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7章 思わぬ邂逅 14話

 そして、目的地の高原に向かい歩き出すジェイルとガーウェン。


 もう少しで着くと言う所でジェイルは気に掛かっていた事が、ふと脳裏を過った。


 「お前の剣ってかなりの切れ味だよな?」


 プレートアーマーすらも貫通するガーウェンの剣についてだった。


 ジェイルのようにアランバに創造してもらったのかが気に掛かっていた。


 軽い雑談程度で聞いてみたジェイルだったが、先導して歩くガーウェンはどことなく気鬱な表情をしていた。


 「これは俺の愛刀だ。この世に二つとないな」


 覇気の感じられないその切なそうな声を聞いたジェイルは「そうか」と一言で済ました。触れられたくない過去にでも触れてしまいそうな気がしたからだ。


 そこから数分後、何とか無事に目的地である高原に辿り着いた二人。


 すぐ近くにナイラの町はあるが、ここまで来れば警備の目も届かないだろう、とジェイルはホッとし、ふと空を見上げてみた。


 虹色の星や白く光り輝く星が波のような模様の光り輝くオーロラに散りばめられていた、


 どれだけお金をつぎ込んでも手に入れる事の出来ない空の造形に心奪われるジェイル。


 人間達はこんなにも黒く、くすんでいるのに、自然は逆で表面通り綺麗な色だ。


 「なんでこうも違うんだろうな」


 空を見上げながら呟くジェイル。


 「何がだ?」


 隣にいたガーウェンが首を傾げる。


 「人間と自然の違いだよ。自然はこんなにも()(れい)なのに、人間はいつまで経っても(みにく)いままだ」


 「そんなのは持って生まれた物だからとしか言えないな。人間には心があり、必ずそこには善と悪がある。どれだけ表面上を装っても決して心の不純物を除去できない人間の汚れた色と、心も意思もない外観通りの(まばゆ)い自然の色とじゃ天と地ほどの差があって当然だ」


 ガーウェンも空を見上げながら遠い目をしながら語る。


 「ま、実際、心や意思も抜けきった人間なんて(あわ)れなもんだ。奴らを見ていたらつくづくそう思う」


 それは恐らく、地獄で廃人化した人間と(てん)使()(かい)の人間が(かい)(らい)とされた二つの事を指した言葉だろう。


 ガーウェンはあっけらかん態度でジェイルにそう言う。


 ジェイルは複雑な面持ちでガーウェンに目線だけを向け何も語らなかった。


 「うわああぁぁー!」


 すると、急にナイラの町から男の野太い叫び声が高原にまで響き渡った。


 ビクンと身を跳ね上げ何事か、と思いジェイルはナイラの町に注意深く目線を向ける。


 そこからナイラの町の光から照らされた小さい黒いシルエットが見えて来た。何かを引っ張っているようにも見える。


 それは徐々にジェイル達に近づいてくる。


 「ヒヒーン」


 そこから聞き覚えのある動物の鳴き声がしてきた。


 「待たせたね。お待ちかねの脚だよ」


 シルエットの正体はニイナだった。


 ニイナはハミから結ばれた手綱を手にした馬を連れて来た。


 それと何故かは分からないが、もう片方の手には()竿(ざお)を手にしていた。


 「それは何に使うんだ?」


  ジェイルはブルンデの所に行くまであの馬と()竿(ざお)は一体なんのために使うのか? と首を傾げる。


 「ほんと鈍い男だねえ。この馬に乗ってブルンデの所にまで行くのさ」

呆れる様子のニイナ。


 「ちょっと待てよ。五百年も掛かる道のりを馬で走らせても百年も(たん)(しゅく)されるかも分からないんだぞ」


 「乗れば分かるよ。さあ、早く乗りな」


 馬に乗れと()かすニイナに、ジェイルは不安を抱えたまま馬に乗る。


 ガーウェンもジェイルの後ろに乗り出す。


 するとニイナは()竿(ざお)の糸を少し垂らし、その糸の先端にクリップを結びつける。


 「坊や、ブルンデの地図を貸しな」


 「あ、ああ」


 片手を伸ばしてくるニイナにジェイルは何に使うのか疑問に思いながら、地図を手渡す。


 ニイナは地図をクリップに挟み()竿(ざお)をジェイルに手渡してきた。


 「そいつを馬の前に垂らして(しっ)()させな。それでブルンデの所にまで行けるよ」


 「もしかしてさっき言ってた鍵ってこの事だったのか⁉」


 鍵とは言えない、何世代前のギャグのような移動手段にジェイルは驚いた。


 「イヒヒヒヒ、そうさ。鍵なんて言う()(てい)(がい)(ねん)に縛られてるようじゃ、こんなのは想像つかなかったろ?」


 自慢げに語るニイナに、ジェイルは本当に大丈夫なのか? と半信半疑だった。


 「にしてもこの()竿(ざお)、何か赤い液体が付いてるが、これもブルンデの所にまで(しっ)()するのに必要なのか?」


 よく()竿(ざお)を見てみると赤い液体が付いていた事に首を傾げるジェイル。


 「それはさっき(いき)()いていた隊長を殴った時に付いた、ただの血さ」


 ニイナからそれを聞いたジェイルは顔をしかめながら、和竿を少し距離を置いた。


 「とにかくさっさと行きな。さっき騒ぎを起こしちまったから、ここに兵士達が今すぐ来てもおかしくないよ」


 ニイナは手で払いながら行くように()かしてきた


 「ああ分かった。ありがとな。ニイナ姉さん」


 なんだかんだ言っても、ここまで親切にしてくれたニイナに感謝の気持ちを伝えるジェイル。


 そして、地図を馬の前に垂らすジェイル。


 それを確認したニイナは何故か馬の背後に回る。


 「それからそこのクソッたれ。さっさとくたばっちまいな!」


 ニイナは辛辣な口調でガーウェンのお尻を強く叩く。


 その衝撃で馬は前足を大きく蹴り上げ鳴くと疾走した。


 「じゃあな()婆擦(ばず)(きょ)(かん)(おんな)! あのクソ爺と好きなだけしこたまやってろ!」


 ガーウェンは身体を後ろに(ひね)り笑みを浮かばせながら叫びニイナに向け中指を立てていた。


 ニイナも負けじと眉間に皺を寄せ中指を立てる。


 ジェイルは呆れてため息しか出なかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

七章「思わぬ邂逅」はここで終わります。

次回からも書いていきますので、是非ご一読してみてください。

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