どこに向かっているのだ? と溺れながら僅かな思考を働かせていた。
息が苦しく意識が無くなりかけようとしたその瞬間。
――ドバアアァン
ジェイルはブルンデの鼻孔から潮を吹きながら勢いよく現れた。
「うわあああぁぁ!」
「ヒヒイィン!」
ジェイルは叫びながら潮と共に宙を舞い、ブルンデから百メートル離れた所で海面に叩き付けられ、海の中に沈む。
しかし、馬は、空中で白い翼を羽ばたかせ、少し飛翔した所で空間を歪ませ異空間へと去って行った。
「ぶはあぁ!」
何とか水中から浮上したたジェイル。
そして、慌ててブルンデの所に方向を向ける。
ブルンデはぐったりした状態で海面に浮かんでいた。
「ブルンデ! おい!」
海水を飲み込みながらも必死にブルンデに呼び掛けるジェイル。
しかし、その声がブルンデに届く事は無かった。
何度も叫ぶジェイルだったが、叫べば叫ぶ程、虚しさと悲しさが込み上げてくるだけだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
八章「二十万年の孤独」はここで終わります。
引き続き書いていきますので是非ご一読してみてください。
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