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8章 二十万年の孤独 1話

 馬は()竿(ざお)でぶら下げた地図を見ながら目的地へと疾走して二分が経った頃だった。


 ジェイルはやはりこのペースではブルンデの所に辿り着くのに数百年は掛かり、途中で餓死してしまうのでは、と不安になってきた。


 「なあガーウェン。俺らこのままじゃ餓死するぞ。途中で食い物でも探してくるか?」


 ジェイルは思った事をそのまま口にした。


 「安心しろ。その内その時は訪れる」


 ガーウェンの意味深な言葉に首を傾げるジェイル。


 そして、更に二分後、目の前に森林があった。しかも樹木(じゅもく)が密集し、馬一頭分も通り抜ける隙間が無い。


 「おい馬! このままじゃぶつかっちまう! ()(かい)しろ!」


 ジェイルの(しょう)(そう)の声など馬に通じる訳もなく、馬はただひたすら真っすぐ疾走する。


 ジェイルがもう駄目だ、と思ったその時、馬からぼんやりと(たん)黄色(こうしょく)の光が放たれてくる。その(たん)黄色(こうしょく)はジェイルとガーウェンを優しく包み込む。


 そして、前の空間がぐにゃりと歪み始めた。


 ジェイルはただ事ではない、と思い大きく目を見張った。


 馬とジェイル達を包み込んだ光は樹木(じゅもく)にぶつかる直前に空間の歪みに飲み込まれるように消えた。


 そして、ジェイル達は異空間にいた。世界と世界を繋ぐパイプのような異空間。


 周りはいくつもの白と青の色が交互に重なる無数の集中線が広がっていた。


 辺りを見回し内心感動するジェイル。


 まるで童心の頃、初めて木漏れ日でも目にしたかのような感覚。


 (すん)()その集中線の中を馬が疾走していると前方に眩い光が放たれてきた。


 その光の中に入ると、ジェイルの目もその光に囚われる。


 思わず顔を伏せるジェイル。


 そして、目の前の光が消えた先はいくつもの大小のある岩がある荒野だった。


 天候も夜と違いオーロラで覆われた晴天とした大空が広がっていた。


 馬は空間と言うより時空を超えたのだ。


 それを目にしたジェイルは驚いて辺りを見回した。


 これでブルンデの所に着いたのか? と周囲をくまなく見渡す。


 前方にはどこまでも続く壮大な海も見えるがブルンデの姿は無かった。


 だが無数の岩の奥、海域の前に乗馬している何かがいた。


 「おい! あそこに侵入者がいるぞ!」


 突如、岩陰から姿を現してきたのは(てん)使()(かい)の兵士達だった。


 どうやら海域とその近くの荒野を封鎖している様子だった。


 岩陰から出て来た兵士達二十人は海域の前で横に並び槍を構え、守りの陣形を取った。


 「奴らを海域に近付けるな! 必要とあらば殺す事も許可する!」


 海域の前で乗馬している赤いプレートアーマーの男が野太い声で鬼気迫るかのように叫び出す。


 隊長クラスの兵士だ。


 その近くには三十人の兵士達が乗馬して隊列を組んでいる。


 慌ただしい隊長の言動にただ事ではないと実感するジェイル。


 しかし、荒野には守りの陣形を取る兵士達や乗馬している兵士達以外、何もいない。


 海域の波も穏やかで特に変わった所は無かった。


 そんな風にブルンデを探している間に海域の前で乗馬している兵士達が剣を掲げ雄叫びを上げてジェイル達に向かって疾走してくる。


 このままでは激突し地面に叩きつけられ馬に()かれて死ぬか、兵士達に剣で斬られて殺されるかの二択がジェイルの脳裏に過る。


 運よく切り抜けたとしてもそのすぐ後ろには二十人の兵士達が守りの陣形を取っている。


 慌てるジェイルは呑気に馬の前で地図を垂らしている場合ではない、と思い()竿(ざお)を手放そうとした。


 「待てジェイル! そのままでいろ!」


 背後にいるガーウェンが()竿(ざお)を握っているジェイルの手を掴み取ってきた。


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