7章 思わぬ邂逅 13話
すると、ガーウェンは余り距離を置かず、兵士達を待ち伏せする。
「訂正しよう。貴様が何者か名乗る必要はない。この場で斬り伏せる」
先程のガーウェンの挑発のせいか、兵士達はかなりご立腹のようだった。
ガーウェンは兵士達の気迫に臆する事無く冷笑しながら後ろへ二歩引く。
兵士達も警戒しながら剣の切先をガーウェンに向けゆっくりと二歩歩く。
すると、兵士達の背後から音も無く近づく一人の影。
その影の者は決死の覚悟で手にしている剣で一人の兵士の心臓を背後から貫いた。
「うぐっ!」
「な、貴様は!」
心臓を貫くジェイルに振り向き驚愕する兵士。その隙を突いて今度はガーウェンが瞬時に剣を抜きもう一人の兵士の背後から心臓を剣で貫く。
「がはっ!」
ジェイルとガーウェンは兵士の心臓に突き刺していた剣を抜き取ると兵士達は地面へと倒れた。
「やるじゃねえかジェイル。これで童貞は卒業出来たな。だがあっちの童貞はまだなんじゃねえか? アハハッ」
人一人を殺してもガーウェンはジェイルを称賛し揶揄する余裕があったがジェイルはそんな言葉など無視していた。
高鳴る心臓の鼓動が嫌でも耳に伝わってくる。殺めていないようで殺めた矛盾の結果がジェイルの心に生暖かく不快な吐息でも吹き掛けられたかのような感覚がしていた。
ジェイルは俯き首を何度も左右に振り気を紛らわせる。
そして、兵士達二人は剣やプレートアーマーと共に黒紫色の炎に焼かれ灰となり消えていった。
命が地獄に落ちる(ライフヘルドロップダウン)の烙印が刻まれた兵士達は地獄へと落ちていく。
その光景を目の当たりにしたジェイルは重々しい深いため息を吐いた。
こんな事を繰り返していたら本当に人ではいられなくなるかもしれない、とジェイルは深く考え込んでしまう。
ジェイル自身、一度の復讐さえ果たしたいだけだった。それ以外は感情的になり剣を振った事もあるが、やはり罪悪感は否めない。
そんなジェイルを見兼ねたガーウェンはジェイルの腹部を軽く殴った。
「おふっ、いきなり何すんだよ?」
ジェイルは正気を取り戻しガーウェンに訝しい目を向ける。
「復讐ってのは、はっきり言ってしまえば罪人だ。お前はこれから成す事は今地獄に送った兵士以上の罪を背負う事になる。その理由は言わなくても分かるだろ?」
ガーウェンはジェイルに向き合おうと真っ直ぐな視線を向ける。
そして、ジェイルはガーウェンが何を言いたいかは概ね理解していた。
今の兵士達は死んでも地獄で蘇る。それに対しジェイルの復讐である対象者は生者の血を悪意で行使されれば散り一つ残さず抹消してしまう。
たとえそれが復讐のために悪意を持って行使しても、畢竟罪人であることに変わりは無い。
ジェイルはその事を十分に理解していたはずだ。しかし、実際に人に一時の死を与えた後だと、その重圧は想像を絶していた。過去にヨシュアに「人殺しは人殺しだ」としかり飛ばしていたが、その言葉はジェイル自身の心にも痛みを残していた事に気付く。
ジェイルは俯き奥歯を噛みしめ、己の覚悟に再び問いかける。
「それとも今殺した事で復讐心が満たされたなら地獄に戻るか? そこで快楽に明け暮れる第二の人生を送るのも一つの手だぞ?」
ガーウェンなりの気づかいか、それともジェイルを鼓舞させているのか分からないが、その言葉には優しさが感じられた。
「……このまま進む」
下唇を軽く噛みながら再び決意したジェイル。
「よし。なら行くぞ」
ガーウェンはどことなく嬉しそうな表情をしていた。