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8章 二十万年の孤独 4話

 どうやら怪我は無さそうだ、と思いホッとしたジェイル。


 ジェイルはこのまま突っ立っていても仕方ない、と思い出口の口内でも探そうとブルンデの体内を歩く事にした。


 馬の手綱を握りながら慎重に歩いていくジェイル。


 この先は出口なのか? それとも更にブルンデの体内の奥に進んでいるのか? と不安になっていくジェイル。


 どうか出口であってくれ、と願いながら更に奥へと進んで行く。


 進んで行くと紅色の体内が、先程以上に強く脈打っていた。


 もしかしたら心臓が近いのか? と思ったジェイル。


 この先に進んでいいものか、その場で足を止め悩む。


 「お願い。そのままこっちに来て!」


 突如、ブルンデの体内からジェイルに呼び掛ける声が響き渡る。


 幼い少年が切なそうに語り掛けてくるような声が心臓付近と思われる場所から聞こえてくる。


 困惑するジェイルだったが、その声に邪気が感じられない事と切実な助けでも求めているかのような感じがジェイルの心に届いていた。 


 その声の主の言葉に応じ、ジェイルは不安な面持ちで心臓と思われる場所に歩き出してみた。


 少しすると、心臓と思われる場所に辿り着いたジェイル。


 ドクン、ドクンと脈の打ち方が一番激しく、真っ赤な色で、風船を膨らませたような形をし、高さと幅が丁度五十メートルぐらいだった。


 辺りを見回し先程の声の主を探してみるジェイル。


 ジェイルはその正面に奇妙な違和感を感じた


 それにゆっくりと近づく。


 心臓の内部の奥に文字が刻まれていた。まるで肉片の一部を抉り取ったような傷跡の文字。一文字一文字が拳サイズ程の大きさだった。


 ジェイルは大きく目を開き、その刻まれている文字を朗読する事にした。


 『(せい)(じゃ)の血を求めし者よ、(なんじ)にその秘密を教えよう。生者(せいじゃ)の血とは文字通り、生きた人間の血の事を示す。その血は本来、死者を現世へと復活させる』


 それを見たジェイルは自分が探している情報と違う事に落胆(らくたん)し始める。


 しかし、まだ続きがあった。


 『生者(せいじゃ)の血を死者の体内へと心から救済したいと願い注ぎ込めば、その死者は復活する。しかしその血は持つ者の(ぞう)()によって、魂すらも消し去る邪神(じゃしん)の血へと転換する。どうか生者(せいじゃ)の血を手にした者よ、汝の心の片隅(かたすみ)無垢(むく)な心の断片がある事を願う。そして生者の()(たい)を探したくば神の心に寄り添うか(てん)使()(かい)に住む穏健達の……』


 右から左へと朗読していたが途中から文字に酷い傷跡があり読めなくなってしまった。途中まで朗読したとは言え、まだかなりの文字が残っているようにも思える


 その傷によく近づいてみると、ただ単に傷がつけられていると言うよりも文字の上から鋭利な刃物で傷付けたような感じだ。


 何か悪意のような物すらも感じる。


 もっとよく調べてみようとジェイルはその傷痕に触れてみようとした。


 その時。


 「――ダメ! 触れないで!」


 先程の少年の声が心臓の内部で響き渡った。


 ジェイルは寸前で触れる手を止め身体をビクンと跳ね上がらせた。


 何事か、と思いジェイルは辺りをキョロキョロと見回す。


 「驚かせてごめんね。ボクはクジラのブルンデ。そのキズには嫌な思いでがある感じがして、触られたくないんだ」


 幼い声で喋るブルンデにジェイルは戸惑う。


 (くじら)が喋るなんて信じられない。


 しかし、喋らないと言う訳にはいかず、ジェイルは戸惑いながらも心臓の上を見上げながら語りだす事にした。


 「そ、そうか。それは悪かったな。俺はジェイル・マキナだ。よ、宜しくな」


 「マキナ? ‥‥‥あれ、どこかで聞いたような。あれ、あれ――」


 ブルンデは何かを思い出そうとしながら、(おう)(のう)しているかのよう感じがジェイルに伝わってきた。


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