8章 二十万年の孤独 3話
そして、一発の発砲音が鳴ると、一人の兵士のヘルメットにに当たる。
「うわああぁー!」
ヘルメットに当たった弾の衝撃で海に落ちて行く兵士の一人。
「おのれ!」
それを見た隊長が逆上しガーウェンに向け一発の弾丸を撃つ。
「うっ!」
その弾丸はガーウェンの肩に当たり、ガーウェンは顔を歪ませる。
「ガーウェン!」
振り向きながら見ていたジェイルは思わず声を上げる。
「いいからそのまま行け!」
ガーウェンはそう怒鳴ると、旋回し兵士達に突撃する。
ガーウェンは剣を抜き、正面から撃ってくる弾丸はガーウェンの頬や身体を掠っていく。
そして、兵士達を横切る時、剣を振るう。
一人を斬ると、乱雑に列を組む兵士達の間に入りながら立て続けに剣を振るい、一人、また一人と斬っていき、海へと落としていく。
それを見たジェイルは、悔しく情けない気持ちで奥歯を強く噛みしめ、ブルンデの所に向かう。
そして、ブルンデと同じ高さに着くと改めてブルンデの巨体に驚くジェイル。
しかし、生者の血の情報がブルンデにあるような事をアランバは言っていたが、一体どこにあるのか? と今になって困惑するジェイル。
取り合えずブルンデの体表に何か書かれているのではないか? と思ったジェイルだが、ここまで巨大な鯨だとそれを探すのも一苦労だった。
ジェイルはブルンデの横に並び体表を注意深く観察する。
そして、ブルンデの顔に近づいた時だった。
「ブオオオォォー!」
ブルンデのくりっとした目線がジェイルに向けられるとブルンデは口を大きく開き咆哮のような鳴き声を上げてきた。
ジェイルはすくみ上り、思わず馬に身体を持たれる。
すると、ブルンデは大きく息を吸い込み始めた。
その凄まじい吸引力に馬は完全にバランスを崩した。
ジェイルも手綱と和竿を握っている手をその時に放してしまい、馬と一緒にもんどりうってブルンデの口の中に吸われていく。
「うわあああぁぁー!」
絶叫するジェイル。
そして、ジェイルと馬はブルンデの口から体内に吸い込まれてしまった。
見えてたはずの光は暗闇へと一変する。
何も見えないままジェイルは絶叫しながら分厚いゴムのような塊に身体全体が叩き付けられた。
全身打撲でも受けたような痛みに耐えながら呻くような声で起き上がるジェイル
身体に張り付く粘っこい液体にジェイルは気持ち悪くなり不快そうな顔をする。
まるで胃液のようにも思える異臭が微かにする。
そして、辺りを見回してみるが暗闇しか見えない。
ジェイルの近くで馬が取り乱したような鳴き声を上げていた。
このままでは暗くてはどうする事も出来ない、と思い困りながら慌てる仕草をするジェイル。
嘶く声がする所に向かおうとも思ったが、無暗に近づけば何が起きるか分からない。
そんな風に立ち往生していると、ジェイルの足元がぼんやりと虹色に光り出した。
そして、その紅色の光は瞬く間にブルンデの体内全体にまで行き届く。
ジェイルは鯨の体内とは思えない光景に仰天する。
楕円上の空間で幅と上の高さは二十メートル前後と言う感じだった。一定のリズムでトクン、トクンと脈打つ肉の壁。
しかし、いくら辺りが照らされてもどこに移動すればいいか分からないジェイル。
馬が転倒しているのを知ったジェイルは取り合えず馬の元に駆け寄り馬を立たせた。
そして、馬はジェイルの顔に頬ずりしながら元気よく嘶く。