8章 二十万年の孤独 2話
「このままじゃまずいぞ⁉」
「大人しく待ってろ。ニイナはこの事も計算済みだ」
動揺するジェイルだがガーウェンは冷静だった。
そして、三十メートルで激突する寸前だった。ジェイル達が乗馬している馬の帯径からなんの前触れもなく、一瞬にして白い翼がバサッ、と生えた。
突然の事に驚いたジェイル。
そして、ジェイル達の馬は疾走しながらその白い翼を羽ばたかせ、階段でも上るかのように大空に向かって飛翔する。
前方で突撃してきた兵士達は驚きながら馬の手綱を強く引き馬を止める。
「すげー、飛んでるぞ」
時空を移動し、翼まで生やし飛翔する馬。
ニイナは移動手段だけでなく兵士達が待ち構えている事も計算してこの馬を用意してくれたんだ、と痛感したジェイル。
しかし、馬が飛翔するのにはもう一つ訳があった。
そもそもその訳が一番重要だった事に、この時のジェイルは夢にも思わなかった。
「ジェイル、あれを見て見ろ」
その最大の訳に今気付いたのか、それとも最初から知っていたのか、ニヤリと笑みを浮かべるガーウェンはその方向に指を差す。
その差した指の先は地上からかけ離れた遥か大空。
大空に謎の巨大生物はヒレと尾羽をゆっくりと動かし浮遊している。
徐々にその巨大生物に斜め上から近づいて行くと、その正体は目を疑う程の巨大な水色の鯨だった。
地上から二千メートルに位置する巨大な鯨。
その大きさは体長二百メートルを超えている。
「あれがブルンデだ」
ブルンデに近づきながらガーウェンがそう言った。
「奴らを逃がすなー! ここで仕留めろ!」
何故か先程の隊長の男の野太い声が近くで聞こえてくる。
まさか、と思ったジェイルは後ろを振り向いてみると、先程の隊長を先頭に乱雑な列を組み乗馬し、隊長を合わせた三十人の兵士達の馬も翼を羽ばたかせジェイル達に向かい猛進してきていた。
驚きギョっとするジェイル。
ジェイルは馬を更に速く疾走させよう、と片手で握っている手綱を強く振るった。
馬はそれに応えるように鳴き声を上げ加速していく。
だが、兵士達の馬も同じく加速しジェイル達との距離を徐々に詰めていく。
ジェイル達は二人乗りをして分、スピードも一人乗りで乗馬している兵士達とでは違いが出てしまう。
その事に気付いたジェイルの額からは冷や汗が止まらない。
「ジェイル。お前はそのままブルンデの所に行け!」
ガーウェンは険しい表情でそう言うと、馬の腰に足を置きしゃがんだ体制になる。
そして、斜め上から向かってくる乗馬している一人の兵士に狙いを定め、ガーウェンは勢いよく飛び降りた。
「うあぁぁー!」
向かってくるガーウェンに兵士の一人が悲鳴を上げる。
ガーウェンは蹴りのポーズを取り、兵士のヘルメットをそのまま踏みつけるように蹴った。
「ああああぁぁー!」
蹴られた兵士は悲鳴を上げながら海に落ちて行く。
ガーウェンは透かさず兵士が手放した手綱を掴み、バランスを崩しながらも兵士の馬にしがみ付いた。
そして、馬が飛翔したままなんとか姿勢を整え乗馬できたガーウェン。
兵士の馬を奪ったガーウェンは哄笑しながら残りの乗馬して向かってくる兵士達に振り向いた。
「おのれ許さんぞ!」
ガーウェンの挑発に乗った隊長は兵士達を引き連れてガーウェンに狙いを定めてきた。
それに気付いたガーウェンはジェイルから兵士達を遠ざけよう、と斜め上に向かう馬を横に移動させ、兵士達を引き付ける。
「総員、銃を構えろ! あの男を撃ち落とせー!」
隊長の指示に兵士達は馬の首に付けられているホルスターからピストルを抜き取りガーウェンに目掛け一斉に発砲してきた。
ガーウェンは馬を左右に何度も曲がらせ弾丸を躱していく。
そして、ガーウェンも馬の首に付けられているホルスターからピストルを抜き取り後方にいる兵士の一人に狙いを定める。
五感を研ぎ澄ませ、片目を閉じ意識を集中させるガーウェン。