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1章 地獄の世界 5話

 扉を開けた先は最初に見た地獄の景色と対して変わりは無かった。


 (ほう)(こう)を上げ剣で斬り合い、そして傷つけ傷つけられながら昇天しそうな程、歓喜を叫ぶ地獄の住人達。


 見る人の心を不快感で満たす最悪な光景。


 後ろを振り返り、自分が出て来た建物を目にするジェイル。


 黒く錆び付きながらも、文化遺産を思わせるような異様な牢獄だった。


 サンフランシスコのアルカトラズの刑務所を(ほう)彿(ふつ)とさせるような。


 そんな風に(けい)(かん)していると人相の悪い三人のゴロツキ達がジェイルに近づいて来た。


 「おい、おい、こんな所に、玉無しがいるぜ」


 ジェイルが牢獄から出てきた所を目撃していたゴロツキ共。


 牢獄に居たと言う事は地獄から逃れようとした避難者。それで臆病者だと思われてるらしい。


 下劣な笑みを浮かばせ、ジェイルの前に立つゴロツキ達。その一人がナイフを取り出してきた。


 しかし、牢屋で覚悟を決めたジェイルは(ひる)みもしなかった。


 「どけよ。お前らに用はない」


 「何言ってんだてめえ。ほら、ほら、せっかく牢獄から出て来たんだから一緒に楽しもうぜ!」


 ナイフを手にしたゴロツキの一人がジェイルに凶変して襲い掛かって来た。


 しかし、ジェイルは避けもせず、鋭い眼差しを向け待ち構える。


 そして、ナイフがジェイルの腹部に突き刺さる。


 刺された箇所から快楽が襲ってくる。しかし何故か最初に首を跳ねられた時と違って、その快楽の度合いが以上に上がっていた。


 まるで、刺された腹部が性感帯にでもなったかのようだった。


 「ウッッ!」


 予想を遥かに上回る快楽にジェイルは顔を歪ませる。今にでも足から崩れ落ちそうになる。ゴロツキは刺した力強い手を放さない。


 このままではまずい、と思ったジェイルは、ふとバロックの『恐怖と快楽に打ち勝つんだ』と言う言葉が脳裏を稲妻が走るかのように過った。


 「うおおぉぉぉ!」


 ジェイルは腹部にナイフが刺されたまま、ゴロツキを突き飛ばした。


 ゴロツキは何が起きたか分からないようなキョトン、とした表所で砂利道に腰を打ち付ける。


 「嘘だろ! なんで、快楽で狂ったりしないんだ!」


 もう一人のゴロツキがジェイルの反応に驚愕する。


 ジェイルは腹部に、刺されていたナイフを手にし、力いっぱい抜き取った。 


 「ぐ、う!」


 何とか快楽に耐えたジェイルはそのままナイフを手にし、刺した相手のゴロツキの前にまで、ゆっくりと進む。


 「いいぜ、おら、そのまま俺を殺せよ! 殺してくれ!」


 そのゴロツキは恐怖するでもなく、早く刺して欲しいと言わんばかりの口調だった。


 まるで、野良犬が初めて骨付き肉を目にしたかのような待ち()び方。


 ジェイルはゴロツキに(けい)(がん)の眼差しを向ける。そして逆上していたジェイルはゴロツキを刺してやろう、とナイフを強く握りしめていた。


 しかし、殺してしまうのか、殺してやろうか、と思考がぐちゃぐちゃになっていくジェイル。


 「くそっ!」


 ジェイルは持っていたナイフを地面に、力強く叩きつけた。


 こいつらと同類になりたくない、とジェイルは刺す寸前に、理性を取り戻したのだ。


 「おい! なんでやめるんだよ!」


 ゴロツキは刺されなかった事に、酷く取り乱していた。


 ジェイルはそんなゴロツキの胸ぐらを掴み無理やり立たせた。


 「いいか。俺はお前達とは違う。快楽のためなんかに傷つけられるなんてのはまっぴらごめんだ!」


 ジェイルは怒りを(あらわ)にした表情でゴロツキに言い放ち、そのまま突き飛ばした。


 ゴロツキ達は口をぽかんと開け唖然としていた。ジェイルはそのゴロツキ達の前を堂々と通り、目的のために歩き出す。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

一章 地獄の世界はここまでです。

引き続き次回もよろしくお願いします。

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