8章 二十万年の孤独 6話
ジェイルは眉を顰めながら悩んでいると、ブルンデが語り掛けてくる。
「……本当はね、ボクが傷つけられたあの一件でボクは二度と人間と関わりたくないって思ったんだ。その人だけの事じゃなくても今までここに訪れてきた人はボクの言葉なんて聞かず、ただ生者の血の情報が欲しいだけで、ここまで足を運んできたんだ」
ブルンデは今にでも泣きそうな声をしていた。
そんなブルンデは諦めずに喋り続ける。
「ボクと言う存在はただ生者の血の情報が記された道具でしかないんだ。そう思うと隔離された人生がボクにとっては最適なのかとも思ったんだ。でもジェイルを見ていたら、どうしてもまた友達が欲しいって思っちゃったんだ。ごめんねジェイル。ボクのわがままで怖い思いをさせて。孤独に耐えられなかったボクが悪かったんだ」
「気にするな。こうして俺もピンピンしてるし、お前の助けにもなれたから良いって事よ」
か細いブルンデの声にジェイルは笑って元気付けようとする。
この時のジェイルはブルンデの気持ちに共感していたため、他人のようには感じられなかった。
「ありがとうジェイル。それよりジェイルは生者の血を、一体何に使いたいの? やっぱり生き返りたいの?」
ブルンデの言葉を聞いてドキッとしたジェイル。
「えっとだな。そ、その‥‥‥」
本当の事を言ったらせっかく出来た友達に軽蔑されるのではないか? と思ったジェイルはあたふたしていた。
「言いたくないなら無理に言わなくていいよ。ジェイルの事だから、なにか深海以上に深い訳があるんでしょ? だってジェイルは凄く良い人だもの」
ブルンデの純粋な言葉にジェイルは自分がしようとしている事に罪悪感を感じてきた。何度意思が揺らげば気が済むのか、と自分が嫌になってしまいそうになる。
「なあブルンデ。もし目の前に殺したい程憎い相手がいたら、どうする?」
ジェイルは純粋な心を持つブルンデなら、復讐以外何か別の答えを導き出してくれるのではないのか? と思った。
ジェイルは陰鬱な表情で例え話としてブルンデに聞いてみる事にした。
「‥‥‥難しい質問だね」
ブルンデは少し間を置いて喋った。
そして、数秒沈黙が続く。
「ボクなら‥‥‥何も出来ないかもしれない」
「何も出来ない?」
ブルンデの重い口調にジェイルは真剣な面持ちで小声で同じ言葉を呟く。
「ボクは臆病だから、ただ辛くて、泣く事しか出来ないと思うんだ。今までがそうだったから」
ブルンデの意気消沈した暗い声に、ジェイルは遣る瀬無い気持ちになる。
「でもね、こうやって初めて友達が出来たんだ。辛い事もあれば良い事もある。せめてボクはその良い事のために、耐えられるクジラでいたいんだ」
ブルンデの剛柔な信念にジェイルは思わず陶酔しそうになってしまう。
「お前、優しいな」
涙しそうになったジェイルは手で目頭を押さえる。
「ああ、ごめんね。泣かせるつもりは無かったんだ。ただ、ジェイルの励みになれたら良いなって思って」
ブルンデはあたふたしながら、ジェイルを慰めようとする。
ジェイルはその言葉に素直に耳を傾け、泣くのを堪えた。
「大丈夫だ。ありがとな」
「うん!」
ジェイルの感謝の言葉にブルンデも喜んでいた。
「ジェイル。どうしても君に、お願いしたい事があるんだ」
唐突にブルンデがそう言うと、場の空気が一変するように重苦しく感じたジェイル。
「急にどうしたんだ?」
「ボクを‥‥‥殺して欲しいんだ」
その衝撃な言葉にジェイルは言葉が出て来なく、口をポカンと開けていた。
「おいおい、そんな冗談はよせよ」
冗談だと思い空笑いを浮かべるジェイル。